報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界から人間界へ」

2017-09-21 20:08:52 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月11日10:30.天候:晴 アルカディア王国王都アルカディアシティ アルカディア埠頭]

 冥鉄汽船スターオーシャン号が港に着岸する。
 船も飛行機もほぼ全て、『お出口は左側です』状態になっているが、これは大航海時代からの慣習なのだという。
 冥鉄の幽霊船とて、これは例外ではない。

 安倍:「それじゃ、稲生君。また会おう」
 稲生:「は、はい!総理もお元気で!」

 安倍は稲生と握手を交わすと、迎えの馬車に乗り込んだ。
 魔界では自動車交通が発達していない為、それに代わる乗り物は馬車になる。
 よく見ると、他にも幌の上に『TAXI』と書かれた表示を乗せた辻馬車が止まっている。
 もちろん迎車などではなく、明らかに船の乗客を見込んだ客待ちである。

 稲生:「じゃあ、僕達も帰りましょうか」
 マリア:「うん。私もとっとと帰りたい」
 イリーナ:「2人は先に帰ってていいよ」
 稲生:「先生!」
 イリーナ:「アタシら『先生組』は、このまま魔王城に行ってルーシー陛下に挨拶に行かなきゃ」
 稲生:「僕達は一緒に行かなくてもいいんですか?」
 イリーナ:「うん。弟子達と一緒だと、仲悪いとすぐケンカしちゃうもの」
 マリア:「ぐ……!」
 稲生:「ケンカするほど仲が良くてもダメなんですね」
 イリーナ:「だから、あなた達は先に人間界に帰ってなさい」
 マリア:「はーい」
 稲生:「分かりました」
 エレーナ:「おーい、稲生氏!人間界に帰るんなら、一緒に行くぞー!」
 リリアンヌ:「フヒッ!ま、マリアンナ先輩も……もし良かったら……フフフフフ……」
 稲生:「そっかぁ。ワンスターホテルに荷物に置いたままだもんね。早いとこ戻って、荷物を引き取ろう」
 エレーナ:「荷物の預かり代は、いくらにしようかなぁ〜」
 マリア:「カネのことばっか!」
 稲生:「さすがは契約悪魔が“金銭欲の悪魔”マモンだ」

 稲生は苦笑いした。

 稲生:「カジノの勝ち分返すから、これで何とかしてよ」
 エレーナ:「これは私のオーバーパンツ!?何で持ってんの!?」
 マリア:「オマエの後輩が快く持って来てくれたよ」
 エレーナ:「リリィ!」
 リリアンヌ:「フヒッ!?約束や契約は必ず守れって言ったじゃないですかぁ!」
 稲生:「まあまあ、エレーナ。危うく横田理事に取られる所だったんだけど、何とかリリィが死守してくれたんだよ」
 エレーナ:「リリィが?」
 リリアンヌ:「はい……」
 稲生:「初めてデスバシルーラって魔法、見せてもらった」
 エレーナ:「ほほぉ。横田理事にデス・ヴァシィ・ルゥ・ラをねぇ……。こりゃ、なかなか大したものだわ」

 エレーナは感心した。

[同日同時刻 天候:晴 アルカディア王国郊外上空 スタンダードドラゴン、リシーツァ]

 アルカディア王国の王都から外れた片田舎の上空を、1頭のドラゴンが不機嫌そうに滑空していた。
 それもそのはず。

 リシーツァ:「下等で愚かな人間よ!気持ち良く眠る我の眠りを妨げたばかりか、その際に尻尾を踏みつけるとは良い度胸だ!その罪、死を持って償うが良い!」
 横田:「あ〜れ〜!」

 イリーナの使い魔である雌ドラゴン(翼竜)のリシーツァ。
 雌とはいえその力は強く、横田を掴んで急上昇と急降下、更には宙返りや背面飛行まで行った。

 横田:「メガネが!私のケータイが!顕正新聞がーっ!」
 リシーツァ:「黙れ!不遜な人間よ!地面に叩き落すぞ!」

 しばらく王国内において、横田の姿を見た者は誰もいないとのことだ。
 顕正会においては、【お察しください】。

[日本時間9月11日15:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 稲生:「やっと戻ってきた」
 マリア:「何だか、1週間は向こうに行ってた感じだな」
 稲生:「いや、全くです。どうします?ここで先生を待ちますか?」
 マリア:「そうだな……。さっさと屋敷に帰った方がいい気もするが……」
 エレーナ:「今日みたいな中途半端な日は部屋も空いてるだろうから、泊まって行ったら?」
 稲生:「そうだなぁ……」
 マリア:「どうせカジノの負け分を取り返す為に、宿泊代取ろうって魂胆だろうが」
 稲生:「あっ、そういうこと」
 エレーナ:「こっちも商売なんでね」
 稲生:「エレーナ、きっとAPAホテルの社長さんみたいになれるよ。分かった分かった。先生からカードも預かったことだし、ここで待たせてもらうよ」
 エレーナ:「毎度ありぃ!」
 リリアンヌ:「フヒッ、エレーナ先輩。私は……?」
 エレーナ:「リリィは私の部屋で寝ればいい。どうせ今日はオーナーから、夜勤やれって言われそうだし」
 稲生:「何だか大変だね」
 エレーナ:「商売だから」

 地下1階からエレベーターで1階に上がる。

 オーナー:「おっ、これはこれは稲生様とマリアンナ様」
 稲生:「今しがた戻りました」
 オーナー:「お疲れさまです。お荷物、お返ししますね。預かり料が……」
 エレーナ:「オーナー、この人達、今日泊まりたいって。部屋空いてる?ツイン1つ」
 稲生&マリア:「シングル2つだ!」
 エレーナ:「2人とも顔赤らめて、もう……」
 オーナー:「かしこまりました。それでは5階の501号室と502号室へご案内致します」

 スターオーシャン号ではカードキーだったが、こっちは普通の鍵である。

 オーナー:「それでは、ごゆっくりどうぞ」
 稲生:「よろしくお願いします」

 エレベーターで上に上がろうとした時、ふと稲生はロビーの向こうの通路に目をやった。

 稲生:「そういえば“マジックスター”があるんでしたね。あそこで食事ができそうだ」
 マリア:「ほんと、こういう所では魔道師と縁が深くなる」
 稲生:「当たり前じゃないですか」

 エレベーターに乗り込む。
 元々はドヤ街だった町にある格安ホテルなので、建物自体も大きくはない。
 利用者もバックパッカーなどが多いくらいだ。

 稲生:「そりゃま、僕ももう普通の人間じゃないことを思い知らされたりもしますが……」

 チーン♪(エレベーターが5階に到着する)

 稲生:「ホテルの佇まいは、どこにでもある普通のホテルなんですけどね」
 マリア:「夕食まで少し休んでよう。何か、船の揺れでまだ体が揺れてる感じ」
 稲生:「あ、それ僕もずっと思ってました」
 マリア:「夕食は“マジックスター”でいいな?」
 稲生:「そうしましょう」

 2人はそれぞれシングルルームに入った。

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