ゴールデンウィーク以降 すっかりご無沙汰してしまいました。 たくさん本を読んでいます。 次から次へと… それにひきかえ読書記はぜんぜん追いついて行かないのですけど、、
読んだ中から ロシア(ソ連)の街を舞台にした、 家族の物語2編について 簡単に書いてみますね。
『包囲』ヘレン・ダンモア著 小泉 博一・訳 国書刊行会 2013年
『五月の雪』クセニヤ・メルニク著 小川 高義・訳 新潮クレストブックス 2017年
ロシアに住むロシアの家族の物語ですが、 どちらもロシアの作家が書いた本ではありません。 『包囲』のヘレン・ダンモアは英国人。 『五月の雪』のクセニヤ・メルニクは15歳でロシアから米国に移住、 現在ロサンゼルスに住み 英語で書いた故郷の物語。
、、旧ソ連が崩壊して民主化されたとはいえ、 ロシアは今なお謎めいた国です、、 政治思想的に自由にものを言えるようになったとは言い切れないし。。 だからロシア(ソ連)の家族の暮らしを描いた小説でも ロシア国内でこのような作品が本になるのか(読まれるのか)よくわからない。。 英語圏の作家が書いた小説ですが ロシアの季節感、 人々の暮らし、 ていねいに描かれていると思います。
読後感から言うと、 『五月の雪』のクセニヤ・メルニクが描いた マガダンという極北東の街の人びと(9篇の短篇から成っています)の暮らしが じつに生き生きとしていて、 どこの国、どこの街でも普通にある男や女や子どもや少女の物語なのだけど、 あぁロシアぽいなぁ… と感じる生活感、生命感に溢れてて(ロシアのことよく知っているわけではないけれど) とても親近感のある愉しい読書でした。
***
『包囲』は 第二次大戦中の独ソ戦でのレニングラード包囲を描いた物語。 ドイツ軍によるレニングラード包囲は3年近くにも及んだそうです。 その間 レニングラードの市民たちは外部からの物資の供給が途絶える中を 必死に耐え抜き生き延びようとした。 食料も燃料も無い、いわゆる兵糧攻め。。 この戦争史の詳しいことは殆ど知らないけれども 最終的にソ連は戦勝国になったのだから、 この包囲を耐え抜いた、ということなのですね。。 それでも市民の餓死者は100万人近くも出たとか、、
『包囲』で描かれるのはこのレニングラードで暮らす一家の物語。 状況はどんどん過酷に、 どんどん悲惨に、 どんどん絶望的になっていきます。。 けれども 決してあきらめない、 生きる希望を決して手離さない、 極限の闘いは力と勇気に満ちています。
ちょっと複雑な事情から 幼い弟と生活力の無い父を養わなければならなくなったアンナ。 今で言うヤングケアラーと言っても良いのでしょう。 街に包囲が迫って食糧事情が悪くなっていく日々、 短い夏が過ぎ やがて来る冬にも備えなければならない。 食糧の確保と、 生活の為の仕事に奔走するアンナ。
やがて、 戦局が悪化し 戦地へ行った父は負傷します。 その父を連れ帰ってくれた医学生アンドレイと出会い、 アンナの心にアンドレイへの想いがうまれます。。 どんなに状況が厳しくなっても 恋をする気持ちは奪えない。 アンナの心の動きがよく描かれています。 恋に踏み出したい… でも、 幼い弟へや家族をケアしなければならない責任とで 自分の幸せに踏み出せないでいるアンナがせつない。。
食糧が尽きて、 壁紙まではがして糊の養分を摂ろうとすることとか、、 まるで話に聞いた江戸時代の大飢饉のような悲惨な状況も迫ってくるけれども、、 それでも人が生きようとするのは お国のためだとか、 国家の威信のためだとかでは絶対に無いはず。。
「…ほくが死んで、 そしてもうほくにしてくれることが何もなくなってしまっても、 まだこうして、 ほくのそばにいてくれるかい?」
、、愛する家族、 愛するひとのそばにずっと居続けたいからこそ、 人は耐えるのですよね。 包囲のなかで耐え忍ぶアンナたちの物語を読みながら、、 この 一年以上におよんでいるコロナ禍の包囲のことも頭のなかに浮かぶのでした、、 較べられるようなものではないけれど、、 でも、 こんな不条理なウイルスとの闘いに 愛や暮らしや命を奪われてなるものですか、、、と。
***
『五月の雪』は、 『包囲』のレニングラードからシベリア大陸の正反対の東の果て、、 マガダンという街が舞台です。 マガダン、って知らなかったので地図を見ると、 日本からはすぐそこです。 北海道のまっすぐ北、 オホーツク海を北へ樺太を超えて陸につきあたるところがマガダン。 北緯はアラスカとおなじくらいの位置ですからとっても寒そうな所です。
