まるで知らない他人の庭に足を踏み込んだ思いだった。私にとってはまるで縁遠いカウンセリングについてのお話を聴いた。講師のお話や指示に終始戸惑いながらの90分間だったが、それなりに得るものもあった講演だった。
昨夕(7月9日)、道立道民活動センターのかでるホールにおいて「北海道家庭生活総合カウンセリングセンター」創立60周年記念一般公開講演会に参加した。
講演は「ロジャースを再考し今に生かす~ほんものの深い傾聴を学び直す~」と題して、明治大学教授の諸富祥彦氏が講師を務めた。
諸富氏は冒頭にいきなり「はい。皆さんお立ちいただき、周りの方4人で輪を作り、手を繋いでください」と指示した。戸惑いながら指示に従い、周りの3名の女性とサークルを作った。そして次の指示に従いお互いに自己紹介をした。すると、私が門外漢の参加者であることが判明した。3名の女性は全てカウンセリングボランティアをされている方で、私に対して「えっ?カウンセリングをされている方じゃないんですか?」と問われた。どうやら一般公開講演会と謳いながらも受講者の大半はカウンセリングの関係者だったようだ。
諸富氏は臨床心理学などの研究者であると共に、現役のカウンセラーとしても活動されている全国的にも著名な実践者のようだ。
諸富氏の主張は、カウンセラーは徹底してクライアント(相談者)に “寄り添う” ことの重要性を説き続けたことだ。クライアントがカウンセラーを信頼することによって、初めてクライアントはカウンセラーに心を開く。そこからカウンセリングは始まるということのようである。
そうした考えに至った背景は、アメリカの心理学者カール・ロジャースの主張に出会ったことだという。そこでロジャースについてちょっと調べてみた。それによると、ロジャースはカウンセリングを数多く行う中から「人は誰しも、自分がどうありたいかという自己概念と現実世界で経験することの食い違い(「不一致」と呼ばれる)に悩んでいるものである。この食い違いの度合いが大きくなると、不安定な状態や問題行動につながりやすくなると考えられる。そこで、個人の価値観や意義を認め、クライエントの自己成長力を信頼するという、ありのままを受容する考え方により、クライエントも自身を尊重して価値あるものと理解できるようになる」と考えたそうだ。
諸富氏のお話は、まさに徹底してロジャースの主張を実践してきた方のようである。諸富氏講演は“講演”というよりは、クライアントへの語り方を具体的に壇上から私たちにカウンセリング場面を見せて(聞かせて)いるようなものだった。
よくカウンセラーに求められるものの第一は “傾聴”だと云われている。その“傾聴”を徹底することこそが何よりのカウンセリングにおいては重要であるということのようである。
私がこれからカウンセリングを志すとしても、その資質はないし、時間もない。しかし、日常の肉親や友人との会話の場面において、“相手の話に耳を傾ける”ことの大切さを学んだような気がしている。相手の話を“傾聴”することによって、相手からも信頼される存在になるということを改めて教えられた講演会だった…。