小さい夏みつけた

　クマゼミの声が聞こえ始めた。　朝にちょろっと鳴いてみましたといった感じである。
「あれぇ？　出てきたけど、お外は暗いし早過ぎたのかっ（汗）」
　みたいな鳴き方だった。

　実家の玄関脇に大きな槇の木があり、それに隠れて小さな藤の木がある。　咲いたことのなかったその藤が今日、季節外れの薄紫の花をひっそり咲かせていた。
　たまたま実家に用があり、自転車に乗って見渡しの良い道を近づいていったら、ちょうど見上げた位置に咲いていて驚いた。　住人である母親も全く知らなかったと大層喜び、もうすぐ87歳の誕生日を迎える母への思いがけぬプレゼントとなった。
　裏庭では毎年ボコボコと多くの穴を開けてセミが這い出し、塀や金木犀の幹などを伝って脱皮して合唱を開始する。　そうなれば夏本番である。　ただ、蚊やら何やらが周りに群がる古家で、暑がりの母にとっては決して嬉しくない季節が始まるといえよう。