かつてはマガダンは ソ連の強制収容所があった街で、 極東のマガダンへ送られるというのは極寒での強制労働を強いられる怖ろしい流刑地、というイメージの土地だったようです。 でも、 収容所へ送られる囚人の中には思想的な理由で捕らえられた知識人や芸術家も多くいて、 そのような人が集まったマガダンは やがて西のレニングラード(サンクトペテルブルク)にも負けないような文化都市になったと、、 へぇ~ そうなんだ、、 そんな芸術文化の息づくところもロシアならでは。。
『五月の雪』に収められた9篇の物語は、 ソ連時代の1950年代から、 自由化後の2012年までのいろんな時代の、 主人公も少女だったり、 大人の男だったり、 老人だったり、、 いろんな人物の物語で、 一見ばらばらに見えるのですが、 登場する人物には相関関係があったりして、、 この物語の少女がのちにああなって… と、、 その辺は訳者さんのあとがきで説明されているので、 先にそちらを読むと解りやすく、 人物への興味も深まるかもしれません。
飛行機のなかでイタリアのサッカー選手にナンパされるマガダンの女性(いちおう子を持つ母)の話とか、 さっき文化都市に至った経緯を書きましたが、 マガダンでダンス教室を営み未来のダンサーを育てている男の話とか、、 かつて収容所にいたことのある有名歌手の話とか、、 作者と同じようにマガダンからアメリカへ移住した人の話とか、、
作者クセニヤ・メルニクが たぶん自身や 自分の両親や故郷の身内の人びとの過去に材を求めて、 いろんな時代にマガダンに生きた人々のファミリーヒストリーを覗くような物語集になっています。
短い物語のなかに世界をつくるのがとても上手な作家さん。。 なんとなく人から聞いた話というほんやりした点が無くて、 どの物語もすっと情景が浮んでくる、 「小さなことを精確に」という本人の言葉があとがきにありましたが、 そこがしっかりと描けているリアルさ。。 そして、 クスっと笑ってしまうユーモア。 どの物語にも わかる、わかる、、と 頷いてしまう、、 ユニークなんだけれども共感できる人物たち。。
この作品集は クセニヤ・メルニクの最初の作品集だそうですが、 マガダンの物語という自分のルーツを描いた次には どんな小説を書くのかな、、 ロシアから移住した少女の、 今度はアメリカでの物語も面白いかも、、 と思いました。
***
ここからは わたくしごとのロシアの思い出。。 (ロシアには私行った事ありません。 日本から出たこともありませんが…)
うちに エルミタージュ美術館から持ち帰ったポスターが2枚飾ってあります。 ロシアに(ソ連時代も、かな) お仕事関係で出かけたおじ様がお土産にくださったもの。
いただいたのはもう20年以上前で、 昨日 このポスターを見て、 おじ様がエルミタージュへ行ったのは何時だったのかしら… と思い返して、、 ポスターに書かれた文字からこの展覧会を検索してみました。
この "Hidden Treasures Revealed" という展覧会は、 1995年に開催されて、 第二次大戦後 ソ連がドイツから接収してずっと未公開だったヨーロッパ絵画作品が、 ソ連崩壊後 世界で初めて公開されたという展覧会だったのだそうです(Hermitage Museum Wiki にも載っています>>)
お仕事の一環として立ち寄っただけのようだったから、 ゆっくり鑑賞もしなかったみたいですが、 絵が好きな私や家族のためにおじ様がおっきなポスターの筒を (荷物のじゃまになるのに)抱えて持って帰ってくださったのが嬉しくて、、 サンクトペテルブルクなんて エルミタージュ美術館なんて、 私は生涯行くことは出来ないから、 すごくすごく嬉しかったのでした。
今、、 こんなふうにかつてのレニングラードや、 マガダン、、(おじ様はカムチャツカ半島にも行ったことあるはず) の物語を読めて、 ロシアの人々の生き生きとした暮らしの物語を読めて、、 もしおじ様が存命だったらそんなお話も出来たのになぁ、、 と それがちょっとだけ残念。。
***
ワクチン接種 はじまりましたね。。
これで家族に会える、、 孫に会える、、 とおっしゃっている方々を見ると、 やっとやっと 明るい希望が見えてきたかな、、と思えます。
わたしも早く打ちたいな、、
生き抜いて、、 (たまに息抜いて、、あ、 去年の手術から無事に一年経ちました)
