報恩坊の怪しい偽作家!

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“戦う社長の物語” 「四季グループの仕事納め」 2

2017-12-30 22:47:58 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月29日21:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 ホテルメトロポリタン池袋]

 四季グループの本社における仕事納めの打ち上げは、近隣の高級ホテルで行われる。

 司会:「それでは皆様、宴もたけなわではございますが、終了のお時間となったようでございます。それでは最後に会長より、本年最後の挨拶を賜りたいと存じます。会長、お願いします」
 敷島俊介:「いよっ!」
 敷島峰雄:「えー、せっかくの盛り上がりのところ、非常に残念ではありますが、時間が来てしまったということで……。中には役員のくせに子供っぽく、別の役員のカツラを釣り竿で釣り上げようとした不届き者もいたわけですが……」
 敷島孝夫:「えっ?いや、あっしはただ、大草専務と釣りの話をしてただけっスよ!?」

 会場内に笑いが起きる。

 峰雄:「本年最後の宴会も盛り上がったこと、心より嬉しく思います。皆さんもとっくにご存知の通り、芸能界は常に目まぐるしく変化を遂げており、業界の雄たる四季グループとしては、何としてでもその時流に乗り遅れてはいけないのであります。従いまして……」
 孝夫:「シンディ、この釣り竿、どこかに隠しておいてくれ」
 シンディ:「隔せって、どこからお持ちになったんですか?」
 孝夫:「バックヤードだよ」
 シンディ:「分かりました」
 峰雄:「……また、政治的な問題も色々とあるところではありますが……」
 孝夫:「バカ、シンディ!そっちじゃない。向こう!」
 シンディ:「自分で片付けて来てくださいよ、もう!」
 孝夫:「分かったから、貸せ!」

 孝夫、シンディより乱暴に釣り竿を引っ手繰る。
 釣り糸と釣り針が大きく振れて、何かに引っ掛かる。

 孝夫:「恐らく、矢沢専務の釣り竿だ。幸いあの人、かなり酔っ払ってて、まだ釣り竿に気づいていない」
 エミリー:「勝手に持ち出ししたりしたら、ダメじゃないですか」
 孝夫:「バレないうちに戻しておくぞ。……あれ?何か引っ掛かってる?うりゃっ!」
 エミリー:「社長、何に引っ掛かったのか確認しませんと!」
 孝夫:「んなこと知らねーし!早いとこ戻さないとバレる」

 孝夫、リールをグルグル巻く。
 そして!

 峰雄:「……来年には社員だけでなく、役員もまた一丸となって……」

 スポッ!

 孝夫:「よし、取れた!急ぐぞ!」
 エミリー:「!!!」
 シンディ:「!!!」

 何故か会場内が凍り付く。

 孝夫:「あ、何だこれ?……あ、ヅラ!?……うそっ!?あれ?だって、大草専務はあっちに……。ん?リーゼントじゃないな。誰の?」
 俊介:「あ、あの、会長。どうか穏便に……」
 峰雄:「
 エミリー:「会長の……のようです」
 シンディ:「あ、あたし、知らない!」
 孝夫:「こ、こりゃとんだ大物を……!いや、何かここ最近、会長の頭がフサフサしてるなぁとは思ったんですが……。そ、それでは皆様、良いお年を!!」

 ダッシュで逃げる孝夫だった。

 エミリー:「社長、待ってください!」
 シンディ:「社長!」

 だが、後で追おうとしたシンディ、峰雄に腕を掴まれる。

 峰雄:「孝夫に伝えておけ。新年の挨拶、楽しみにしているからと……!」
 シンディ:「か、かしこまりました……」

 孝夫、ホテルのタクシー乗り場からタクシーに飛び乗る。

 エミリー:「社長、待ってください」
 シンディ:「社長!」
 孝夫:「早くしろ、早く!」
 運転手:「ど、どちらまでですか?」
 孝夫:「埼玉の大宮まで!高速代はもちろん払うから、それ経由でよろしく!」
 運転手:「か、かしこまりました」

 タクシーは急いで発進した。
 ホテルを出てから酔客の行き交う池袋の町に出る。
 助手席に座っているシンディがリアシートの方を振り向いた。

 シンディ:「会長、お怒りでしたよ」
 孝夫:「参ったなぁ……。まさか、大草専務だけでなく、会長までヅラだったとは……。ヅラならヅラと言えってんだ、全く」

 と、孝夫がムチャクチャなことを言う。
 反省の気持ち、ほとんどゼロである。

 エミリー:「どうなさいます?」
 孝夫:「新年の挨拶ぅ?こちとら、平賀先生の所に挨拶に行く予定なんだよ。予定は変えん」
 シンディ:「い、いいんですか?」
 孝夫:「元々役員やりたくてなったわけじゃないから。財団が崩壊して、ミク達に行き場が無くなって、それが可哀想だったから、しょうがなく起業しただけなんだ。それが伯父さん達の会社の子会社にされただけだから。役員クビでも何でもしろって。その代わり、ミク達の行き場は確保してほしいと」
 シンディ:「社長、あのね……」
 エミリー:「社長。申し訳ありませんが、そのお考えには賛同しかねます」
 孝夫:「エミリー」
 エミリー:「いかに敷島エージェンシーが四季グループ有力企業になっているとはいえ、あくまでも評価は敷島エージェンシーという法人なのです。初音ミクやMEIKOなどの個人ではありません。社長が敷島エージェンシーの代表である以上、社長のグループ内における評価の下落はイコール、ミク達の首を絞め上げてしまうようなものです。社長が役員の地位を追われるだけで済む話ではないと思われます」
 シンディ:「私もそう思う。確かにボーカロイド達のマスターはあなただけど、そのあなたの首を掴んでいるのは俊介社長と峰雄会長だということは忘れない方がいいと思う……思います」
 孝夫:「……分かったよ。ほんと、同族企業ってのは面倒だな」

 敷島は自分のスマホを取った。

 孝夫:「あ、会長の秘書さんですか?敷島エージェンシーの敷島孝夫です。……どうも」

 孝夫の秘書達はここにいるガイノイド達であるが、他の役員の秘書達はちゃんとした人間である。

 孝夫:「……ええ。ですので新年と言わず、今からでもお詫びに……ダメ?いえ、そこを何とか……」

 エミリーとシンディ、顔を見合わせて微笑んだ。

 孝夫:「……すいません。それじゃ、明日……はい」

 敷島は電話を切った。

 孝夫:「明日、お詫びに行く。菓子折り、見繕っておいてくれ」
 シンディ:「はい!」
 エミリー:「かしこまりました」

 敷島が電話を終えた頃、既にタクシーは首都高速5号線を北上していた。

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