ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

ベンチャーキャピタリスト話のイントロです

2010年05月24日 | イノベーション
 今回は、やや小難しい話です。でも、近未来の日本が国際市場でどうやって稼いでいくかを考えると、とても重要な話です。新規事業、新産業振興をどうやって実現していくかという仕組みとして、米国のようにベンチャー企業を起点に新規事業をつくり、新産業振興を図ることが有力なやり方と考えています。

 例えば、先日、ある音楽CDをCDショップに探しに行ったのですが、もう売り切れて入手できないとのことでした。そこでAmazonサイトで調べたら、まだ売っていたので購入できました。このほしいモノが簡単に買える便利な事業は米国のAmazon.com(ワシントン州)が実用化したものです。同社も元ベンチャー企業です。当初はインターネットシステムを基にした書籍の“通信販売”事業を始めました。今は、多様な製品を販売しています。こうした新しい販売事業のやり方をいち早く実現することと、また物流センターなどのシステム投資額を確保することは大変だったと思います。

 さて、ベンチャー企業が新規事業を始める時に運営資金を提供する「ベンチャーキャピタル」(Venture Capital、略称VC)という組織、あるいは「ベンチャーキャピタリスト」という職業について、どの程度ご存じでしょうか。お友達やお知り合いにベンチャーキャピタルにお勤めの方はおられますか。日本では、新聞や雑誌、Webページなどで名称は知っていても、実際にどんな仕事をしているのかをご存じの方はあまり多くないと想像しています。

 私も「産学連携」を取材するようになって、初めて知ったり職種の一つです。ベンチャーキャピタリストが使う言葉は「イグジット」「ハンズオン」などのカタカナ語(本当は米語)が多く、最初はチンプンカンプンでした。仕事内容の説明も基礎的なことを知らないため、理解しにくかった記憶があります。周りの同僚もベンチャーキャピタリストの仕事の内容を具体的に知っている人は少なかったと思います。

 少し調べてみました。例えば、村上龍氏が2010年3月25日に上梓した「新 13歳のハローワーク」(幻冬舎発行)をパラパラとみても、ベンチャーキャピタリストの記述はありませんでした。


 この単行本は、中学生に職種をわかりやすく説明してベストセラーになった「13歳のハローワーク」の続編です。中学生向けには、ベンチャーキャピタリストは特殊な職業と判断し、説明が必要な上位には入らないと考えたようです。

 ベンチャーキャピタリストは比較的新しい職業です。分野横断型の幅広い知識を必要としながら、ある部分は専門性が強く求められる高度な専門職です。このため、仕事内容を分かりやすく説明するのが難しい職種です。大人にとっても、仕事面でのつながりがないと表面的な理解で終わってしまう、あまり馴染みがない職種です。私も10年前は、例えば「融資」と「投資」の違いを知りませんでした。金融面での根本的なことを知らないと、ベンチャーキャピタリストの仕事内容を理解するのは予想以上に難しいです。

 そこで、Webサイト「Wikipedia」で調べてみました。Wikipediaによれば、「ベンチャーキャピタル(Venture Capital、略称VC)とは、ハイリターンを狙ってアグレッシブな投資を行う投資会社(投資ファンド)のこと。その仕事内容は、高い成長率を有する“未上場企業”に主に投資することだ。投資と同時に、投資先ベンチャー企業などに経営コンサルティングを行い、投資先企業の価値向上を図る」――などと説明されています(原文の文章をいくらか修正しています)。結構、小難しい内容です。

 ベンチャー企業は将来、こんな新規事業が成立するだろうと考えたイノベーター(起業家)が設立します。一般の方が想像もしなかった新しい事業を思いつき、ベンチャー企業をつくります。例えば、インターネットが現在、これだけ普及したのは、「ブラウザー」という“閲覧”ソフトウエアの普及版(だれでも使えるもの)を開発し、多くのWebユーザーに受け入れられたからです(正確にはWorld Wide Web(WWW)、つまり現在ご覧になっているWeb(ウェブ)を普及させたのですが、説明が小難しいので省略します〕。

 そのブラウザーソフトウエアを最初に事業化したのは、ネットスケープ・コミュニケーションズ (Netscape Communications Corporation、カリフォルニア州) という米国のベンチャー企業です(設立時の社名は違います)。1994年4月設立され、事業を大発展させ、有名になり、1998年に米国のAOL(現AOLタイムワーナー)に買収され、社名が消えました。多くの方がたぶん忘れてしまった企業です。経営陣がIPO(新株上場)で稼いだ金額は巨額です(IPOとは何かをあまりご存じない方は巨額を稼いだことに着目してください)。

 同様に、米国のシスコシステムズ(Cisco Systems, Inc、カリフォルニア州)はコンピューター・ネットワーク機器を普及させた元ベンチャー企業です。1984年に設立され、「マルチプロトコルルーター」を最初に商業的に成功させた会社です。

 ベンチャー企業は独創的な発想に基づく構想によってつくられます。問題は、創業直後は運営資金を持っていないことです。現在は普及していない製品やサービスを開発し、事業化するには優秀な研究開発者を雇い、新規事業を企画する優れた経営者やプロジェクト・マネージャーなどを雇う必要があります。人件費と研究開発費などを数年分確保しないと、そのベンチャー企業は活動を続けられません。こうしたベンチャー企業に運営資金を投資するのが、ベンチャーキャピタリストなどです(「など」には深い意味がありますが、これはいずれ後で説明させていただきます)。

 ここまで長いイントロを述べてしまいました。
 ベンチャー企業をつくり、新規事業が成り立つように努力している起業家の経営陣は寝食を忘れて精進します。似たような発想で、別の起業家がその新規事業を実現するかもしれないからです。日々の決断が大事なのだそうです。以前に、日本の大企業からスピンアウトしたベンチャー企業を経営している方は「前の企業では、大きな決断を経営陣に仰ぐ必要があり、決定に時間がかかりすぎた。スピンアウトして良かったのは、自分たちで即断即決できる点だ」と言っていました。

 こうした寝食を忘れるほど新規事業起こしに専念しているベンチャー企業の経営陣(起業家)に、ベンチャーキャピタリストは運営資金を投資します。まだ価値が付いていない未上場株などを交換に受け取りながら、一般的に数千万から数億円を投資します。数百万円のこともあるようです。投資する前から、外部の専門家として冷静な視点で事業計画などを助言します。どうしたら事業が成立するか、利益を上げられるかを支援します。毎日多忙なために、見落としてしまいがちなことまで助言します。ベンチャーキャピタリストは投資先企業が新規事業起こしに成功してもらい、未上場株が価値を持つようにします。

 このため、起業家とベンチャーキャピタリストはお互いに信用できるかどうかを慎重に判断します。少し前まで赤の他人だった者同士が呉越同舟(ごえつどうしゅう)の運命共同体になれると信用し合うことが重要です。元々、我々は一人では新規事業を起こせません。同士と思える人間が集まってベンチャー企業をつくります。気の合うメンバーによるチームづくりが出発点になります。
 
 次回は、独立系ベンチャーキャピタルのベンチャーキャピタリストとお目にかかった話を展開します。