自由にレストラン行ったり 美術館行ったりしたいな。。
読んだ中から ロシア(ソ連)の街を舞台にした、 家族の物語2編について 簡単に書いてみますね。
『包囲』ヘレン・ダンモア著 小泉 博一・訳 国書刊行会 2013年
『五月の雪』クセニヤ・メルニク著 小川 高義・訳 新潮クレストブックス 2017年
ロシアに住むロシアの家族の物語ですが、 どちらもロシアの作家が書いた本ではありません。 『包囲』のヘレン・ダンモアは英国人。 『五月の雪』のクセニヤ・メルニクは15歳でロシアから米国に移住、 現在ロサンゼルスに住み 英語で書いた故郷の物語。
、、旧ソ連が崩壊して民主化されたとはいえ、 ロシアは今なお謎めいた国です、、 政治思想的に自由にものを言えるようになったとは言い切れないし。。 だからロシア(ソ連)の家族の暮らしを描いた小説でも ロシア国内でこのような作品が本になるのか(読まれるのか)よくわからない。。 英語圏の作家が書いた小説ですが ロシアの季節感、 人々の暮らし、 ていねいに描かれていると思います。
読後感から言うと、 『五月の雪』のクセニヤ・メルニクが描いた マガダンという極北東の街の人びと(9篇の短篇から成っています)の暮らしが じつに生き生きとしていて、 どこの国、どこの街でも普通にある男や女や子どもや少女の物語なのだけど、 あぁロシアぽいなぁ… と感じる生活感、生命感に溢れてて(ロシアのことよく知っているわけではないけれど) とても親近感のある愉しい読書でした。
***
『包囲』は 第二次大戦中の独ソ戦でのレニングラード包囲を描いた物語。 ドイツ軍によるレニングラード包囲は3年近くにも及んだそうです。 その間 レニングラードの市民たちは外部からの物資の供給が途絶える中を 必死に耐え抜き生き延びようとした。 食料も燃料も無い、いわゆる兵糧攻め。。 この戦争史の詳しいことは殆ど知らないけれども 最終的にソ連は戦勝国になったのだから、 この包囲を耐え抜いた、ということなのですね。。 それでも市民の餓死者は100万人近くも出たとか、、
『包囲』で描かれるのはこのレニングラードで暮らす一家の物語。 状況はどんどん過酷に、 どんどん悲惨に、 どんどん絶望的になっていきます。。 けれども 決してあきらめない、 生きる希望を決して手離さない、 極限の闘いは力と勇気に満ちています。
ちょっと複雑な事情から 幼い弟と生活力の無い父を養わなければならなくなったアンナ。 今で言うヤングケアラーと言っても良いのでしょう。 街に包囲が迫って食糧事情が悪くなっていく日々、 短い夏が過ぎ やがて来る冬にも備えなければならない。 食糧の確保と、 生活の為の仕事に奔走するアンナ。
やがて、 戦局が悪化し 戦地へ行った父は負傷します。 その父を連れ帰ってくれた医学生アンドレイと出会い、 アンナの心にアンドレイへの想いがうまれます。。 どんなに状況が厳しくなっても 恋をする気持ちは奪えない。 アンナの心の動きがよく描かれています。 恋に踏み出したい… でも、 幼い弟へや家族をケアしなければならない責任とで 自分の幸せに踏み出せないでいるアンナがせつない。。
食糧が尽きて、 壁紙まではがして糊の養分を摂ろうとすることとか、、 まるで話に聞いた江戸時代の大飢饉のような悲惨な状況も迫ってくるけれども、、 それでも人が生きようとするのは お国のためだとか、 国家の威信のためだとかでは絶対に無いはず。。
「…ほくが死んで、 そしてもうほくにしてくれることが何もなくなってしまっても、 まだこうして、 ほくのそばにいてくれるかい?」
、、愛する家族、 愛するひとのそばにずっと居続けたいからこそ、 人は耐えるのですよね。 包囲のなかで耐え忍ぶアンナたちの物語を読みながら、、 この 一年以上におよんでいるコロナ禍の包囲のことも頭のなかに浮かぶのでした、、 較べられるようなものではないけれど、、 でも、 こんな不条理なウイルスとの闘いに 愛や暮らしや命を奪われてなるものですか、、、と。
***
『五月の雪』は、 『包囲』のレニングラードからシベリア大陸の正反対の東の果て、、 マガダンという街が舞台です。 マガダン、って知らなかったので地図を見ると、 日本からはすぐそこです。 北海道のまっすぐ北、 オホーツク海を北へ樺太を超えて陸につきあたるところがマガダン。 北緯はアラスカとおなじくらいの位置ですからとっても寒そうな所です。
