[5月のある時期 地獄界“賽の河原” 蓬莱山鬼之助]
(こりゃ、とんでも無い大ネタが転がり込んできたもんだ。もしオレが週刊誌の記者だったら、思いっきりスッパ抜いてやるところだな)
キノは事務所センターの資料室で、ユタよりも先に真相に辿り着いていた。
(まあ、もっとも、オレがこれを知ったところで、オレには何の旨味も無いし、奴らに教える筋合いも無ェか……)
「おっ、ここにいたのか」
「ん?あっ、カントク」
そこへ青鬼監督がやってきた。
「キミが希望していたある人物の面談が決定したよ」
「マジっスか?」
「数多の亡者の中から模範的な者、見所のある者を選抜して面談するというアイディア、本庁から好評みたいたぞ。さすがキミも、なかなかのアイディアマンだなー」
「はあ、どうも……。(いやオレ、テキトーに言っただけなんだけど……)」
キノは苦笑を隠すのが精一杯だった。
「で、誰と面談させてくれるんスか?何人かチョイスしたと思うんスけど……」
「えーとね……。確か、アンジェラとか言ったな。そうそう。アンジェラ・ヒロタとかいう日系人だ」
「マジっスか」
「この人物が、何だと言うのかね?」
「いや、ちょっと気になることがありまして……。(分析した資料で、だいたい分かったけど)」
キノは持っていた資料の内容を復習した。
(実年齢はもう20代前半ってところだが、ここでは歳を取らねぇから、死亡した18歳のままか……)
キノは面談室のドアを開けた。
「…………」
机の前に座っているのは、長い金髪に透き通るような白い肌を持っている女性。
しかし、瞳の色はキノ達が妖力を開放した時のような赤色で、顔立ちは日本人に似ている所がある。
まあまあ、美人な方だろう。
「あー、それじゃ面談を始める。オレはここの特別巡視班の班長で、蓬莱山鬼之助という。よろしく」
「アンジェラ・ヒロタです」
「お前のことは色々と資料で調べた。早速だが、聞きたいことがある。答えてくれ。……マリアンナ・ベルゼ・スカーレットって知ってるか?」
「!」
その名前を聞いた時、アンジェラは俯いていた顔をパッと上げた。
「資料によれば当時、ミドルネームは無かったようだが。この者について、いくつか聞きたい」
[5月3日 10:00.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
「うーん……。快適な家だわ。ここならマリアも、悪夢を見ずに済むのにねぇ……」
「おはようございます。イリーナさん」
ユタは起きてきたイリーナに挨拶した。
「てか、今何時だと思ってんだ」
「まあまあ、威吹。イリーナさんはお客さんなんだから」
「そうよ。ちゃんと、宿泊代は払うからね」
「いえ、そんな、いいですよ!」
ユタが慌てて手を振った。
「だーいじょーぶだって!ユウタ君が遠慮すると思って、あからさまに現ナマで払うわけじゃないから」
「えっ、どういうことですか?」
「ユウタ君、明日から旅行に行くんでしょう?」
「えっ、どうしてそれを!?」
「魔道師の異能の1つは、無意識に予知夢を見ることよ。ユウタ君もたまに予知夢を見ることがあるでしょう?生まれつき高い霊力も持ってるから、このまま埋もれさせるには惜しいと思ってるんだけどね」
さりげなく魔道師になることへの勧誘をするイリーナだった。
「突然なんですよ。宮城に住む親戚からで、ゴールデンウィークに遊びに来ないかって。友達も大勢連れてきていいぞって」
「ユタの親戚って、何をしてるの?」
「ただの農家だよ。それにほら……」
ユタは書留の封筒を持っていた。
「新幹線のキップも入ってた。自由席だけど」
「この時期に自由席はキツいわねぇ……。苦行だわ、きっと」
「末法の世の中に、苦行は不要なんですけどねぇ……」
「まあいいわ。いつ行くの?」
「えっ?明日ですけど……」
「そうじゃなくて、明日のどの列車に乗るの?」
「そうですねぇ……。なるべく早い方がいいのかな……。午前中辺りがいいかも……」
「OK。午前中ね」
「……って、イリーナさんも行く気ですか!?」
「友達、大勢連れてきていいんでしょ?じゃ、今回は私は『先生』としてではなく、皆の『友達』として行きましょうか」
「いつ、誰がオマエの先生になったんだ?」
威吹が苦言を言った。
