報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「愛原達、日光へ」

2023-12-02 12:00:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月2日23時29分 天候:曇 栃木県日光市相生町 JR日光線875M列車最後尾車内→JR日光駅]

 私達を乗せた最終電車は、無事に日光駅の線路を走行していた。
 宇都宮発車時にはそれなりに賑わっていた車内も、鶴田や鹿沼駅でぞろぞろと降りて行き、途中で私達は着席した。
 世界的な観光地、日光も、こんな深夜に乗り付ける観光客はいないということだ。

〔まもなく終点、日光、日光。お出口は、右側です。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 乗り換え案内の無いシンプルな自動放送が車内に響き渡る。
 ワンマン列車なので、車掌による肉声放送は無い。
 電車は速度を落として、副線ホームの2番線に入線した。
 1番線には、既に1本前の電車が停車している。
 パンタグラフを下ろし、既に車内の照明も消えている。
 これが明朝の始発電車となるわけである。
 そして、私達の電車はその次の2本目の電車となるわけだ。
 ここまで運転してきた運転士も、構内にある乗務員宿泊所で仮眠を取り、翌朝の始発電車を運転することになるのだろう。
 ツーマン運転だった頃は、車掌も一緒に泊まっていたはずだ。

 

〔「ご乗車ありがとうございました。日光、日光、終点です。お忘れ物、落とし物にご注意ください。2番線に到着の電車は、回送です。引き続いてのご乗車はできません。……」〕

 私達は電車を降りた。

 愛原「うわ、寒ッ!」
 高橋「さすが真冬の日光っスねぇ……」

 明らかに宇都宮よりも寒い。
 かなり標高を稼いだというのが分かる。

 愛原「外で待ってるのか?」
 高橋「そうですね」

 自動改札機にキップを通すと、東京から所持していた乗車券がここで回収される。

 

 駅の外に出る。
 どこで車が待っているのかなと思ったが、だいたいすぐに分かった。
 駅前のロータリーに、改造キャラバンが止まっていたからだ。
 しかも、仕事で使っているのか、屋根には脚立が乗っかっている。

 高橋「どーよ、オメェら?」
 暴走族A&B「ちゃス」

 いきなり低い声で挨拶を交わす高橋達。
 1人は少し肥満体で、坊主頭である。
 もう1人はほっそりしているが、髪を赤く染めている。

 高橋「こちらが愛原先生だ。失礼の無いようにしろよ」
 暴走族A「ちゃス。鶴田って言います」
 暴走族B「下野です。よろしくおなしゃス」
 愛原「愛原です。今日はよろしく。2人だけ?」
 鶴田「あと2人いたんスけど、ヒヨッて帰っちゃいましたよ」
 高橋「ケンカ弱ェのか?」
 下野「Cのヤツは考え過ぎってのもありますし、Dは弱いっス」
 愛原「そうなのか。じゃあ、先に情報料渡しておく」

 私は鶴田と下野に、諭吉先生を1人ずつ渡した。

 鶴田「マジっスか!?こんなに!?」
 下野「あざーっス!Dの悔しがる顔が今から想像できるな!?」
 鶴田「あいつは自業自得だよ」
 高橋「先生から報酬もらったからには、しっかり案内しろよ?」
 鶴田「分かってるって。ささ、どうぞ、先生」

 鶴田はキャラバンのスライドドアを開けた。
 案の定、車内はタバコ臭い。

 愛原「ああ、よろしく」

 喫煙車であるのを良いことに、高橋は早速タバコを取り出す。
 鶴田が運転席に乗り込み、下野が助手席に乗り込んだ。
 私は運転席の後ろ、高橋がその隣といった感じ。

 鶴田「それじゃ、出発します」
 愛原「よろしく」

 キャラバンは型落ち式のもので、ディーゼルエンジンの音を響かせて発車した。
 マニュアル車のようである。

 愛原「ここから現場まで、どれくらい掛かるんだい?」
 鶴田「そうっスねぇ……。まあ、40分くらい見てもらえればいいっスよ」
 愛原「40分くらいか……」
 鶴田「県道を山の方に向かって走って行きますんで」
 愛原「それじゃあ、雪道だろうな」
 鶴田「そうっスね。まあ、ここ最近は天気良かったんで。そんなに深く積もっちゃいないっスよ」
 愛原「そうか……」

