報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「3時の魔道師」 2

2017-10-01 19:40:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月13日20:15.天候:曇 栃木県日光市 東京中央学園栃木合宿所]

 

 

 『3時の魔道師』を追って階段室までやってきた稲生。
 エレベーターは4階屋上へ向かった。

 稲生:(多分、こんな分かりやすい行き方じゃないだろ!)

 稲生は階段の下を覗き込んだ。
 恐らく、『3時の魔道師』はエレベーターで上へ向かったと思わせて、本当は下に降りて行ったに違いない。
 稲生は下へ降りる階段に、1歩足を踏み出した。

 ドンッ!

 稲生:「ぅわあっ!?」

 突然、後ろから誰かに突き飛ばされて稲生は空中へ舞った。
 そして次の瞬間、階段の下へと落ちた。

 稲生:「うっ……ぐっ……!」

 案の定、『3時の魔道師』はエレベーターで屋上に上がったわけではなかった。
 但し、下へも降りていなかった。
 防火シャッターのくぐり戸の陰に隠れていたのだった。
 稲生の体に激痛が走り、全く動けない。
 コツ、コツ、とゆっくり階段を下りて来る足音が聞こえてくる。
 革製のブーツでも履いているのだろうか。

 稲生:(くそっ……!)

 稲生は全く体を動かすことができなかった。
 どこか、骨折でもしたのかもしれない。
 頭を打ったのかもしれない。
 そして、彼を突き飛ばしたそれはその前で止まり、そして彼の髪を掴んで引き上げた。
 あいにくと『3時の魔道師』は彼の背後にいる為、彼の目には見えない。
 グッと彼の首に魔法の杖の柄が押しつけられた。
 それがまるで生き物かのように自在に動いて、彼の首に絡みつく。
 それが彼の首を絞めて来た。

 稲生:(だ、誰が……!)

 薄れ行く意識の中、魔法の杖の先端の装飾だけが目に付いた。
 魔道師の杖はそれぞれが個々の魔力に合わせて作られており、1つとして同じデザインのものは無いとされる。
 だが、その装飾が誰の者なのか当てることができず、稲生は自らの意識を途絶えた。
                                         
                     大魔道師の弟子 大いなる政治的圧力により打ち切り
































[同日20:45.天候:晴 同合宿所]

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……ベェ・フォ・ィミ!」
 稲生:「う……」

 稲生は目を覚ました。

 マリア:「ユウタ、大丈夫?大丈夫か?」
 稲生:「マリア……さん……?」
 マリア:「良かった……良かった……生きてた……!」

 マリアは稲生の頭を抱き寄せた。
 マリアが回復魔法を掛けたおかげで、体中の痛みが消えた。

 稲生:「マリアさん……?どうして……?僕は……」
 マリア:「バカ!何で1人で飛び出して行ったの!?『3時の魔道師』は私達よりも強いって言っただろ!それなのに、まだ見習のあなたがこんな……!」
 稲生:「ご、ごめんなさい……」
 マリア:「立てる?私の力では、まだ全回復魔法(※)はまだ使えなくて……。こんなことなら、もっと回復薬を持って来るんだった」

 ※恐らくベホマのことだろう。

 稲生:「いえ……大丈夫です……」

 稲生はマリアに手を貸してもらいながら立ち上がった。
 あれだけどんより曇っていた空が晴れて、ちょうど階段の踊り場を月の光が差し込んでいる。
 マリアの金髪がそれに反射して、とてもきれいに光っていた。

 マリア:「この建物を包み込んでいた気配が無くなった。恐らく、『3時の魔道師』はもうここにはいないのだろう」
 稲生:「そうなんですか。逃げられましたか……」

 そこで稲生、ふと気づく。

 稲生:「あの、荒田君の幽霊は?」
 マリア:「それが消えてしまったんだ。もしかして、ユウタが倒したのか?ほら、ミスター荒田、『仇を取ってくれるまで成仏できない』って言ってただろう?」
 稲生:「その逆です。階段から突き落とされた上、首を絞められて殺されそうになったんですから。そのまま意識が無くなって、気がついたらこんな……」
 マリア:「まあいい。こっちも、とんだ騒ぎだったから」
 稲生:「とんだ騒ぎ?」
 マリア:「ユウタの後を追おうと思ったら、異形の者達がわんさか現れて襲って来たんだ。まあ、私の魔法で何とかなるレベルだったけど。多分、『3時の魔道師』に召喚された者達だっただろう。そしてどうにか階段まで行ったら、今度はシャッターが閉まってる。その鍵を取りに管理人室まで行って、どうにかここに来たってわけ。魔法で開けられるのは鍵だけで、シャッターまでは開けられないからね」

 鍵というか、シャッターを手動で開ける為のクランクだったようだ。
 古い建物ではあるが、防火シャッターをクランクで開閉するって……。

 マリア:「とにかく、ここはもう無用だろう。とにかく、ここを出よう」
 稲生:「は、はい」

 稲生達は裏口から外に出た。

 稲生:「寒い……」

 日光は避暑地である。
 9月の半ば、まだ東京は暑い日もあるが、ここはもう夜ともなれば半袖では寒いくらいである。

 マリア:「ローブを羽織れば、少しは温かくなる」
 稲生:「は、はい」
 マリア:「本当はルゥ・ラで一気に帰りたいところだが、私ももうMPをだいぶ使ってしまった。だから……」
 稲生:「そうですね。タクシーで駅まで戻りましょう。まだ電車は走ってるはずなので……」

 稲生はスマホを取り出し、来る時にもらったタクシーの領収書からその会社に電話を掛けた。
 駅から来るらしいので少し時間は掛かったが、何とかそれに乗ることができた。

 運転手:「こんな時間まで、お過ごしだったんですか?」
 稲生:「ええ、まあ……。あ、行き先は東武日光駅じゃなくて、JR日光駅でお願いします」
 運転手:「はい、JRの方ですね」
 稲生:(運転手さんが同じ人……)
 マリア:(駅に着いたら、師匠に報告しておかないと……)

 そして、稲生達がタクシーで去って行く様子を見ていた者がいた。

 3時の魔道師:(焦ったぁ……。まさかここに来たのが、イリーナの弟子達だったとは……。“魔の者”がダンテ一門の魔道師の誰かに憑依しているという情報を受けて来たのだが、どうやらデマだったようだな)

 そしてその手には、契約書が握られていた。

 3時の魔道師:(契約者の正体を知った人間達の魂は残らず始末したし、契約は満了できたから、こちらとしては良しだがね)

 3時の魔道師は目深に被ったフードの下でほくそ笑むと、瞬間移動魔法でその場から立ち去ったのだった。

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