「少なくともオレにとっては、威吹先生はオレの先生です」
「……カンジ君、そこはマジメに答えなくていいんだよ」
ユタは小さく溜め息をつきながら言った。そして、続けて言う。
「その前に、僕の両親が今日、都内で夕食をご馳走してくれるそうだから、皆で行きましょう」
「えっ、『親子水入らず』じゃないの?」
威吹が目を丸くした。
「威吹達には僕の日常の世話をしてくれてるから、そのお礼もあるんだって。何か両親も、『友達連れてきていいぞ』なんて言ってたんだけど……」
「ユタの学友を呼べばいいじゃない?」
と、威吹。
「それが、皆して旅行に行ったり、実家に帰省してたりして連絡が取れないんだ」
「マリアが今日来られれば、マリアを連れて行って、『ユウタ君の新しい彼女です』って紹介してあげられたのにねぇ……」
イリーナは残念そうな顔をした。
「えっ?ええ、そうですね……」
ユタはイリーナ発言に驚きながらも、一応同調した。
「もう既に資料は揃えておいたのに、本当残念だわ」
イリーナは魔道師のローブの中から、まるで四次元ポケットのように釣書やら何やらマリアの個人情報満載の資料を取り出した。
「……テメェ、オレんとこのユタに何する気だ?」
「まるで見合いのセッティングですね……」
カンジは資料の一部に目を通して、呆れたように言った。
しかし、顔だけは相変わらずのポーカーフェイスのままだった。
[5月3日 時刻不明 地獄界“賽の河原” 蓬莱山鬼之助&アンジェラ・ヒロタ]
「……その話、本当なんだな?もし嘘だと分かったら、お前は無間地獄行きになるぜ?」
「嘘じゃない。本当よ」
「あの魔道師、とんでもねぇ……!」
面談を終えたキノは、事務室に戻って来た。
「おお、鬼之助君、ご苦労さん」
青鬼監督が話し掛けて来た。
「どうもっス」
「どうだった?あの亡者は見所がありそうかい?」
「それ以前の問題っスよ、カントク」
「何が?」
キノは青鬼監督にアンジェラとの面談の内容を話した。
「ふむ……。そうなると、確かにそのマリアとかいう魔道師は魔道師にならなければ、本来ここに来るべき者だったか……」
「カントク。こうなったら、他の関係者とも面談したいくらいっス。マリアに悉く殺された亡者達の証言を」
「まあ、待ちなさい。確かに、人間界では歴史に残る大ニュースかもしれない。しかしここは地獄界だ。キミも叫喚地獄にいた時に見て来ただろう?戦災に遭って死んで、そこにやってきた亡者達を……」
「こっちではその情報が伝わってるからいいっスけど、魔道師がどうのなんてニュースはさっぱり来ないんスよ?ヘタすりゃ、地獄界を愚弄する行為っス」
「そこまで大げさではないと思うがね。とにかく、面談はあれだけにしておきなさい。あれだけでも、十分キミの知りたいことは分かっただろう?……今は魔道師となっている者に殺された、最後の人間だ」
「はあ……分かりました」
「こういうのは最初の人間より、より事情を知り得た最後の人間に聞くのがいい」
「監督……!」
キノの驚いた顔に、青鬼監督はニヤリと笑った。
[同日15:25.さいたま市中央区 上落合8丁目バス停 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ]
「明日はマリアさん、来てくれるんですか?」
「さっきあのコに連絡したからね。ちゃんと来てくれるそうよ」
「でも、体の具合が悪いのに、何か申し訳ないなぁ……」
「だーいじょーぶだって。いざとなったら、私が魔術であのコを召喚するから」
「おおっ!召喚魔法ですか!?」
「まあ、そんなところね」
そんなことを話していると、バスがやってきた。
〔「大宮駅西口行きです」〕
「私、Suica持ってないよ?」
「現金で乗ればいいだろう?」
「大丈夫です。僕が出しますから」
バスに乗り込んだ。
バスはユタ達を乗せると、すぐに発車した。
〔次は上小小学校、上小小学校。……〕
「ユウタ君、お昼のテレビ見た?」
「あっと……すいません、ゲームやってたんで、よくは……。何か面白いニュースでも?」
「終始、司会者の後ろの窓の外で、ラジオ体操をしているオジさんがいたの。あれは何気にいい感じだったわ」
「どうしてそこをツボとするかなぁ……」
威吹は窓の外を見ながら、呟くように突っ込んだ。
