[12月9日17:30.天候:雪 長野県白馬村郊外 ペンション“ドッグ・アイ”]
私と高橋は大きな音がした方へと向かった。
ロビーの方からしたと思ったが、実際はその先、食堂の中からだった。
ジョージ:「ワン!ワン!ワンワンッ!!」
ペンション内で飼われているハスキー犬のジョージが吠えまくる。
愛原:「どうしました、何かありましたか!?」
私達が食堂の中に飛び込むと、2人の男女がしゃがんでいた。
そして、床の方を見ている。
床には散乱したガラス片、そして赤い液体……!
愛原:「これは一体……!?」
私が目を丸くしていると、男がこちらを振り向いた。
私よりは年下だろうが、高橋よりは年上っぽい。
そう。高野君くらいかな。
男:「そこのあなた!服に返り血が付いてますよ!?」
男が私に対し、いきなりそんなことを言って来た。
愛原:「ええっ!?」
私は咄嗟に自分の服を見た。
すると男は唇を噛み締め、そして言った。
男:「もしあなたが潔白なら、けして今の私の言葉に反応しなかったはずだ。つまり、それを気にしたあなたが犯人だ!」
愛原:「ただの条件反射でしょうが!」
高橋:「キサマ、先生に言い掛かりをつけるとはいい度胸だ……!表へ出ろォ!」
愛原:「待て、高橋君!暴力はいけない!」
高橋:「ですが、先生!」
男:「まあいい。確かに今はまだ証拠に乏しい。今のところは見逃してやろう。フフフフ……」
男はそう言うと、颯爽と部屋を出て行った。
な、何なんだ、今のは?
女性:「お騒がせして申し訳ありません。お客様用の赤ワインを落としてしまって……」
女性はこのペンションのオーナー、大沢氏の妻だった。
つまり、女将というわけだ。
まあ、ペンションで女将というのも変か。
ママかな?いや、それだとスナックになっちゃうな……。
大沢:「敏子、何やってるんだ。ちょっと目を離した隙に……」
敏子:「ごめんなさい。地下のワインセラーからワインを……」
大沢:「それはバイト君達に任せて、敏子は受付やってて!」
大沢氏はコックの白い服を着ていた。
なるほど。食事はオーナー自らの手作りか。
よく見ると、食堂内に掲げられている調理師の免状にその名前が書かれている。
大沢:「愛原先生、申し訳ありませんでした。すぐに片付けますので……」
愛原:「あ、いやいや……」
高橋:「それより、さっきの無礼な男は何者なんだ?すぐにでも裏に連れて行って、ボコしてやりたいところだが……」
大沢:「無礼な人?」
私は大沢氏に先ほどの男性の特徴を話した。
大沢:「ああ、安沢様ですね。今日から宿泊される方ですよ。確か、先生と同じ探偵のお仕事をなさっているとか……」
高橋:「なにっ!?」
愛原:「同業者だったのか……」
高橋:「フッ、それにしてはお粗末な推理だ。いきなり先生を犯人呼ばわりなど……」
それとも挑戦状か何かだろうか。
少なくとも、私はあの安沢という人物を知らない。
まあこの業界、作者の警備会社並みに数が多いからな。
大沢:「舞原君、悪いけどちょっとこれを……」
舞原:「わっ、また敏子さんスか。派手にやりましたねぇ……」
大沢:「もうすぐディナータイムだから急いで片付けて、地下から新しいワインを持って来てくれないか」
舞原:「OKっス!」
これがアルバイトの兄ちゃんか。
高橋君と同世代だな、これは。
愛原:「高橋君の友達に、今みたいなコはいたかい?」
高橋:「んー、いたようないなかったような……」
愛原:「そう?」
高橋:「どこにでもいそうなキャラなんで、よく覚えてないです」
愛原:「ハハハ、そうか」
私と高橋は食堂から出た。
高野:「モフモフ、モフモフ」
ジョージ:「ハッハッハッ!」
高野:「モフモフ、モフモフ」
ジョージ:「ハッハッハッ!」
ロビーでは高野君がジョージの首回りと毛並みを堪能していた。
短毛のハスキー犬、そんなにモフモフしているだろうか?
