[5月8日09:00.アルカディアシティ南端村 魔界稲荷神社→サウスエンド監獄 視点:稲生勇太]
南端村で戦いの準備を整えた稲生達は、再び魔界稲荷神社へと戻った。
といっても、階段を上った先ではなく、その下で威吹は待っていた。
威吹:「準備はできたかい?」
稲生:「うん」
威吹:「ここから監獄まではそんなに遠くない。この道を進んで林の中に入ると、隧道がある。それを潜った先に監獄はある」
マリア:「話だけ聞くと、随分近いように聞こえるけど?」
威吹:「この社自体、村の端にあるからな。そういうことだよ」
それでは尚更、中世の騎士風の亡霊を警戒するわけだ。
威吹:「こいつを代わりに連れて行ってくれ」
威吹が紹介したのは今朝方、稲生の勤行を聞いてしまい、吐き気を催した妖狐の少年であった。
見た目には15歳程度に見える。
銀髪を肩の所で切っており、くせ毛になっている。
緑色の着物に焦げ茶色の袴を穿いており、一振りの刀を差していた。
威吹:「こいつは茶取。多少先走る所はあるが、剣の腕前自体は坂吹に次ぐものだと思っている」
茶取:「茶取です。今日はよろしくお願いします」
稲生:「稲生勇太です。よろしく」
マリア:「マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット。よろしく」
威吹:「監獄の入口までは茶取が詳しい。監獄の中に入らずとも、その周りからして既に怪しい気配が漂っている。絶対に油断しないでくれよ」
稲生:「分かった」
3人はサウスエンド監獄に向かった。
既に空は今にも降り出してきそうなほどに、厚い雲が掛かっていた。
[同日09:30.南端村・林の中→隧道 視点:稲生勇太]
林という割には随分と鬱蒼なものだった。
マリア:「道は続いてるから分かるけど、そうでなきゃ魔の森みたいだ」
茶取:「何の何の。起伏が無いだけマシですよ」
茶取は軽い足取りで先導する。
どうやら歩き慣れているようだ。
一本道かと思いきや、途中で道が分岐している。
茶取:「こっちです、こっち」
茶取、迷わず右の道を進む。
稲生:「そっちの道は?」
茶取:「そっちは妖狐の里に通じるトンネルがあります」
稲生:「妖狐の里って、こっちにあったの!」
茶取:「魔界ではなく、魔境です。里の者はアルカディアシティのことを魔京と呼びます」
稲生:「魔京か。得てして妙だ」
マリア:「日本語は難しい……」
右の道を進んでしばらく進むと、素掘りのトンネルが現れた。
稲生:「屋敷の入口のトンネルでさえレンガ造りなのに、こっちは素掘りか……」
中は真っ暗である。
茶取:「明かりならあります」
茶取は右手から狐火を出した。
青白い鬼火である。
マグネシウムを燃やしたかのように明るい。
茶取:「行けっ」
茶取が狐火を飛ばす。
狐火は真っ暗な隧道の中を照らした。
隧道は意外と長い。
そして、途中から鉄道の線路が現れた。
稲生:「何だろう、これ?」
マリア:「トロッコでも通ってたのか?」
茶取:「位置的には……このトンネルの向こうに鉄道の操車場があります。一説によると、監獄へ収監する囚人列車が走っていたことがあるとのことです」
稲生:「これ、鉄道のトンネルだったのか!」
マリア:「恐らく、アウシュビッツ強制収容所への収監者を送った列車のようなものだろう」
稲生:「徹底してたんだなぁ……」
そこを抜けると、風景が一変した。
マリアが表現したアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所は平地の上に建っているが、こちらは岩山に沿うように建っていた。
そして、監獄へは鉄橋を渡った先にあった。
稲生:「だ、大丈夫かな?崩れたりしないよね?」
マリア:「1つ思ったんだけど……」
稲生:「何ですか?」
マリア:「その橋と、後ろのトンネル崩落させれば、亡霊も来れないんじゃない?」
茶取:「亡霊じゃなく、ただの魔物であればそうしてましたよ。だけど、ボク達は亡霊ではありませんが、ボク達でさえそんなことされた所で突破できる自信があります。多分、労力の無駄なだけじゃないかと」
マリア:「あ、そう」
マリアは年下の少年に面と向かって反論されたことで、少しイラッと来た。
稲生:「ま、まあ、とにかく橋を渡ろう」
稲生が一歩足を踏み出した時だった。
ゴブリンA:「グヘヘヘヘ……」
ゴブリンB:「ココヲ通リタカッタラ、ミグルミ置イテケ!」
ゴブリンC:「ミグルミ!ミグルミ!」
マリア:「ったく。6番街のアホ盗賊団みたいなこと言いやがって……」
