(稲生の一人称です)
大河内君の話が終わった。
だが、それは魔道師達を敵に回す内容であった。
恐らく本人は悪気も無ければ、その理由も分からないだろう。
確かにその話に出て来た魔女の作る妙薬の材料が人間の目玉だなんて、誰も信じないと思う。
信じられるのは、実際それと似たようなものを材料に妙薬を作っていたところを見たことがある僕ぐらいのものだ。
しかしこの辺、魔女達は神経質だ。
たかが一介の人間がたまたま知り得たことをそのままにするのならともかく、それを口外してしまったことなど、すぐに嗅ぎ付けることだろう。
僕は急いで、自分のスマホを出した。
確かマリアさんは、ワンスターホテルに泊まっているはずだ。
だが、何故かおかしい。
スマホの電源が入らない。
何度横の起動ボタンを押しても、待受画面が出て来ないのだ。
新聞部の部室に入った時、まだバッテリーは70%以上あった。
それから全くスマホを使っていないのに、いきなり切れるなんてことあるか!
何だか、おかしいぞ!
「ユタ、いい加減、諦めい」
僕が焦っていると、大河内君もまた自分のスマホを出して言った。
「スマホが使えんっちゅうことやろ?……俺のもそうだ」
「あっ!私のもだよ!?」
「そ、そんな……!全員のスマホが使えなくなるなんて……!」
「こりゃ、ガチだな。ガチで、『何か』が俺らから連絡手段を奪おうとしてる。間違いないけん」
「どうするの?もう帰る?私、まだ話してないけど……」
と、福田さんが不安そうに聞いた。
「ユタ、お前はどうする?もし何やったら、占ってみぃ?水晶球でもタロットカードでも、何か持っちょるんやろ?」
「う、うん……」
スマホが使えない時って、確か水晶球も使えなかったような気がするが、僕は自分のバッグの中から水晶球を取り出した。
持ち運びしやすいように、大きさはソフトボールくらいの大きさだ。
イリーナ先生が使うものなど、バレーボールくらいあるのだが。
「おおっ、占いの館なんかにあるヤツよりもちゃっこいけど、なかなか本格的やな!」
「ちょっと、静かにしてて」
僕は机の上に水晶球を置いた。
そして精神を集中させ、ダンテ一門特有の呪文を唱える。
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。僕達にこれから進むべき、選択肢を示したまえ」
水晶球に出て来た、これから取るべき選択肢は……。
「くっ……!」
僕は机に突っ伏し掛けた。
「ユタ!?」
「稲生君!?」
「……とんでもない結果が出てる。もう進むも引くも、とんでもないことが起こるって。もう後戻りできないんだって」
「そんな……!」
福田さんは泣きそうな顔になった。
「で!?結局、俺らはどうすればいい?どないするのが、ええ選択肢か!?それを占ってくれ!」
「……このままこの学校から逃げ出そうとすれば、漏れなく全員……全員……魔女達の制裁を受ける……!」
見習弟子とはいえ、ダンテ一門の一員になっている僕までも殺そうとするのか?