高橋:「何やってんだ、アンタ?」
高野:「ジョージ君の毛並みをモフモフ」
すっかりジョージは高野君に懐いていた。
高橋:「こんな犬っころに……」
ジョージ:「ワンワンワンワンッ!!」
で、高橋にはすっかり敵対しているという……。
[同日19:00.天候:雪 ペンション“ドッグ・アイ”1F食堂]
食事時になり、私達は食堂へやってきた。
バイト女性:「こんばんはー。こちらへどうぞ」
愛原:「おっ、ありがとう」
これまた高橋君と大して歳の変わらぬバイトの女の子が私達を案内してくれた。
テーブルの上には、『愛原学様』という名札が置かれている。
愛原:「コース料理が出てくるのかな?ナイフとフォークの位置と数が、正にそれっぽい」
高橋:「そのようですね」
続々と現れる宿泊者達。
若者グループに、熟年のカップルもいれば、一人客もいる。
一人客とは、安沢氏のことだ。
彼には助手とか相棒もいないのか?
だが、もっと異様な客がいた。
高野:「あっ!」
高野氏が声を上げたのは、私達にも見覚えのある者が入って来たからだ。
それはスキー場の駐車場で係員とモメていた老人だった。
そんな彼は1人ではなかった。
異様だと思ったのは、連れと思われる者が不釣合いなスーツ姿の男だったからである。
いや、それに関しては私も他人のことは言えないのだが……。
私の場合、ただのスーツ姿に対して、マナー最悪老人との連れの男はスーツの上からコートを羽織り、更にはサングラスと帽子もかぶっている。
高野:「何であいつがいるのよ……!」
愛原:「ここの宿泊客だったのか」
高橋:「アンタにとってはメシマズジジィか」
高橋は口元を歪めた。
高野:「視界に入るのもウザいからあんた席替わって!」
高橋:「やなこった」
愛原:「おいおい……」
私は姉弟ゲンカみたいなノリに思わず苦笑いした。
食事が運ばれてくる。
まずは前菜のオードブルだ。
愛原:「高橋君、使い方は分かるかい?」
高橋:「はい。ナイフとフォークは外側から取って行くんですね」
愛原:「おっ、正解。意外と知ってるな」
高橋:「ええ。少年院で教わりました」
高野:「ウソだぁ!」
食べ方については……少年院で教わることもあるのかな?
高橋の食べ方は、けして汚くない。
まるで普通の家庭に育てられて、普通の躾と教育を受けて来たって感じだ。
私は周囲の客を見てみた。
熟年夫婦の話しぶりからすると、もう何年もここに通っている常連客らしい。
オーナーの大沢氏と歓談していた。
若者グループは、普通にスキーに来たのだろう。
ネット検索か何かで、このペンションを選んだか。
安沢氏は1人でさも寂しそうな感じかと思ったが、コミュ力は高いのか、バイトのコ達と数言ずつ話している。
異様なのは、あのマナー最悪爺さんとグラサンスーツのコンビだった。
まず、全く会話が無い。
まるで、互いがいないかのように黙々と食事を続けている。
愛原:「高橋君」
高橋:「何でしょう?」
愛原:「キミの席から、あの2人のテーブルの名札が見えるか?あの2人に気付かれないよう、名札を見てくれないか?」
高橋:「分かりました」
高橋は視力がいい。
高橋はナプキンにこう書いた。
高橋:「こういう字でした」
愛原:「これは……」
スーツの男の名札には『田中一郎様』とあり、爺さんの方は『河童勝治様』と書いてあったそうだ。
愛原:「かっ、かっぱ……!?」
高野:「『かわらべ』と読むんじゃないの?」
高橋:「だ、だが、しかし……」
いつもはポーカーフェイスの高橋君のそれが崩れ掛かっている。
そうなのだ。
よく、名前負けという言葉があるが、爺さんの方は全くの逆。
名前の通りのハゲ……あい、いや、ヘアスタイルであった。
よく目の前のグラサンスーツも、平気でいられるものだ。
おかげさまで私は、せっかくの美味い夕食を、笑いで噴き出さずに耐えるので精一杯だった。
私と高橋は大きな音がした方へと向かった。
ロビーの方からしたと思ったが、実際はその先、食堂の中からだった。
ジョージ:「ワン!ワン!ワンワンッ!!」
ペンション内で飼われているハスキー犬のジョージが吠えまくる。
愛原:「どうしました、何かありましたか!?」
私達が食堂の中に飛び込むと、2人の男女がしゃがんでいた。
そして、床の方を見ている。
床には散乱したガラス片、そして赤い液体……!