マリアと稲生は魔法の杖を構えた。
茶取はスラッと日本刀を抜いた。
これには妖気が帯びている。
茶取:「でやーっ!」
茶取、大きく踏み込んでゴブリンAの首に刀を突き刺し、貫通させた。
ゴブリンA:「グェッ……!」
稲生:「強い!」
マリア:「Fi la!」
マリアも負けじと杖から炎を出してゴブリン達を焼き払う。
稲生も見習いの弱い魔法とはいえ、爆発系の攻撃魔法を杖から放ってゴブリン達を倒した。
稲生:「よし、倒した!」
マリア:「次もこの調子!」
茶取:「余裕です」
因みにドロップアイテムを探すのは戦士ならでは。
茶取:「ポーションとエーテルを持ってました」
稲生:「はは、了解」
そして3人は橋を渡った。
こんな鉄道橋でも整備はしなくてはならなかっただろうから、ちゃんと作業員用の通路が確保されていた。
だが、廃止されてからは全く整備されなくなった為か、所々朽ちている。
マリア:「帰りは師匠に迎えに来てもらった方がいいかもなぁ……」
稲生:「『行きは良い良い、帰りは恐い』って言いますからね」
茶取:「『通りゃんせ』ですか。川越の三芳野神社のことらしいですね」
稲生:「それも1つの説だね。何か、色んな説があるんだって」
気になるのが、『歌詞の「行きはよいよい 帰りはこわい」が、被差別への一本道を意味しているとする説があるため、東京では放送できるが大阪では放送できず排除される形となっている』(ウィキペディアより)とのことだ。
東日本の人間が触れてはいけない何かが、そこにはあるようである。
稲生:「コンクリート造りの、いかにも収容所って感じだな」
鉄橋を渡り切ると、線路は重厚な正門へと続いていた。
だが、肝心の門扉は硬く閉ざされており、ビクともしなかった。
高さも10メートルはあり、とても飛び越えられそうにない。
稲生:「別の入口を探しましょう。この収容所も老朽化していますから、仮に閉まっていても、こじ開けられるドアとかあるかもしれません」
マリア:「そうだな」
茶取:「搬入口とか、職員通用口とかを探してみますか」
稲生:「それはいいかもね」
マリア:「最悪、どこか穴でも開ければいいさ」
マリアは気軽に言い放った。
恐らく、この監獄は魔道士は収監していなかったのかもしれない。
南端村で戦いの準備を整えた稲生達は、再び魔界稲荷神社へと戻った。
といっても、階段を上った先ではなく、その下で威吹は待っていた。
威吹:「準備はできたかい?」
稲生:「うん」
威吹:「ここから監獄まではそんなに遠くない。この道を進んで林の中に入ると、隧道がある。それを潜った先に監獄はある」
マリア:「話だけ聞くと、随分近いように聞こえるけど?」
威吹:「この社自体、村の端にあるからな。そういうことだよ」
それでは尚更、中世の騎士風の亡霊を警戒するわけだ。
威吹:「こいつを代わりに連れて行ってくれ」
威吹が紹介したのは今朝方、稲生の勤行を聞いてしまい、吐き気を催した妖狐の少年であった。
見た目には15歳程度に見える。
銀髪を肩の所で切っており、くせ毛になっている。
緑色の着物に焦げ茶色の袴を穿いており、一振りの刀を差していた。
威吹:「こいつは茶取。多少先走る所はあるが、剣の腕前自体は坂吹に次ぐものだと思っている」
茶取:「茶取です。今日はよろしくお願いします」
稲生:「稲生勇太です。よろしく」
マリア:「マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット。よろしく」
威吹:「監獄の入口までは茶取が詳しい。監獄の中に入らずとも、その周りからして既に怪しい気配が漂っている。絶対に油断しないでくれよ」
稲生:「分かった」
3人はサウスエンド監獄に向かった。
既に空は今にも降り出してきそうなほどに、厚い雲が掛かっていた。
[同日09:30.南端村・林の中→隧道 視点:稲生勇太]
林という割には随分と鬱蒼なものだった。
マリア:「道は続いてるから分かるけど、そうでなきゃ魔の森みたいだ」
茶取:「何の何の。起伏が無いだけマシですよ」
茶取は軽い足取りで先導する。
どうやら歩き慣れているようだ。
一本道かと思いきや、途中で道が分岐している。
茶取:「こっちです、こっち」
茶取、迷わず右の道を進む。
稲生:「そっちの道は?」
茶取:「そっちは妖狐の里に通じるトンネルがあります」
稲生:「妖狐の里って、こっちにあったの!」
茶取:「魔界ではなく、魔境です。里の者はアルカディアシティのことを魔京と呼びます」
稲生:「魔京か。得てして妙だ」
