[2月2日23時29分 天候:曇 栃木県日光市相生町 JR日光線875M列車最後尾車内→JR日光駅]
私達を乗せた最終電車は、無事に日光駅の線路を走行していた。
宇都宮発車時にはそれなりに賑わっていた車内も、鶴田や鹿沼駅でぞろぞろと降りて行き、途中で私達は着席した。
世界的な観光地、日光も、こんな深夜に乗り付ける観光客はいないということだ。
〔まもなく終点、日光、日光。お出口は、右側です。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
乗り換え案内の無いシンプルな自動放送が車内に響き渡る。
ワンマン列車なので、車掌による肉声放送は無い。
電車は速度を落として、副線ホームの2番線に入線した。
1番線には、既に1本前の電車が停車している。
パンタグラフを下ろし、既に車内の照明も消えている。
これが明朝の始発電車となるわけである。
そして、私達の電車はその次の2本目の電車となるわけだ。
ここまで運転してきた運転士も、構内にある乗務員宿泊所で仮眠を取り、翌朝の始発電車を運転することになるのだろう。
ツーマン運転だった頃は、車掌も一緒に泊まっていたはずだ。
〔「ご乗車ありがとうございました。日光、日光、終点です。お忘れ物、落とし物にご注意ください。2番線に到着の電車は、回送です。引き続いてのご乗車はできません。……」〕
私達は電車を降りた。
愛原「うわ、寒ッ!」
高橋「さすが真冬の日光っスねぇ……」
明らかに宇都宮よりも寒い。
かなり標高を稼いだというのが分かる。
愛原「外で待ってるのか?」
高橋「そうですね」
自動改札機にキップを通すと、東京から所持していた乗車券がここで回収される。
駅の外に出る。
どこで車が待っているのかなと思ったが、だいたいすぐに分かった。
駅前のロータリーに、改造キャラバンが止まっていたからだ。
しかも、仕事で使っているのか、屋根には脚立が乗っかっている。
高橋「どーよ、オメェら?」
暴走族A&B「ちゃス」
いきなり低い声で挨拶を交わす高橋達。
1人は少し肥満体で、坊主頭である。
もう1人はほっそりしているが、髪を赤く染めている。
高橋「こちらが愛原先生だ。失礼の無いようにしろよ」
暴走族A「ちゃス。鶴田って言います」
暴走族B「下野です。よろしくおなしゃス」
愛原「愛原です。今日はよろしく。2人だけ?」
鶴田「あと2人いたんスけど、ヒヨッて帰っちゃいましたよ」
高橋「ケンカ弱ェのか?」
下野「Cのヤツは考え過ぎってのもありますし、Dは弱いっス」
愛原「そうなのか。じゃあ、先に情報料渡しておく」
私は鶴田と下野に、諭吉先生を1人ずつ渡した。
鶴田「マジっスか!?こんなに!?」
下野「あざーっス!Dの悔しがる顔が今から想像できるな!?」
鶴田「あいつは自業自得だよ」
高橋「先生から報酬もらったからには、しっかり案内しろよ?」
鶴田「分かってるって。ささ、どうぞ、先生」
鶴田はキャラバンのスライドドアを開けた。
案の定、車内はタバコ臭い。
愛原「ああ、よろしく」
喫煙車であるのを良いことに、高橋は早速タバコを取り出す。
鶴田が運転席に乗り込み、下野が助手席に乗り込んだ。
私は運転席の後ろ、高橋がその隣といった感じ。
鶴田「それじゃ、出発します」
愛原「よろしく」
キャラバンは型落ち式のもので、ディーゼルエンジンの音を響かせて発車した。
マニュアル車のようである。
愛原「ここから現場まで、どれくらい掛かるんだい?」
鶴田「そうっスねぇ……。まあ、40分くらい見てもらえればいいっスよ」
愛原「40分くらいか……」
鶴田「県道を山の方に向かって走って行きますんで」
愛原「それじゃあ、雪道だろうな」
鶴田「そうっスね。まあ、ここ最近は天気良かったんで。そんなに深く積もっちゃいないっスよ」
愛原「そうか……」
[2月3日00時15分 天候:雪 栃木県日光市某所]
愛原「雪が降ってきたな……」
高橋「てかオメーラ、こんな道をあんなクラウンで走ったんか!?」
鶴田「ええ、まあ……」
下野「ちょっとチョーシ乗り過ぎましたね」
高橋「バカじゃねーの、オメーラ!」
愛原「まあまあ。それより、まだ着かないの?」
鶴田「そろそろこの辺です」
下野「ここだよ、ここ!バスが曲がった跡がある!」
鶴田「そうだ。んで、そこがクラウンが突っ込んだ跡」
高橋「よく無事だったなぁ……」
鶴田「さすがは世界のトヨタです」
何時間も前のことだろうに、まだタイヤ痕がくっきり残っているということは、それだけこの道は滅多に車が通らない場所なのだろう。
バスの轍の跡を走って行くと……。
鶴田「ここっス」
愛原「ここか……」
確かに目の前には重厚な鉄扉がドーンとある。