いや、有り得なくはない。
仲間内であっても気に入らないことがあると、内ゲバ紛いの騒動を起こしていたくらいだから……。
ジルコニア達のマリアさんに対する一件、その前にイリーナ先生とポーリン先生との一件、それ絡みで敵対していたエレーナ……。
「……分かった。ということは、このまま前に進む他無いってことやな?」
「……うん」
「分かった。じゃ、福田ぁ。お前、話してくれ」
「う、うん……」
こうして、福田さんの話が始まった。
福田さんは何でも、現役時代は水泳部に所属していたらしい。
その水泳部にまつわる怖い話をしてくれた。
かつてこの学校の水泳部には、まるで魚の生まれ変わりのように泳ぎの得意な女子水泳部員がいたらしい。
もちろん部ではいち早くレギュラーの座を掴み、末はオリンピック出場まで期待されていたほどだったという。
だが、運命は残酷だ。
その女子水泳部員は事故で死んでしまった。
死因は溺死。
……不思議な話だ。
『河童の川流れ』という諺があるが、『水泳部員もプールで溺れる』なんてこともあるんだなと。
もっとも、その頃はまだ僕達が入学する前で、当然まだ魔界の穴も開いていた状態だ。
もしかしたら、何かがその女子水泳部員……名前を尼ヶ崎愛子さんと言ったが、彼女をプールの底に引きずり込んだのかもしれない。
で、その後、水泳部で不思議な現象が起きたという。
それは誰も使っていないはずの部室が、まるで使用直後のように床が濡れていることなのだという。
そしてそれは今も続いているらしい。
「もし良かったら、今から確かめに行かない?」
「はあ?!」
福田さんの提案に、僕も大河内君も目を丸くした。
「確かめにって……もうとっくに日が暮れてるけん、誰もおらんやろ?」
「だからだよ。誰もいないのに濡れていたら、物凄く信憑性があるってことでしょ?ほら、行こう!」
僕達は福田さんの後をついて、部室を出て行った。
僕の占いでは学校の外に出てしまうと危険とあったので、まだ敷地内にいる分には屋外に出ても大丈夫なのだろう。
校舎の外に出て、水泳部の部室に向かう。
場所柄、それはプールの近くにある。
私立高校なだけあって、公立校のそれと違い、温水プールになっていて、冬でも練習が可能だ。
「鍵掛かっちょるけん、どうやって入るん?」
と、大河内君。
さっきから訛りが出ているのは、彼もまた相当緊張しているからだろう。
「大丈夫。私、実は合鍵持ってるんだよねー」
「何さらっと言うとるんよ?それ、マズいやろ?」
「現役時代、合鍵作ってたの、そのまま持ったままだった」
「お前なぁ……」
「いいから入ろ入ろ」
もうプールの方には明かりも点いていない。
部活動はとっくに終わったと見える。
ということは、きれいに後片付けされているはずだ。
……が!
「うわっ、何やこれ!?」
部室に入ってみると、まるで使用直後のようだった。
床が濡れている。
ついさっきまで使っていたのだろうか?
「……これ、マズいんじゃないか?」
僕は言い知れぬ感じを拭い去ることができなかった。
ここには霊気が渦巻いている。
つまり、幽霊がいる。
福田さんはそれを感じ取っていないのだろうか。
「尼ヶ崎さんのロッカーを開けてみよう」
なんて言う。
何でも最初は尼ヶ崎さんのロッカーを使いたがる部員達が多かったらしい。
将来有望なホープのロッカーを使えば、自分もそれにあやかれるなんて考えだったようだ。
だが、それはいつしか逆となったという。
尼ヶ崎さんのロッカーを使った部員が練習中、足をつって溺れそうになったり、誰もいないはずのプールの底から足を引っ張られようとしたり、1人で着替えていると尼ヶ崎さんの泣き声を聞いたりするなどの怪奇現象が多発したからだという。
今では誰も使わない、開かずのロッカーになっているという。
「……うん。昔のまんまだね」
1つだけ『使用禁止』の表示がしてあるロッカーがあった。
それが尼ヶ崎さんの使っていたロッカーだったらしい。
「じゃ、開けてみるよ。……てか稲生君、開けて」
「は?」
「アホか!言い出しっぺはオマエなんやけん、オマエが開けい!」
「そうだよ!」
さすがの僕も呆れて文句を言った。
急に怖くなったのだろうか。
こういう時、マリアさんならどうするかなぁ……?
……多分、魔法でロッカーごと破壊しそうな気がする。
あいにくと、まだ僕はそういう類の魔法は修得していない。
1:何が何でも福田に開けさせる。
2:稲生が開ける。
3:大河内にお願いしてみる。
「……いいよ。僕が開けてみるよ」
「稲生君、さすが!男だねぇ!」
「……大丈夫なんか、ユタ?あんまり、無理しよったら……」
「まあ、大丈夫さ。取りあえず開けるから、ちゃんと中を確認するのは忘れないでくれよ」
「OK」
「分かったよ」
稲生はロッカーの取っ手に手を掛けた。
「……じゃ、開けるよ?」
「うん」
「早よ、開けい」
稲生は思い切りロッカーのドアを開けた。
そこにいたのは!?
