報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「マリア達と再会」

2017-05-19 19:09:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月10日11:45.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 タチアナの家]

 タチアナ:「よお。イリーナの所の日本人じゃないか。えーと、名前は……」
 稲生:「稲生です。稲生勇太」
 タチアナ:「そうだそうだ。ナニかが勇ましくて太いヤツだった」
 稲生:「え……?ま、それより、ワンスターホテルのオーナーさんからここに行くように言われて……」
 タチアナ:「ああ、聞いてるよ。この奥に魔界の入口が開いてる。行き方は分かるね?」
 稲生:「はい」
 タチアナ:「それじゃ、気をつけて」

 稲生は店の奥に進んだ。
 表向きはVIPルームということになっているが、はっきり言って不自然だ。
 要は魔界の入口の蓋となっている魔法陣があるだけのこと。
 稲生は魔法瓶に水を詰め、魔法陣の上に立つと魔法瓶の水を振り掛けた。
 すると魔法陣から青白い光がボウッと浮かび上がって稲生を包み込んだ。
 光に包み込まれた稲生は一瞬、眩しさに目を閉じた。

[魔界時間4月10日11:45.天候:雨 魔界]

 稲生:「……!?」
 マリア:「ユウタ!」

 魔法陣で到着した稲生を出迎えたのはマリア。

 稲生:「マリアさん!」
 エレーナ:「おおっ!?相思相愛だなっ!」

 エレーナは稲生に抱きついたマリアを見て目を丸くした。

 イリーナ:「マリアも明るくなってくれたねぇ……うんうん」
 稲生:「ここは魔界のどこですか?」
 イリーナ:「魔王城の一角さ。私ら魔道師は王国再建の功績者でもあるから、城内の一部を使わせてもらえているんだね」

 イリーナは目を細めて答えた。

 エレーナ:「といっても帝政時代の遺物で、今は殆ど打ち捨てられた旧館部分をタダ同然で借りているだけというのが本音では?」

 エレーナが『それを言っちゃあ、おしめぇよ』的なことを言った。

 イリーナ:「ま、そんな所なんだけどね」

 旧館部分は先の内戦(バァル最終決戦ではなく、更にその前の魔界共和党と魔界民主党の『共民内戦』)で破壊された魔王城のうち、即死トラップが多く、更に謎解きや仕掛けがハイレベルな所である。
 そんな所を復活させるのは、国民ファーストを目指す新王国には相応しくないという理由で打ち捨てられていた。
 再建された比較的安全な部分を新館とし、政治の中枢としてはそこで機能させている。

 稲生:「旧館部分って、かなり危険なんじゃ?」

 少なくとも今稲生達がいる部屋は明るく、少なくとも何のトラップも仕掛けられているようには見えない。

 イリーナ:「大丈夫。少なくとも、私達に対してはトラップは作動しないことになっているから」
 稲生:「はあ……」
 エレーナ:「あと稲生氏、ゾーイに取られたあんたの持ち物は回収しておいたよ」
 稲生:「おおっ、ありがとう!」
 エレーナ:「隣の部屋に置いてあるから、取りに行きなよ」
 稲生:「分かった」
 マリア:「私も行く」

 因みに隣の部屋も白い壁だけの殺風景な部屋だったが、部屋の片隅には何故か“ベタなRPGの法則”通りのデザインをした宝箱が置いてあった。
 稲生は自分の魔道師のローブを羽織り、警察官の警棒のように伸縮する魔法の杖を持った。

 稲生:「マリアさん、あの宝箱、トヘロス唱えたら赤く光ったりします?」
 マリア:「トゥ・ヘ・ロスな?……多分、ミミックだろうなぁ……」

 すると宝箱が勝手に開いて、牙を覗かせて舌をペロッと出した。

 ミミック:
 稲生:「ああ、やっぱり。トヘロス使うまでもない」

 魔道師達には襲って来ないらしく、ただ単に挨拶代わりのリアクションをしただけのようだ。
 因みに本当に襲ってくるヤツの場合は牙と長い舌の他に、箱から手足も生やして襲ってくるとのこと。