(こりゃ、とんでも無い大ネタが転がり込んできたもんだ。もしオレが週刊誌の記者だったら、思いっきりスッパ抜いてやるところだな)
キノは事務所センターの資料室で、ユタよりも先に真相に辿り着いていた。
(まあ、もっとも、オレがこれを知ったところで、オレには何の旨味も無いし、奴らに教える筋合いも無ェか……)
「おっ、ここにいたのか」
「ん?あっ、カントク」
そこへ青鬼監督がやってきた。
「キミが希望していたある人物の面談が決定したよ」
「マジっスか?」
「数多の亡者の中から模範的な者、見所のある者を選抜して面談するというアイディア、本庁から好評みたいたぞ。さすがキミも、なかなかのアイディアマンだなー」
「はあ、どうも……。(いやオレ、テキトーに言っただけなんだけど……)」
キノは苦笑を隠すのが精一杯だった。
「で、誰と面談させてくれるんスか?何人かチョイスしたと思うんスけど……」
「えーとね……。確か、アンジェラとか言ったな。そうそう。アンジェラ・ヒロタとかいう日系人だ」
「マジっスか」
「この人物が、何だと言うのかね?」
「いや、ちょっと気になることがありまして……。(分析した資料で、だいたい分かったけど)」
キノは持っていた資料の内容を復習した。
(実年齢はもう20代前半ってところだが、ここでは歳を取らねぇから、死亡した18歳のままか……)
キノは面談室のドアを開けた。
「…………」
机の前に座っているのは、長い金髪に透き通るような白い肌を持っている女性。
しかし、瞳の色はキノ達が妖力を開放した時のような赤色で、顔立ちは日本人に似ている所がある。
まあまあ、美人な方だろう。
「あー、それじゃ面談を始める。オレはここの特別巡視班の班長で、蓬莱山鬼之助という。よろしく」
「アンジェラ・ヒロタです」
「お前のことは色々と資料で調べた。早速だが、聞きたいことがある。答えてくれ。……マリアンナ・ベルゼ・スカーレットって知ってるか?」
「!」
その名前を聞いた時、アンジェラは俯いていた顔をパッと上げた。
「資料によれば当時、ミドルネームは無かったようだが。この者について、いくつか聞きたい」
[5月3日 10:00.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
「うーん……。快適な家だわ。ここならマリアも、悪夢を見ずに済むのにねぇ……」
「おはようございます。イリーナさん」
ユタは起きてきたイリーナに挨拶した。
「てか、今何時だと思ってんだ」
「まあまあ、威吹。イリーナさんはお客さんなんだから」
「そうよ。ちゃんと、宿泊代は払うからね」
「いえ、そんな、いいですよ!」
ユタが慌てて手を振った。
「だーいじょーぶだって!ユウタ君が遠慮すると思って、あからさまに現ナマで払うわけじゃないから」
「えっ、どういうことですか?」
「ユウタ君、明日から旅行に行くんでしょう?」
「えっ、どうしてそれを!?」
「魔道師の異能の1つは、無意識に予知夢を見ることよ。ユウタ君もたまに予知夢を見ることがあるでしょう?生まれつき高い霊力も持ってるから、このまま埋もれさせるには惜しいと思ってるんだけどね」
さりげなく魔道師になることへの勧誘をするイリーナだった。
「突然なんですよ。宮城に住む親戚からで、ゴールデンウィークに遊びに来ないかって。友達も大勢連れてきていいぞって」
「ユタの親戚って、何をしてるの?」
「ただの農家だよ。それにほら……」
ユタは書留の封筒を持っていた。
「新幹線のキップも入ってた。自由席だけど」
「この時期に自由席はキツいわねぇ……。苦行だわ、きっと」
「末法の世の中に、苦行は不要なんですけどねぇ……」
「まあいいわ。いつ行くの?」
「えっ?明日ですけど……」
「そうじゃなくて、明日のどの列車に乗るの?」
「そうですねぇ……。なるべく早い方がいいのかな……。午前中辺りがいいかも……」
「OK。午前中ね」
「……って、イリーナさんも行く気ですか!?」
「友達、大勢連れてきていいんでしょ?じゃ、今回は私は『先生』としてではなく、皆の『友達』として行きましょうか」
「いつ、誰がオマエの先生になったんだ?」
威吹が苦言を言った。
「少なくともオレにとっては、威吹先生はオレの先生です」
「……カンジ君、そこはマジメに答えなくていいんだよ」