「きゃああああああああっ!!」
青白い肌の上から競泳水着を着た女。
恐らく、尼ヶ崎さんの亡霊だろう。
まさか、こんなタイムリーに出るなんて。
彼女はロッカーから上半身を乗り出してくると、福田さんを掴んだ。
そして、一気にロッカーの中に引きずり込む。
「……!……!!」
「あ……ああ……あああ……!!」
僕も大河内君も、茫然としていた。
腰を抜かさずに済んだのは、さすがの僕も魔界やクイーン・アッツァー号などで鍛えられたからだろうか。
しかし、さすがに亡霊がいきなり襲って来るなんてことは、いい加減慣れるものではない。
「お……おい、福田ぁ!福田ァ!」
僕なんかより気の強い大河内君が早めに我に返り、急いで尼ヶ崎さんのロッカーを叩いた。
そして、もう1度開けようとするが、まるで鍵が掛かっているかのように開かない。
「くそっ!おい、ユタ!手伝え!!」
僕が手を貸そうとすると、ロッカーの中から呻き声と共に鈍い音が聞こえた。
何だろう?……想像したくもない図だが、人間が生きたまま破砕機に掛けられたらこんな音がするのではないか、というような音だ。
2人掛かりでもこじ開けることのできないドア。
それが、いきなり開いて僕達は仲良く尻もちをついた。
「福田?」
「福田さん……!」
だが、ロッカーの中はスッカラカンだった。
まるで最初から、そこには何も無かったかのように。
「ど、どこへ消えよった……?」
「…………」
ただ、そのロッカーの中からは鉄の錆びた臭いがしたことだけは明言しておく。
大河内君の話が終わった。
だが、それは魔道師達を敵に回す内容であった。
恐らく本人は悪気も無ければ、その理由も分からないだろう。
確かにその話に出て来た魔女の作る妙薬の材料が人間の目玉だなんて、誰も信じないと思う。
信じられるのは、実際それと似たようなものを材料に妙薬を作っていたところを見たことがある僕ぐらいのものだ。
しかしこの辺、魔女達は神経質だ。
たかが一介の人間がたまたま知り得たことをそのままにするのならともかく、それを口外してしまったことなど、すぐに嗅ぎ付けることだろう。
僕は急いで、自分のスマホを出した。
確かマリアさんは、ワンスターホテルに泊まっているはずだ。
だが、何故かおかしい。
スマホの電源が入らない。
何度横の起動ボタンを押しても、待受画面が出て来ないのだ。
新聞部の部室に入った時、まだバッテリーは70%以上あった。
それから全くスマホを使っていないのに、いきなり切れるなんてことあるか!
何だか、おかしいぞ!
