報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「それから……」

2020-12-26 22:57:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月7日09:30.天候:晴 東京都葛飾区小菅 東京拘置所(面会室)]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 昨日の惨劇の後で、私は三度高野君を訪ねた。

 高野:「おはようございます」
 愛原:「ああ、おはよう」
 高野:「いつも来て下さって、ありがとうございます」
 愛原:「『宅下げ』の物、預かるよ」
 高野:「お手数お掛けします」
 高橋:「アネゴ、保釈申請しねーのか?いい加減、保釈して出て来いよ」
 高野:「私は組織犯罪関係でここにいるの。申請したところで、『証拠隠滅の恐れあり』とか言われて却下に決まってるわ」
 愛原:「キミ個人としては、大した犯罪内容じゃないんだけどねぇ……。銃刀法違反(許可されていない銃器を使用した)とか、捜査機関に嘘の情報を流したとか、まあとにかく、大した内容じゃない」
 高野:「あの女としては、大したことのようですよ」
 愛原:「善場主任か?まあねぇ……」
 高野:「それに、ほとぼりが冷めるまで、ここにいた方がいいと思います。“青いアンブレラ”の中にはBSAAにいれられなくなった不良軍人とかもいますから」
 愛原:「旧アンブレラの非正規軍組織UBCSみたいなものか」
 高野:「そうですね」
 愛原:「まあ、キミがそこが安全だというなら、それでもいいさ。それでも、面会はさせてもらうからね?」
 高野:「大歓迎です。それで、今日は私に何の話を?」
 愛原:「昨日の朝、都営大江戸線が襲われた。『1番』のヤツ、実力行使に来たよ。無関係な乗員乗客にまで被害を出しやがって……」
 高野:「『1番』らしいですわね。で、倒した……わけではなさそうですね?」
 愛原:「ものの見事に逃げられたよ。それで、どうも新型BOWエブリンの影もちらついてるんだ。何か知らないか?」
 高野:「2017年夏、アメリカのルイジアナ州で起きたバイオハザードについては御存知だと思います」
 愛原:「ああ」
 高野:「“青いアンブレラ”が駆け付けた時、オリジナルのエブリンは既に最終形態に変化しており、イーサン・ウィンターズ氏によって止めが刺されました」
 愛原:「知ってる」
 高野:「“青いアンブレラ”としては確たる証拠は見つけられませんでしたが、エブリンの素体が日本へ密輸された可能性は大だと見ています」
 愛原:「なにっ!?」
 高野:「先生のお話を伺いまして、恐らくエブリンと『1番』は既にタッグを組んでいるような気がします」
 愛原:「マズいか、それは?」
 高野:「マズいと思います。彼女らが本気を出せば、今度はこの東京が霧生市のようになると思います」
 愛原:「まだ彼女達は本気ではないということか?」
 高野:「でしょうね。どうして本気を出さないのか、それは不明です。……いや、1つ考えられることがあります」
 愛原:「何だ?」
 高野:「彼女達は『2番』のリサちゃんと同じく、ちゃんと制御されているからだと思われます。制御する側としては、今すぐに東京に大規模なバイオハザードを起こしたくはないのでしょう。アメリカのエブリンは、制御を失って暴走してしまいました」
 愛原:「彼女達を制御している人間に心当たりは?」
 高野:「いくつかあります。組織としてはバイオテロ組織。HCFとか“コネクション”なる組織ですね。まだ日本に進出しているという証拠は掴んでいませんが、しかし、もしもエブリンが本当に日本に密輸されているのだとしたら、可能性はあります」
 愛原:「他には?」
 高野:「個人が『1番』とエブリンを所有し、制御している可能性です」
 愛原:「個人が!?そんなことできるわけ……」
 高野:「ありますよ。先生がそうじゃありませんか?」
 愛原:「俺が!?」
 高野:「ええ」
 高橋:「確かにリサのヤツ、先生には『何でも言う事を聞く』『先生の奴隷になってもいい』まで言ってますよね?」
 愛原:「で、でも俺は、善場主任の依頼で……」
 高野:「先生に制御を託されたのは、リサちゃんの御指名だそうですよ」
 愛原:「ええっ!?」
 高野:「霧生市から脱出した後、私達はリサちゃんと一旦お別れしましたよね?」
 愛原:「ああ」
 高野:「リサちゃん、ずっと先生に会いたがってたらしいですよ。で、終いには耐え切れなくなって暴走しかけたそうです」
 愛原:「ええ?」
 高野:「それで善場さん達が『このまま殺処分されるくらいなら』ってことで、先生にリサちゃんの制御を託したというわけです。案の定、今も上手く行ってますね」
 愛原:「でも結局のところ、それって組織的な制御じゃん?俺があくまでも委託されただけで?」
 高野:「ですから、同じように制御者が1人だけで、あの2人を管理している可能性もあるってことです。いや、もしくは『1番』とエブリン、それぞれ別個に制御されているのかもしれませんしね」
 愛原:「なるほどなぁ……」
 高野:「でも先生、今は先生達の側が不利になってますよ?」
 愛原:「どういうことだ?」
 高野:「恐らく『1番』やエブリンは、既に『2番』の制御者が先生だということに気づいたでしょう。もしも『2番』を倒したければ、まずは制御者を倒せと思うかもしれません。『将を射んと欲せばまず馬を射よ』の逆パターンですよ」
 愛原:「マジか」
 高野:「それでいて、先生達はまだ『1番』の背後関係が分かっていないわけでしょう?」
 愛原:「今日、改めて善場主任が聖クラリス女学院に、全ての生徒を照会することになっている。捜査令状はまだだが、捜査協力依頼書付きだ。実際、聖クラリス女学院の制服を着た女の子が、俺達から逃走したんだ。学院側は、言い逃れはできんさ」
 高野:「学院全体が、彼女達の手に落ちていないといいですねぇ……」