ユタは小さく溜め息をつきながら言った。そして、続けて言う。
「その前に、僕の両親が今日、都内で夕食をご馳走してくれるそうだから、皆で行きましょう」
「えっ、『親子水入らず』じゃないの?」
威吹が目を丸くした。
「威吹達には僕の日常の世話をしてくれてるから、そのお礼もあるんだって。何か両親も、『友達連れてきていいぞ』なんて言ってたんだけど……」
「ユタの学友を呼べばいいじゃない?」
と、威吹。
「それが、皆して旅行に行ったり、実家に帰省してたりして連絡が取れないんだ」
「マリアが今日来られれば、マリアを連れて行って、『ユウタ君の新しい彼女です』って紹介してあげられたのにねぇ……」
イリーナは残念そうな顔をした。
「えっ?ええ、そうですね……」
ユタはイリーナ発言に驚きながらも、一応同調した。
「もう既に資料は揃えておいたのに、本当残念だわ」
イリーナは魔道師のローブの中から、まるで四次元ポケットのように釣書やら何やらマリアの個人情報満載の資料を取り出した。
「……テメェ、オレんとこのユタに何する気だ?」
「まるで見合いのセッティングですね……」
カンジは資料の一部に目を通して、呆れたように言った。
しかし、顔だけは相変わらずのポーカーフェイスのままだった。
[5月3日 時刻不明 地獄界“賽の河原” 蓬莱山鬼之助&アンジェラ・ヒロタ]
「……その話、本当なんだな?もし嘘だと分かったら、お前は無間地獄行きになるぜ?」
「嘘じゃない。本当よ」
「あの魔道師、とんでもねぇ……!」
面談を終えたキノは、事務室に戻って来た。
「おお、鬼之助君、ご苦労さん」
青鬼監督が話し掛けて来た。
「どうもっス」
「どうだった?あの亡者は見所がありそうかい?」
「それ以前の問題っスよ、カントク」
「何が?」
キノは青鬼監督にアンジェラとの面談の内容を話した。
「ふむ……。そうなると、確かにそのマリアとかいう魔道師は魔道師にならなければ、本来ここに来るべき者だったか……」
「カントク。こうなったら、他の関係者とも面談したいくらいっス。マリアに悉く殺された亡者達の証言を」
「まあ、待ちなさい。確かに、人間界では歴史に残る大ニュースかもしれない。しかしここは地獄界だ。キミも叫喚地獄にいた時に見て来ただろう?戦災に遭って死んで、そこにやってきた亡者達を……」
「こっちではその情報が伝わってるからいいっスけど、魔道師がどうのなんてニュースはさっぱり来ないんスよ?ヘタすりゃ、地獄界を愚弄する行為っス」
「そこまで大げさではないと思うがね。とにかく、面談はあれだけにしておきなさい。あれだけでも、十分キミの知りたいことは分かっただろう?……今は魔道師となっている者に殺された、最後の人間だ」
「はあ……分かりました」
「こういうのは最初の人間より、より事情を知り得た最後の人間に聞くのがいい」
「監督……!」
キノの驚いた顔に、青鬼監督はニヤリと笑った。
[同日15:25.さいたま市中央区 上落合8丁目バス停 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ]
「明日はマリアさん、来てくれるんですか?」
「さっきあのコに連絡したからね。ちゃんと来てくれるそうよ」
「でも、体の具合が悪いのに、何か申し訳ないなぁ……」
「だーいじょーぶだって。いざとなったら、私が魔術であのコを召喚するから」
「おおっ!召喚魔法ですか!?」
「まあ、そんなところね」
そんなことを話していると、バスがやってきた。
〔「大宮駅西口行きです」〕
「私、Suica持ってないよ?」
「現金で乗ればいいだろう?」
「大丈夫です。僕が出しますから」
バスに乗り込んだ。
バスはユタ達を乗せると、すぐに発車した。
〔次は上小小学校、上小小学校。……〕
「ユウタ君、お昼のテレビ見た?」
「あっと……すいません、ゲームやってたんで、よくは……。何か面白いニュースでも?」
「終始、司会者の後ろの窓の外で、ラジオ体操をしているオジさんがいたの。あれは何気にいい感じだったわ」
「どうしてそこをツボとするかなぁ……」
威吹は窓の外を見ながら、呟くように突っ込んだ。
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