「ユタ、いい加減、諦めい」
僕が焦っていると、大河内君もまた自分のスマホを出して言った。
「スマホが使えんっちゅうことやろ?……俺のもそうだ」
「あっ!私のもだよ!?」
「そ、そんな……!全員のスマホが使えなくなるなんて……!」
「こりゃ、ガチだな。ガチで、『何か』が俺らから連絡手段を奪おうとしてる。間違いないけん」
「どうするの?もう帰る?私、まだ話してないけど……」
と、福田さんが不安そうに聞いた。
「ユタ、お前はどうする?もし何やったら、占ってみぃ?水晶球でもタロットカードでも、何か持っちょるんやろ?」
「う、うん……」
スマホが使えない時って、確か水晶球も使えなかったような気がするが、僕は自分のバッグの中から水晶球を取り出した。
持ち運びしやすいように、大きさはソフトボールくらいの大きさだ。
イリーナ先生が使うものなど、バレーボールくらいあるのだが。
「おおっ、占いの館なんかにあるヤツよりもちゃっこいけど、なかなか本格的やな!」
「ちょっと、静かにしてて」
僕は机の上に水晶球を置いた。
そして精神を集中させ、ダンテ一門特有の呪文を唱える。
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。僕達にこれから進むべき、選択肢を示したまえ」
水晶球に出て来た、これから取るべき選択肢は……。
「くっ……!」
僕は机に突っ伏し掛けた。
「ユタ!?」
「稲生君!?」
「……とんでもない結果が出てる。もう進むも引くも、とんでもないことが起こるって。もう後戻りできないんだって」
「そんな……!」
福田さんは泣きそうな顔になった。
「で!?結局、俺らはどうすればいい?どないするのが、ええ選択肢か!?それを占ってくれ!」
「……このままこの学校から逃げ出そうとすれば、漏れなく全員……全員……魔女達の制裁を受ける……!」
見習弟子とはいえ、ダンテ一門の一員になっている僕までも殺そうとするのか?
いや、有り得なくはない。
仲間内であっても気に入らないことがあると、内ゲバ紛いの騒動を起こしていたくらいだから……。
ジルコニア達のマリアさんに対する一件、その前にイリーナ先生とポーリン先生との一件、それ絡みで敵対していたエレーナ……。
「……分かった。ということは、このまま前に進む他無いってことやな?」
「……うん」
「分かった。じゃ、福田ぁ。お前、話してくれ」
「う、うん……」
こうして、福田さんの話が始まった。
福田さんは何でも、現役時代は水泳部に所属していたらしい。
その水泳部にまつわる怖い話をしてくれた。
かつてこの学校の水泳部には、まるで魚の生まれ変わりのように泳ぎの得意な女子水泳部員がいたらしい。
もちろん部ではいち早くレギュラーの座を掴み、末はオリンピック出場まで期待されていたほどだったという。
だが、運命は残酷だ。
その女子水泳部員は事故で死んでしまった。
死因は溺死。
……不思議な話だ。
『河童の川流れ』という諺があるが、『水泳部員もプールで溺れる』なんてこともあるんだなと。
もっとも、その頃はまだ僕達が入学する前で、当然まだ魔界の穴も開いていた状態だ。
もしかしたら、何かがその女子水泳部員……名前を尼ヶ崎愛子さんと言ったが、彼女をプールの底に引きずり込んだのかもしれない。
で、その後、水泳部で不思議な現象が起きたという。
それは誰も使っていないはずの部室が、まるで使用直後のように床が濡れていることなのだという。
そしてそれは今も続いているらしい。
「もし良かったら、今から確かめに行かない?」
「はあ?!」
福田さんの提案に、僕も大河内君も目を丸くした。
「確かめにって……もうとっくに日が暮れてるけん、誰もおらんやろ?」
「だからだよ。誰もいないのに濡れていたら、物凄く信憑性があるってことでしょ?ほら、行こう!」
僕達は福田さんの後をついて、部室を出て行った。
僕の占いでは学校の外に出てしまうと危険とあったので、まだ敷地内にいる分には屋外に出ても大丈夫なのだろう。
校舎の外に出て、水泳部の部室に向かう。
場所柄、それはプールの近くにある。
私立高校なだけあって、公立校のそれと違い、温水プールになっていて、冬でも練習が可能だ。
「鍵掛かっちょるけん、どうやって入るん?」
と、大河内君。
さっきから訛りが出ているのは、彼もまた相当緊張しているからだろう。
「大丈夫。私、実は合鍵持ってるんだよねー」
「何さらっと言うとるんよ?それ、マズいやろ?」
「現役時代、合鍵作ってたの、そのまま持ったままだった」
「お前なぁ……」
「いいから入ろ入ろ」
もうプールの方には明かりも点いていない。
部活動はとっくに終わったと見える。
ということは、きれいに後片付けされているはずだ。
……が!