門扉の隙間から中を覗くと、バスの轍はその先に続いていた。
どうやら、この門を開けて中に入ったらしい。
だが、今この門は手で開けようとしても開かなかった。
愛原「さて、どうしたもんか……」
私は周りを見渡した。
付近に監視カメラや防犯センサーのようなものは見当たらない。
こんな雪深い場所を訪れる侵入者などいないと思っているのか。
私は取りあえず、善場主任に現地に着いたこと知らせようと思った。
だが、圏外になっている。
愛原「マジか。まあいい。GPSでBSAAが追っているかもしれないからな」
高橋「! 先生、あれを!」
高橋は車の屋根を指さした。
そこには脚立がある。
鶴田「ああ。クラウンじゃ無理だと思ったんで、オヤジの仕事用のヤツを借りて来たんス」
愛原「ちょっと悪いが、この脚立を貸してくれないか?」
鶴田「えっ?……って、マジっスか?」
愛原「マジだよ。俺と高橋はこれで中に入るから、キミ達は巻き込まれないよう、帰ってくれていい。もちろん、この事は内緒だよ」
鶴田「は、はい……」
高橋「バラしたら、オメーラをバラして男体山の麓に埋める」
鶴田「も、もちろん喋んないっス!」
愛原「悪いね」
私は脚立を伸ばして門扉に掛けた。
それでも門扉のてっぺんまでには届かなかったが、門扉に足を掛ければ、何とか乗り越えられそうな感じがした。
高橋「先生、帰りはどうするんスか?」
愛原「帰り?」
私は内側から閂を開けた。
愛原「これでいいじゃん」
高橋「鍵掛かってないんスね!」
鶴田「先生とマサさん、何か使えそうな物が他にあったら持ってってください」
鶴田は車の中から道具の入った袋や工具箱を持って来た。
高橋「この『バールのようなもの』を借りるぜ。ヒャッハーッ!」
愛原「ハハハ……。じゃあ、お言葉に甘えて、このチェーンカッターとかドライバーセットを借りようかな」
バールのようなもの、チェーンカッター、ドライバーセット(特にマイナスドライバー)、キーピック……。
全部、警察の職質で見つかったら説明が大変なヤツばっかりだ。
高橋「銃は使わないんスか?」
愛原「今回は栗原家の面々からリサを取り戻すだけであって、ゾンビ無双しに来たわけじゃないから」
高橋「なるほど。それもそうっスね」
と、その時だった。
近くで、何かが爆発するような音が響いたのだった。
私達を乗せた最終電車は、無事に日光駅の線路を走行していた。
宇都宮発車時にはそれなりに賑わっていた車内も、鶴田や鹿沼駅でぞろぞろと降りて行き、途中で私達は着席した。
世界的な観光地、日光も、こんな深夜に乗り付ける観光客はいないということだ。
〔まもなく終点、日光、日光。お出口は、右側です。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
乗り換え案内の無いシンプルな自動放送が車内に響き渡る。
ワンマン列車なので、車掌による肉声放送は無い。
電車は速度を落として、副線ホームの2番線に入線した。
1番線には、既に1本前の電車が停車している。
パンタグラフを下ろし、既に車内の照明も消えている。
これが明朝の始発電車となるわけである。
そして、私達の電車はその次の2本目の電車となるわけだ。
ここまで運転してきた運転士も、構内にある乗務員宿泊所で仮眠を取り、翌朝の始発電車を運転することになるのだろう。
ツーマン運転だった頃は、車掌も一緒に泊まっていたはずだ。
〔「ご乗車ありがとうございました。日光、日光、終点です。お忘れ物、落とし物にご注意ください。2番線に到着の電車は、回送です。引き続いてのご乗車はできません。……」〕
私達は電車を降りた。
愛原「うわ、寒ッ!」
高橋「さすが真冬の日光っスねぇ……」
明らかに宇都宮よりも寒い。
かなり標高を稼いだというのが分かる。
愛原「外で待ってるのか?」
高橋「そうですね」
自動改札機にキップを通すと、東京から所持していた乗車券がここで回収される。
駅の外に出る。
どこで車が待っているのかなと思ったが、だいたいすぐに分かった。
駅前のロータリーに、改造キャラバンが止まっていたからだ。
しかも、仕事で使っているのか、屋根には脚立が乗っかっている。
高橋「どーよ、オメェら?」
暴走族A&B「ちゃス」
いきなり低い声で挨拶を交わす高橋達。
1人は少し肥満体で、坊主頭である。
もう1人はほっそりしているが、髪を赤く染めている。
高橋「こちらが愛原先生だ。失礼の無いようにしろよ」
暴走族A「ちゃス。鶴田って言います」
暴走族B「下野です。よろしくおなしゃス」
愛原「愛原です。今日はよろしく。2人だけ?」
鶴田「あと2人いたんスけど、ヒヨッて帰っちゃいましたよ」