愛原:「これは一体……!?」
私が目を丸くしていると、男がこちらを振り向いた。
私よりは年下だろうが、高橋よりは年上っぽい。
そう。高野君くらいかな。
男:「そこのあなた!服に返り血が付いてますよ!?」
男が私に対し、いきなりそんなことを言って来た。
愛原:「ええっ!?」
私は咄嗟に自分の服を見た。
すると男は唇を噛み締め、そして言った。
男:「もしあなたが潔白なら、けして今の私の言葉に反応しなかったはずだ。つまり、それを気にしたあなたが犯人だ!」
愛原:「ただの条件反射でしょうが!」
高橋:「キサマ、先生に言い掛かりをつけるとはいい度胸だ……!表へ出ろォ!」
愛原:「待て、高橋君!暴力はいけない!」
高橋:「ですが、先生!」
男:「まあいい。確かに今はまだ証拠に乏しい。今のところは見逃してやろう。フフフフ……」
男はそう言うと、颯爽と部屋を出て行った。
な、何なんだ、今のは?
女性:「お騒がせして申し訳ありません。お客様用の赤ワインを落としてしまって……」
女性はこのペンションのオーナー、大沢氏の妻だった。
つまり、女将というわけだ。
まあ、ペンションで女将というのも変か。
ママかな?いや、それだとスナックになっちゃうな……。
大沢:「敏子、何やってるんだ。ちょっと目を離した隙に……」
敏子:「ごめんなさい。地下のワインセラーからワインを……」
大沢:「それはバイト君達に任せて、敏子は受付やってて!」
大沢氏はコックの白い服を着ていた。
なるほど。食事はオーナー自らの手作りか。
よく見ると、食堂内に掲げられている調理師の免状にその名前が書かれている。
大沢:「愛原先生、申し訳ありませんでした。すぐに片付けますので……」
愛原:「あ、いやいや……」
高橋:「それより、さっきの無礼な男は何者なんだ?すぐにでも裏に連れて行って、ボコしてやりたいところだが……」
大沢:「無礼な人?」
私は大沢氏に先ほどの男性の特徴を話した。
大沢:「ああ、安沢様ですね。今日から宿泊される方ですよ。確か、先生と同じ探偵のお仕事をなさっているとか……」
高橋:「なにっ!?」
愛原:「同業者だったのか……」
高橋:「フッ、それにしてはお粗末な推理だ。いきなり先生を犯人呼ばわりなど……」
それとも挑戦状か何かだろうか。
少なくとも、私はあの安沢という人物を知らない。
まあこの業界、作者の警備会社並みに数が多いからな。
大沢:「舞原君、悪いけどちょっとこれを……」
舞原:「わっ、また敏子さんスか。派手にやりましたねぇ……」
大沢:「もうすぐディナータイムだから急いで片付けて、地下から新しいワインを持って来てくれないか」
舞原:「OKっス!」
これがアルバイトの兄ちゃんか。
高橋君と同世代だな、これは。
愛原:「高橋君の友達に、今みたいなコはいたかい?」
高橋:「んー、いたようないなかったような……」
愛原:「そう?」
高橋:「どこにでもいそうなキャラなんで、よく覚えてないです」
愛原:「ハハハ、そうか」
私と高橋は食堂から出た。
高野:「モフモフ、モフモフ」
ジョージ:「ハッハッハッ!」
高野:「モフモフ、モフモフ」
ジョージ:「ハッハッハッ!」
ロビーでは高野君がジョージの首回りと毛並みを堪能していた。
短毛のハスキー犬、そんなにモフモフしているだろうか?
高橋:「何やってんだ、アンタ?」
高野:「ジョージ君の毛並みをモフモフ」
すっかりジョージは高野君に懐いていた。
高橋:「こんな犬っころに……」
ジョージ:「ワンワンワンワンッ!!」
で、高橋にはすっかり敵対しているという……。
[同日19:00.天候:雪 ペンション“ドッグ・アイ”1F食堂]
食事時になり、私達は食堂へやってきた。
バイト女性:「こんばんはー。こちらへどうぞ」
愛原:「おっ、ありがとう」
これまた高橋君と大して歳の変わらぬバイトの女の子が私達を案内してくれた。
テーブルの上には、『愛原学様』という名札が置かれている。
愛原:「コース料理が出てくるのかな?ナイフとフォークの位置と数が、正にそれっぽい」
高橋:「そのようですね」
続々と現れる宿泊者達。
若者グループに、熟年のカップルもいれば、一人客もいる。
一人客とは、安沢氏のことだ。
彼には助手とか相棒もいないのか?