[2月3日00時15分 天候:雪 栃木県日光市某所]

 愛原「雪が降ってきたな……」
 高橋「てかオメーラ、こんな道をあんなクラウンで走ったんか!?」
 鶴田「ええ、まあ……」
 下野「ちょっとチョーシ乗り過ぎましたね」
 高橋「バカじゃねーの、オメーラ!」
 愛原「まあまあ。それより、まだ着かないの?」
 鶴田「そろそろこの辺です」
 下野「ここだよ、ここ!バスが曲がった跡がある!」
 鶴田「そうだ。んで、そこがクラウンが突っ込んだ跡」
 高橋「よく無事だったなぁ……」
 鶴田「さすがは世界のトヨタです」

 何時間も前のことだろうに、まだタイヤ痕がくっきり残っているということは、それだけこの道は滅多に車が通らない場所なのだろう。
 バスの轍の跡を走って行くと……。

 鶴田「ここっス」
 愛原「ここか……」

 確かに目の前には重厚な鉄扉がドーンとある。
 門扉の隙間から中を覗くと、バスの轍はその先に続いていた。
 どうやら、この門を開けて中に入ったらしい。
 だが、今この門は手で開けようとしても開かなかった。

 愛原「さて、どうしたもんか……」

 私は周りを見渡した。
 付近に監視カメラや防犯センサーのようなものは見当たらない。
 こんな雪深い場所を訪れる侵入者などいないと思っているのか。
 私は取りあえず、善場主任に現地に着いたこと知らせようと思った。
 だが、圏外になっている。

 愛原「マジか。まあいい。GPSでBSAAが追っているかもしれないからな」
 高橋「! 先生、あれを!」

 高橋は車の屋根を指さした。
 そこには脚立がある。

 鶴田「ああ。クラウンじゃ無理だと思ったんで、オヤジの仕事用のヤツを借りて来たんス」
 愛原「ちょっと悪いが、この脚立を貸してくれないか?」
 鶴田「えっ?……って、マジっスか?」
 愛原「マジだよ。俺と高橋はこれで中に入るから、キミ達は巻き込まれないよう、帰ってくれていい。もちろん、この事は内緒だよ」
 鶴田「は、はい……」
 高橋「バラしたら、オメーラをバラして男体山の麓に埋める」
 鶴田「も、もちろん喋んないっス!」
 愛原「悪いね」

 私は脚立を伸ばして門扉に掛けた。
 それでも門扉のてっぺんまでには届かなかったが、門扉に足を掛ければ、何とか乗り越えられそうな感じがした。

 高橋「先生、帰りはどうするんスか?」
 愛原「帰り?」

 私は内側から閂を開けた。

 愛原「これでいいじゃん」
 高橋「鍵掛かってないんスね!」
 鶴田「先生とマサさん、何か使えそうな物が他にあったら持ってってください」

 鶴田は車の中から道具の入った袋や工具箱を持って来た。

 高橋「この『バールのようなもの』を借りるぜ。ヒャッハーッ!」
 愛原「ハハハ……。じゃあ、お言葉に甘えて、このチェーンカッターとかドライバーセットを借りようかな」

 バールのようなもの、チェーンカッター、ドライバーセット(特にマイナスドライバー)、キーピック……。
 全部、警察の職質で見つかったら説明が大変なヤツばっかりだ。

 高橋「銃は使わないんスか?」
 愛原「今回は栗原家の面々からリサを取り戻すだけであって、ゾンビ無双しに来たわけじゃないから」
 高橋「なるほど。それもそうっスね」

 と、その時だった。
 近くで、何かが爆発するような音が響いたのだった。

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