高橋「ケンカ弱ェのか?」
下野「Cのヤツは考え過ぎってのもありますし、Dは弱いっス」
愛原「そうなのか。じゃあ、先に情報料渡しておく」
私は鶴田と下野に、諭吉先生を1人ずつ渡した。
鶴田「マジっスか!?こんなに!?」
下野「あざーっス!Dの悔しがる顔が今から想像できるな!?」
鶴田「あいつは自業自得だよ」
高橋「先生から報酬もらったからには、しっかり案内しろよ?」
鶴田「分かってるって。ささ、どうぞ、先生」
鶴田はキャラバンのスライドドアを開けた。
案の定、車内はタバコ臭い。
愛原「ああ、よろしく」
喫煙車であるのを良いことに、高橋は早速タバコを取り出す。
鶴田が運転席に乗り込み、下野が助手席に乗り込んだ。
私は運転席の後ろ、高橋がその隣といった感じ。
鶴田「それじゃ、出発します」
愛原「よろしく」
キャラバンは型落ち式のもので、ディーゼルエンジンの音を響かせて発車した。
マニュアル車のようである。
愛原「ここから現場まで、どれくらい掛かるんだい?」
鶴田「そうっスねぇ……。まあ、40分くらい見てもらえればいいっスよ」
愛原「40分くらいか……」
鶴田「県道を山の方に向かって走って行きますんで」
愛原「それじゃあ、雪道だろうな」
鶴田「そうっスね。まあ、ここ最近は天気良かったんで。そんなに深く積もっちゃいないっスよ」
愛原「そうか……」
[2月3日00時15分 天候:雪 栃木県日光市某所]
愛原「雪が降ってきたな……」
高橋「てかオメーラ、こんな道をあんなクラウンで走ったんか!?」
鶴田「ええ、まあ……」
下野「ちょっとチョーシ乗り過ぎましたね」
高橋「バカじゃねーの、オメーラ!」
愛原「まあまあ。それより、まだ着かないの?」
鶴田「そろそろこの辺です」
下野「ここだよ、ここ!バスが曲がった跡がある!」
鶴田「そうだ。んで、そこがクラウンが突っ込んだ跡」
高橋「よく無事だったなぁ……」
鶴田「さすがは世界のトヨタです」
何時間も前のことだろうに、まだタイヤ痕がくっきり残っているということは、それだけこの道は滅多に車が通らない場所なのだろう。
バスの轍の跡を走って行くと……。
鶴田「ここっス」
愛原「ここか……」
確かに目の前には重厚な鉄扉がドーンとある。
門扉の隙間から中を覗くと、バスの轍はその先に続いていた。
どうやら、この門を開けて中に入ったらしい。
だが、今この門は手で開けようとしても開かなかった。
愛原「さて、どうしたもんか……」
私は周りを見渡した。
付近に監視カメラや防犯センサーのようなものは見当たらない。
こんな雪深い場所を訪れる侵入者などいないと思っているのか。
私は取りあえず、善場主任に現地に着いたこと知らせようと思った。
だが、圏外になっている。
愛原「マジか。まあいい。GPSでBSAAが追っているかもしれないからな」
高橋「! 先生、あれを!」
高橋は車の屋根を指さした。
そこには脚立がある。
鶴田「ああ。クラウンじゃ無理だと思ったんで、オヤジの仕事用のヤツを借りて来たんス」
愛原「ちょっと悪いが、この脚立を貸してくれないか?」
鶴田「えっ?……って、マジっスか?」
愛原「マジだよ。俺と高橋はこれで中に入るから、キミ達は巻き込まれないよう、帰ってくれていい。もちろん、この事は内緒だよ」
鶴田「は、はい……」
高橋「バラしたら、オメーラをバラして男体山の麓に埋める」
鶴田「も、もちろん喋んないっス!」
愛原「悪いね」
私は脚立を伸ばして門扉に掛けた。
それでも門扉のてっぺんまでには届かなかったが、門扉に足を掛ければ、何とか乗り越えられそうな感じがした。
高橋「先生、帰りはどうするんスか?」
愛原「帰り?」
私は内側から閂を開けた。
愛原「これでいいじゃん」
高橋「鍵掛かってないんスね!」
鶴田「先生とマサさん、何か使えそうな物が他にあったら持ってってください」
鶴田は車の中から道具の入った袋や工具箱を持って来た。
高橋「この『バールのようなもの』を借りるぜ。ヒャッハーッ!」
愛原「ハハハ……。じゃあ、お言葉に甘えて、このチェーンカッターとかドライバーセットを借りようかな」
バールのようなもの、チェーンカッター、ドライバーセット(特にマイナスドライバー)、キーピック……。
全部、警察の職質で見つかったら説明が大変なヤツばっかりだ。
高橋「銃は使わないんスか?」
愛原「今回は栗原家の面々からリサを取り戻すだけであって、ゾンビ無双しに来たわけじゃないから」
高橋「なるほど。それもそうっスね」
と、その時だった。
近くで、何かが爆発するような音が響いたのだった。
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