[同日10:04.天候:曇 東京都足立区足立 東武鉄道小菅駅]

 高野君との面会を終えた私達は高野君から預かった宅下げ品を持って、最寄り駅の小菅駅に向かった。
 宅下げとは差し入れの対義語で、要は収容者から面会者へ渡される物のことを言う。
 高野君の場合は、読み終えた本や着替えなどであった。
 東京拘置所では下着類以外は洗濯してもらえないので、上に着ている服にあっては面会者などに宅下げして洗濯してもらい、洗濯済みの服を差し入れしてもらうという形になる。

〔まもなく1番線に、日比谷線直通、各駅停車、中目黒行きが7両編成で到着します。……〕

 高橋:「ヤバイっすね……」
 愛原:「何がだ?」
 高橋:「いえ、リサを見てて思うんスけどね。リサのヤツ、先生に命令されたら、この東京にバイオハザードを起こすことも平気でやると思うんスよ」
 愛原:「俺は絶対そんな命令出さないぞ!?」
 高橋:「ですけど、『1番』の制御者が先生みたいな人格者じゃなかったら、大変なことになるってことっスよね。どこぞのサイコパスとかだったら、もうサイアクっスよ」
 愛原:「そうなる前に見つけないとな……」

 私達はやってきた東武電車に乗り込んだ。

 高橋:「昨日あんな事件を起こした奴らです。それを命令したヤツがいたとしたら、とても人格者とは思えないですよ」
 愛原:「た、確かにな……」

 すぐにドアが閉まって、電車が走り出す。
 私は空いている席に座った。

〔次は北千住、北千住。……〕

 愛原:「善場主任達の、捜査状況に期待するしか無いな」

 私は今まで通り、リサと接していれば良い。
 それで良いはずなのだが、何故か実は『薄氷を履むが如し』の状態だったのではと思った。
 ちょっとでもリサと接し方を間違うと、私のせいで東京がバイオハザードに見舞われる。
 そんな気がしてきた。

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