マリア:「日本語は難しい……」
右の道を進んでしばらく進むと、素掘りのトンネルが現れた。
稲生:「屋敷の入口のトンネルでさえレンガ造りなのに、こっちは素掘りか……」
中は真っ暗である。
茶取:「明かりならあります」
茶取は右手から狐火を出した。
青白い鬼火である。
マグネシウムを燃やしたかのように明るい。
茶取:「行けっ」
茶取が狐火を飛ばす。
狐火は真っ暗な隧道の中を照らした。
隧道は意外と長い。
そして、途中から鉄道の線路が現れた。
稲生:「何だろう、これ?」
マリア:「トロッコでも通ってたのか?」
茶取:「位置的には……このトンネルの向こうに鉄道の操車場があります。一説によると、監獄へ収監する囚人列車が走っていたことがあるとのことです」
稲生:「これ、鉄道のトンネルだったのか!」
マリア:「恐らく、アウシュビッツ強制収容所への収監者を送った列車のようなものだろう」
稲生:「徹底してたんだなぁ……」
そこを抜けると、風景が一変した。
マリアが表現したアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所は平地の上に建っているが、こちらは岩山に沿うように建っていた。
そして、監獄へは鉄橋を渡った先にあった。
稲生:「だ、大丈夫かな?崩れたりしないよね?」
マリア:「1つ思ったんだけど……」
稲生:「何ですか?」
マリア:「その橋と、後ろのトンネル崩落させれば、亡霊も来れないんじゃない?」
茶取:「亡霊じゃなく、ただの魔物であればそうしてましたよ。だけど、ボク達は亡霊ではありませんが、ボク達でさえそんなことされた所で突破できる自信があります。多分、労力の無駄なだけじゃないかと」
マリア:「あ、そう」
マリアは年下の少年に面と向かって反論されたことで、少しイラッと来た。
稲生:「ま、まあ、とにかく橋を渡ろう」
稲生が一歩足を踏み出した時だった。
ゴブリンA:「グヘヘヘヘ……」
ゴブリンB:「ココヲ通リタカッタラ、ミグルミ置イテケ!」
ゴブリンC:「ミグルミ!ミグルミ!」
マリア:「ったく。6番街のアホ盗賊団みたいなこと言いやがって……」
マリアと稲生は魔法の杖を構えた。
茶取はスラッと日本刀を抜いた。
これには妖気が帯びている。
茶取:「でやーっ!」
茶取、大きく踏み込んでゴブリンAの首に刀を突き刺し、貫通させた。
ゴブリンA:「グェッ……!」
稲生:「強い!」
マリア:「Fi la!」
マリアも負けじと杖から炎を出してゴブリン達を焼き払う。
稲生も見習いの弱い魔法とはいえ、爆発系の攻撃魔法を杖から放ってゴブリン達を倒した。
稲生:「よし、倒した!」
マリア:「次もこの調子!」
茶取:「余裕です」
因みにドロップアイテムを探すのは戦士ならでは。
茶取:「ポーションとエーテルを持ってました」
稲生:「はは、了解」
そして3人は橋を渡った。
こんな鉄道橋でも整備はしなくてはならなかっただろうから、ちゃんと作業員用の通路が確保されていた。
だが、廃止されてからは全く整備されなくなった為か、所々朽ちている。
マリア:「帰りは師匠に迎えに来てもらった方がいいかもなぁ……」
稲生:「『行きは良い良い、帰りは恐い』って言いますからね」
茶取:「『通りゃんせ』ですか。川越の三芳野神社のことらしいですね」
稲生:「それも1つの説だね。何か、色んな説があるんだって」
気になるのが、『歌詞の「行きはよいよい 帰りはこわい」が、被差別への一本道を意味しているとする説があるため、東京では放送できるが大阪では放送できず排除される形となっている』(ウィキペディアより)とのことだ。
東日本の人間が触れてはいけない何かが、そこにはあるようである。
稲生:「コンクリート造りの、いかにも収容所って感じだな」
鉄橋を渡り切ると、線路は重厚な正門へと続いていた。
だが、肝心の門扉は硬く閉ざされており、ビクともしなかった。
高さも10メートルはあり、とても飛び越えられそうにない。
稲生:「別の入口を探しましょう。この収容所も老朽化していますから、仮に閉まっていても、こじ開けられるドアとかあるかもしれません」
マリア:「そうだな」
茶取:「搬入口とか、職員通用口とかを探してみますか」
稲生:「それはいいかもね」
マリア:「最悪、どこか穴でも開ければいいさ」
マリアは気軽に言い放った。
恐らく、この監獄は魔道士は収監していなかったのかもしれない。
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