だが、もっと異様な客がいた。
高野:「あっ!」
高野氏が声を上げたのは、私達にも見覚えのある者が入って来たからだ。
それはスキー場の駐車場で係員とモメていた老人だった。
そんな彼は1人ではなかった。
異様だと思ったのは、連れと思われる者が不釣合いなスーツ姿の男だったからである。
いや、それに関しては私も他人のことは言えないのだが……。
私の場合、ただのスーツ姿に対して、マナー最悪老人との連れの男はスーツの上からコートを羽織り、更にはサングラスと帽子もかぶっている。
高野:「何であいつがいるのよ……!」
愛原:「ここの宿泊客だったのか」
高橋:「アンタにとってはメシマズジジィか」
高橋は口元を歪めた。
高野:「視界に入るのもウザいからあんた席替わって!」
高橋:「やなこった」
愛原:「おいおい……」
私は姉弟ゲンカみたいなノリに思わず苦笑いした。
食事が運ばれてくる。
まずは前菜のオードブルだ。
愛原:「高橋君、使い方は分かるかい?」
高橋:「はい。ナイフとフォークは外側から取って行くんですね」
愛原:「おっ、正解。意外と知ってるな」
高橋:「ええ。少年院で教わりました」
高野:「ウソだぁ!」
食べ方については……少年院で教わることもあるのかな?
高橋の食べ方は、けして汚くない。
まるで普通の家庭に育てられて、普通の躾と教育を受けて来たって感じだ。
私は周囲の客を見てみた。
熟年夫婦の話しぶりからすると、もう何年もここに通っている常連客らしい。
オーナーの大沢氏と歓談していた。
若者グループは、普通にスキーに来たのだろう。
ネット検索か何かで、このペンションを選んだか。
安沢氏は1人でさも寂しそうな感じかと思ったが、コミュ力は高いのか、バイトのコ達と数言ずつ話している。
異様なのは、あのマナー最悪爺さんとグラサンスーツのコンビだった。
まず、全く会話が無い。
まるで、互いがいないかのように黙々と食事を続けている。
愛原:「高橋君」
高橋:「何でしょう?」
愛原:「キミの席から、あの2人のテーブルの名札が見えるか?あの2人に気付かれないよう、名札を見てくれないか?」
高橋:「分かりました」
高橋は視力がいい。
高橋はナプキンにこう書いた。
高橋:「こういう字でした」
愛原:「これは……」
スーツの男の名札には『田中一郎様』とあり、爺さんの方は『河童勝治様』と書いてあったそうだ。
愛原:「かっ、かっぱ……!?」
高野:「『かわらべ』と読むんじゃないの?」
高橋:「だ、だが、しかし……」
いつもはポーカーフェイスの高橋君のそれが崩れ掛かっている。
そうなのだ。
よく、名前負けという言葉があるが、爺さんの方は全くの逆。
名前の通りのハゲ……あい、いや、ヘアスタイルであった。
よく目の前のグラサンスーツも、平気でいられるものだ。
おかげさまで私は、せっかくの美味い夕食を、笑いで噴き出さずに耐えるので精一杯だった。
汚い板にワックスを塗っているではないか!」と
非常識振りを書いて下さいww
ところで、大沢さんは体型はコックさんですが
職業はコックさんではありませんww
んっ?さんは大沢さんに直接お会いしたことがあるのですか?
是非とも、私もお会いしたいものですね。
シュラカッパさん、“アンドロイドマスター”シリーズではお笑いテロ組織ヤング・ホーク団の団長、ジャック・シュラ・カッパーとして、“私立探偵 愛原学”では……おっと!これ以上はネタバレになるので書けません。
いや、ほんと。ネタ提供してくれて、この場でお礼を言いたいくらいですよ。
今回の小説は大沢さん達に何度諭されても懲りない河童さんに対し、こちらからも追撃砲の砲撃をと思ったわけです。