かつてはマガダンは ソ連の強制収容所があった街で、 極東のマガダンへ送られるというのは極寒での強制労働を強いられる怖ろしい流刑地、というイメージの土地だったようです。 でも、 収容所へ送られる囚人の中には思想的な理由で捕らえられた知識人や芸術家も多くいて、 そのような人が集まったマガダンは やがて西のレニングラード(サンクトペテルブルク)にも負けないような文化都市になったと、、 へぇ~ そうなんだ、、 そんな芸術文化の息づくところもロシアならでは。。
『五月の雪』に収められた9篇の物語は、 ソ連時代の1950年代から、 自由化後の2012年までのいろんな時代の、 主人公も少女だったり、 大人の男だったり、 老人だったり、、 いろんな人物の物語で、 一見ばらばらに見えるのですが、 登場する人物には相関関係があったりして、、 この物語の少女がのちにああなって… と、、 その辺は訳者さんのあとがきで説明されているので、 先にそちらを読むと解りやすく、 人物への興味も深まるかもしれません。
飛行機のなかでイタリアのサッカー選手にナンパされるマガダンの女性(いちおう子を持つ母)の話とか、 さっき文化都市に至った経緯を書きましたが、 マガダンでダンス教室を営み未来のダンサーを育てている男の話とか、、 かつて収容所にいたことのある有名歌手の話とか、、 作者と同じようにマガダンからアメリカへ移住した人の話とか、、
作者クセニヤ・メルニクが たぶん自身や 自分の両親や故郷の身内の人びとの過去に材を求めて、 いろんな時代にマガダンに生きた人々のファミリーヒストリーを覗くような物語集になっています。
短い物語のなかに世界をつくるのがとても上手な作家さん。。 なんとなく人から聞いた話というほんやりした点が無くて、 どの物語もすっと情景が浮んでくる、 「小さなことを精確に」という本人の言葉があとがきにありましたが、 そこがしっかりと描けているリアルさ。。 そして、 クスっと笑ってしまうユーモア。 どの物語にも わかる、わかる、、と 頷いてしまう、、 ユニークなんだけれども共感できる人物たち。。
この作品集は クセニヤ・メルニクの最初の作品集だそうですが、 マガダンの物語という自分のルーツを描いた次には どんな小説を書くのかな、、 ロシアから移住した少女の、 今度はアメリカでの物語も面白いかも、、 と思いました。
***
ここからは わたくしごとのロシアの思い出。。 (ロシアには私行った事ありません。 日本から出たこともありませんが…)
うちに エルミタージュ美術館から持ち帰ったポスターが2枚飾ってあります。 ロシアに(ソ連時代も、かな) お仕事関係で出かけたおじ様がお土産にくださったもの。
いただいたのはもう20年以上前で、 昨日 このポスターを見て、 おじ様がエルミタージュへ行ったのは何時だったのかしら… と思い返して、、 ポスターに書かれた文字からこの展覧会を検索してみました。
この "Hidden Treasures Revealed" という展覧会は、 1995年に開催されて、 第二次大戦後 ソ連がドイツから接収してずっと未公開だったヨーロッパ絵画作品が、 ソ連崩壊後 世界で初めて公開されたという展覧会だったのだそうです(Hermitage Museum Wiki にも載っています>>)
お仕事の一環として立ち寄っただけのようだったから、 ゆっくり鑑賞もしなかったみたいですが、 絵が好きな私や家族のためにおじ様がおっきなポスターの筒を (荷物のじゃまになるのに)抱えて持って帰ってくださったのが嬉しくて、、 サンクトペテルブルクなんて エルミタージュ美術館なんて、 私は生涯行くことは出来ないから、 すごくすごく嬉しかったのでした。
今、、 こんなふうにかつてのレニングラードや、 マガダン、、(おじ様はカムチャツカ半島にも行ったことあるはず) の物語を読めて、 ロシアの人々の生き生きとした暮らしの物語を読めて、、 もしおじ様が存命だったらそんなお話も出来たのになぁ、、 と それがちょっとだけ残念。。
***
ワクチン接種 はじまりましたね。。
これで家族に会える、、 孫に会える、、 とおっしゃっている方々を見ると、 やっとやっと 明るい希望が見えてきたかな、、と思えます。
わたしも早く打ちたいな、、
生き抜いて、、 (たまに息抜いて、、あ、 去年の手術から無事に一年経ちました)
自由にレストラン行ったり 美術館行ったりしたいな。。