星のひとかけ

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カナダ建国の歴史と家族の物語(その2):『ライオンの皮をまとって』マイケル・オンダーチェ

2024-07-24 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
土用丑です。 暑いですね。

朝、お洗濯を干しにベランダへ出ただけで焼け付きそうに熱いですが 蝉が力いっぱいに鳴いてます。 お昼になるともう余りの暑さに蝉も鳴くのをやめて木陰で身を潜めてますが…

お身体だいじょうぶですか…? 今年は梅雨が短かったせいか、 わたしは思いの外まだ元気です。 昨年よりも確実に元気。 だから検査数値などより自分の感覚を信じて、 このまま楽しく だけど無理せず 夏を乗り切っていこうと…。

 ***

17日のつづき。 2冊目はこれまでにも何度か書いていますが マイケル・オンダーチェ著の『ライオンの皮をまとって』を再読しました。 1910~1930年代くらいまでの カナダ、トロントの都市の建設に携わった移民たちの物語。

カナダ建国の歴史、ということに視点を置いて今回は読んだので、 以下 小説の内容にも触れていきます。 この小説を初めて読んだときのブログはこちらに(>>2019年10月) ⇦こちらの後半に小説からの引用を載せてありますが、 オンダーチェさんのこのような非常に詩的な文章に浸っていると 物語に陶酔するのが精一杯で、 この小説がカナダ建国と移民の歴史であるという側面は忘れてしまいがちです。

この物語の主人公パトリックはカナダ生まれだけれども、 父親はどこから来たのだろう… 母親の姿は最初から書かれていない。 のちに(『イギリス人の患者』にも登場し)パトリックの親友になるカラヴァッジョは名前からしてもイタリア系移民だろう。

パトリックの幼少期の記憶に登場する 冬場だけ木を伐採する季節労働者たちはフィンランドからの移民。 フィンランドにも森林などいっぱいあるのに何故カナダへ来るのだろう…と思ったりしましたが、 前回書いた『優しいオオカミの雪原』のなかにも、 雪原の北の果ての誰も住まないようなところに フィンランド人の共同体がありましたね。

上記2019年の日記に引用した部分は、 マケドニアからの移民テメルコフの場面でした。 この小説を読むまで、わたしマケドニアが何処に位置する国かもよく知りませんでした。 物語中のテメルコフがマケドニアを発ち、 カナダへ入国するまでの記述は苛酷です。 そのような苦労をしてまで仕事を得る為にカナダへ渡ったマケドニア人の移民たちは、 物語のなかでは同郷人が集まる町をつくって暮らしています。 主人公パトリックがマケドニア人共同体に受け入れられていく場面は優しい気持ちになりますね…

命知らずの男テメルコフは、 カナダ トロントの都市で鉄道橋の建設に携わります。 橋の上からロープでぶら下がり 宙づりで橋脚にリベットを打ち込む、 彼以外には出来ない仕事。。 そして或る夜、 橋の上から尼僧が誤って落下してくる。 片腕で受け止めるテメルコフ… 前に引用したのはそのあとのふたりの場面です。。

頭上から尼僧が降って来るなんて、 どうしてこんな鮮烈な場面をオンダーチェさんは思いつくのだろう…と、 何度読んでもくらくらしてしまいそうに鮮やかな場面ですが、、 この落下をきっかけに、 尼僧は別の人生を歩み始める。。 テメルコフもまた 橋の作業員からトロントに暮らすマケドニア人として生活を変えていく。。 そしてパトリックにとって重要な友となる。。

、、 このように『ライオンの皮をまとって』に登場するのは みんな移民たち。。 そしてのちにパトリックが暮らす クララ、アリス、アリスの娘ハナ、、 それからカラヴァッジョ、 テメルコフ、、 誰も血が繋がっていない者同士が支え合い、 (詳しくは書かないけれど) 誰かが不在のあいだは別の誰かが、、 そうやって不思議な《家族》を形成する。。 

移民が創り上げた国(そして、奥地へ追いやってしまった先住民との 融合とも分離とも言えない共生の国)カナダには そのような血のつながりを超える包容力というか柔軟性が蓄えられたのでしょうか、、 『優しいオオカミの雪原』にも血のつながりのない《家族》が複数えがかれていました。。 そして次回の『ノーザン・ライツ』にも…。

***

『ライオンの皮をまとって』で移民たちが創り上げていくトロントの都市を 現実の写真を見て場面を思い浮かべてみると、 オンダーチェさんの描く詩的で静かな物語が、 じつはとてもダイナミックで壮大な舞台背景を持っていることに驚かされます。

テメルコフがぶら下がっていた橋脚の場面は プリンスエドワード高架橋
 https://en.wikipedia.org/wiki/Prince_Edward_Viaduct

物語にも登場する ハリス氏が手掛けていた水道施設は R. C. Harris Water Treatment Plant
 https://en.wikipedia.org/wiki/R._C._Harris_Water_Treatment_Plant

物語終盤の、 この施設への湖からの潜入などは、 実写化したらまるで映画「ザ・ロック」並みのアクション大作でしょう。。 ほんとうにこの巨大な水道施設にダイナマイトが仕掛けられたりしたことがあったかどうかは、、 存じませんが…

 ***

『ライオンの皮をまとって』の物語は、 舞台を第二次大戦中のイタリアへ舞台を移して『イギリス人の患者』へと続きます。 『イギリス人の患者』の終盤で(ネタばれになりますが) ハナがカナダにいる(血は繋がっていない)母に手紙を書く場面があります…

 ・・・略・・・
 ヨーロッパはもういやです、ママン。私も家に帰りたい。ジョージアン湾に浮かぶピンクの岩と、あなたの小さな小屋へ帰りたい。私はパリサウンド行きのバスに乗りましょう。本土からパンケーキ島へ短波でメッセージを送りましょう。そして、待ちます。カヌーで私を救出にくる、あなたの影が見えるのを待ちます。 ・・・

         (『イギリス人の患者』土屋政雄・訳)


ハナは、 この物語のあと ママンのもとへ帰ったでしょうか。。 ママンがいるのは、『優しいオオカミの雪原』の冒頭にも登場したジョージア湾。そこに浮かぶ島。。 カラヴァッジョおじさんは… (この推測は以前にもちょっと書きましたが…) カナダへは帰らなかったようですね。。

ハナの育ったトロントには、、 もう誰もいなくなってしまったでしょうか。。 いいえ、マケドニア人の町はきっとあるはず、、 きっと テメルコフもそこにはいるはず。



マケドニアのパン、って どんなだろう…


いま 検索したら・・・


マケドニアという国土も紆余曲折あって、 今は北マケドニアという国家として残っているそうですが、、 山崎製パンのサイトにこんな素敵なマケドニアの朝食のお話が載っていました。。 『ライオンの皮をまとって』の物語にもつながるようなお話…♡
 山崎製パン 世界の朝食コラム(北マケドニア共和国)



では またね



食卓を囲むのが それが家族…
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