 稲生:「うん、財布もスマホもOKです。ま、もうバッテリー切れになってますけど……」
 マリア:「人間界に戻ったら充電すればいいさ」

 アルカディア王国にも電気が通っているのだが、どうも最近、町の急速な発展に対し、電力強化が追い付いていないらしく、停電する頻度が増えているとのこと。
 あとは極右ゲリラによる活動も原因だ。
 人間界の場合と違うのは、あくまでもこちらの極右は帝政を目指している者のことを指す。
 保守的思想を右翼と呼ぶが、ここでは帝政復古を望む者を指す。
 再び元の部屋に戻る。

 イリーナ:「それじゃ早速、本来の社会科見学に戻ろうかねぃ……」
 稲生:「アルカディア・タイムスの号外で見ましたよ。凄いドラゴンですね」
 イリーナ:「それを間近に見てもらおって話よ。リシーちゃんにも紹介したいしね」

 旧館部分から原始的なエレベーターで屋上に上がることができる。
 具体的には釣瓶式のエレベーターなのだが、稲生達の籠と対になるのは重りではなく、ガーゴイルである。
 ガーゴイルが対になる籠に乗って、エレベーターを動かしているのである。
 因みにこれ、本来の用途はエレベーターに乗った敵をガーゴイルが襲いに行く為のもの。
 ちょうど中間地点で対の籠と同じ高さになった時、ガーゴイルとの対戦になる。
 今はただ単に通過するだけ。
 今、旧館のユーザーはダンテ一門ということになっているので、そこで使われているモンスター達もその魔道師達には襲って来ないわけである。
 逆を言えば、やはり普通の人間にとっては、場合によって魔道師が敵側になることもあるということだ。

 イリーナ:「さー、着いたよ」

 屋上に着くと雨は止んでいた。
 だが、未だに厚い雲が空を覆っている。

 稲生:「うわっ!」

 真正面にドラゴンのリシーツァがいた。
 稲生を睨みつけるようにして見据えて来る。

 リシーツァ:「イリーナさん、どういうことですか?ただの人間ではないですか」
 イリーナ:「そう思うかい?」
 稲生:「喋った!?ドラゴンが!?」
 リシーツァ:「ひ弱な人間よ。言葉に気をつけろ。我らは主らが言葉を使い始めるよりもずっと昔から言葉を使用していたのだ」
 稲生:「は、はい!すいません!」
 イリーナ:「リシーちゃん、これでも将来有望の新弟子なのよ?仲良くしてあげてね」
 リシーツァ:「ふーむ……」
 イリーナ:「というわけで、空の旅を楽しみましょう」
 リシーツァ:「……乗せるのはイリーナさんだけですよ?」
 イリーナ:「ええ〜?前はマリア達も乗せてくれたじゃない?」
 リシーツァ:「いや、あれは緊急だったようですし……」
 イリーナ:「いいじゃない?後で体洗ってあげるから」
 リシーツァ:「! 本当ですか?
 イリーナ:「ええ。だから、いいでしょ?」
 リシーツァ:「そういうことなら」
 稲生:「先生、これからフライトですか?」
 イリーナ:「そうよ。早く乗って。リシーちゃんの気が変わらないうちに」
 稲生:「こういうドラゴンの場合、確か乗る位置が決まっているような……?」
 リシーツァ:「その通りだ。ヒヨっ子のお前は私の翼の横だ。頭の上に乗って良いのはイリーナさんだけだ」
 稲生:「旅客機と変わりませんね」

 頭の上(機首部分の直後)はファーストクラス、翼の部分から後ろはエコノミークラスという点。
 こうして稲生は、今回の社会科見学の目的であるイリーナの使い魔との初見を果たしたわけである。
 本物のドラゴンを見ただけではなく、会話もした上、実際に乗ってみるという体験はそんじょそこらの社会科見学とは一線も二線も隔しているだろう。
 機嫌を良くしたリシーツァはサービスで宙返りをしたり、上空に向かってブレス(火炎)を吐いたりしたのだが、乗り物に強い鉄ヲタ兼バスファンの稲生ですら、別のブレスを吐く壮絶な体験だったという。

 そう、飛行機酔いならぬ、ドラゴン酔いによる嘔吐という名のブレスを。

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