「うわっ、何やこれ!?」
部室に入ってみると、まるで使用直後のようだった。
床が濡れている。
ついさっきまで使っていたのだろうか?
「……これ、マズいんじゃないか?」
僕は言い知れぬ感じを拭い去ることができなかった。
ここには霊気が渦巻いている。
つまり、幽霊がいる。
福田さんはそれを感じ取っていないのだろうか。
「尼ヶ崎さんのロッカーを開けてみよう」
なんて言う。
何でも最初は尼ヶ崎さんのロッカーを使いたがる部員達が多かったらしい。
将来有望なホープのロッカーを使えば、自分もそれにあやかれるなんて考えだったようだ。
だが、それはいつしか逆となったという。
尼ヶ崎さんのロッカーを使った部員が練習中、足をつって溺れそうになったり、誰もいないはずのプールの底から足を引っ張られようとしたり、1人で着替えていると尼ヶ崎さんの泣き声を聞いたりするなどの怪奇現象が多発したからだという。
今では誰も使わない、開かずのロッカーになっているという。
「……うん。昔のまんまだね」
1つだけ『使用禁止』の表示がしてあるロッカーがあった。
それが尼ヶ崎さんの使っていたロッカーだったらしい。
「じゃ、開けてみるよ。……てか稲生君、開けて」
「は?」
「アホか!言い出しっぺはオマエなんやけん、オマエが開けい!」
「そうだよ!」
さすがの僕も呆れて文句を言った。
急に怖くなったのだろうか。
こういう時、マリアさんならどうするかなぁ……?
……多分、魔法でロッカーごと破壊しそうな気がする。
あいにくと、まだ僕はそういう類の魔法は修得していない。
1:何が何でも福田に開けさせる。
2:稲生が開ける。
3:大河内にお願いしてみる。
「……いいよ。僕が開けてみるよ」
「稲生君、さすが!男だねぇ!」
「……大丈夫なんか、ユタ?あんまり、無理しよったら……」
「まあ、大丈夫さ。取りあえず開けるから、ちゃんと中を確認するのは忘れないでくれよ」
「OK」
「分かったよ」
稲生はロッカーの取っ手に手を掛けた。
「……じゃ、開けるよ?」
「うん」
「早よ、開けい」
稲生は思い切りロッカーのドアを開けた。
そこにいたのは!?
「きゃああああああああっ!!」
青白い肌の上から競泳水着を着た女。
恐らく、尼ヶ崎さんの亡霊だろう。
まさか、こんなタイムリーに出るなんて。
彼女はロッカーから上半身を乗り出してくると、福田さんを掴んだ。
そして、一気にロッカーの中に引きずり込む。
「……!……!!」
「あ……ああ……あああ……!!」
僕も大河内君も、茫然としていた。
腰を抜かさずに済んだのは、さすがの僕も魔界やクイーン・アッツァー号などで鍛えられたからだろうか。
しかし、さすがに亡霊がいきなり襲って来るなんてことは、いい加減慣れるものではない。
「お……おい、福田ぁ!福田ァ!」
僕なんかより気の強い大河内君が早めに我に返り、急いで尼ヶ崎さんのロッカーを叩いた。
そして、もう1度開けようとするが、まるで鍵が掛かっているかのように開かない。
「くそっ!おい、ユタ!手伝え!!」
僕が手を貸そうとすると、ロッカーの中から呻き声と共に鈍い音が聞こえた。
何だろう?……想像したくもない図だが、人間が生きたまま破砕機に掛けられたらこんな音がするのではないか、というような音だ。
2人掛かりでもこじ開けることのできないドア。
それが、いきなり開いて僕達は仲良く尻もちをついた。
「福田?」
「福田さん……!」
だが、ロッカーの中はスッカラカンだった。
まるで最初から、そこには何も無かったかのように。
「ど、どこへ消えよった……?」
「…………」
ただ、そのロッカーの中からは鉄の錆びた臭いがしたことだけは明言しておく。