ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

転勤は当然には命令できない

2017-02-23 17:09:32 | 労務情報


 業務上必要な配置転換は、基本的には、人事権の一環として会社が命じることができるものとされている。

 しかし、例えば、職種または勤務地を限定して雇用した従業員には、会社が一方的に職種や勤務地の変更を命じることはできない。就業規則で「会社は配置転換を命じることができる」と定めてあったとしても、一般的には個別に定めた条件の方が優先するからだ。
 そういった観点で『雇用契約書』や『労働条件通知書』をチェックしておく必要があるだろう。

 また、従来の慣行に無い配置転換を命じる際にも、慎重さを要する。「確立された労使慣行」も一種の労働契約とみなされるからだ。

 逆に、こういったことを踏まえたうえで会社が正当性をもって命じた配置転換であるならば、その業務命令に反した場合は、懲戒の対象としなければならない。一人の“わがまま”を許して、それが“前例”となってしまうことは避けたいからだ。
 ただし、その配置転換が本当に業務上必要なものか(「嫌がらせ」などの意図は無かったか)、本人の受ける不利益があまりに多大でないか(親族の介護等の問題は無いか)については、考慮に入れなければならないが。

 もっとも、これらはすべて本人が同意しない配置転換の話だ。本人が同意するのであれば、新たな雇用条件による労働契約を締結しなおせば良いので、まったく問題は発生しない。
 経営方針や社風にもよるところではあるが、いきなり“命令”するのでなく、“相談”あるいは“打診”から始めるのが良い場合もあるかも知れない。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

公益通報者保護法に刑事罰が盛り込まれないことは朗報か?

2017-02-13 11:19:32 | 労務情報

 消費者庁の「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」は、去る12月15日、最終報告書を取りまとめた。
 この会議は、当該制度の認知度が低く、通報に係る紛争も未だ頻発している現況を踏まえ、その実効性を高めるために平成27年6月から開催されてきたもので、消費者庁では、この報告書およびパブリックコメント(2月末まで受付中)を材料に、公益通報者保護法の改正について具体的な検討に取り掛かることとしている。

 この報告書における指摘は多岐にわたるが、中でも特筆すべき事項として、「不利益取扱いに対して何らかの行政措置(企業名公表・行政指導等)を講じる方向で検討」ということが挙げられるだろう。
 当初は「不利益取扱いに対する刑事罰規定」を新設することも視野に入れて検討されてきたが、最終報告書では刑事罰規定は見送られ、まずは行政措置を導入する方向性が打ち出された、という経緯がある。

 しかし、公益通報者保護法には刑事罰規定が(当面は)盛り込まれない方向性に落ち着いたとは言え、例えば労働基準法(同法違反の事実を行政官庁等に申告した労働者に対して不利益取扱いをした事業主は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処することとしている)のように既に刑事罰規定を備えている法律もあるし、今般提言された「行政措置」もそれなりに抑止効果がありそうだ。
 また、民事的な訴訟沙汰が表に出ることで“社会的制裁”を受ける可能性もある(企業レピュテーションへのダメージはむしろこちらの方が大きい)ので、経営者のスタンスとしては、そういう事態を避けるべきなのは変わらない。

 そのためにも、社内に「内部通報制度」を整備しておきたい。これは、会社の法令違反や不正行為等を知った従業員が社内に設置された窓口に通報できる仕組みのことで、会社にとっては次のようなメリットが有るとされる。
  (1) 問題が小さなうちに解決でき、大きな損害を被らなくて済む
  (2) 不祥事が突発的に外部へ公表されることによる風評リスクを軽減できる
  (3) 社内に、違法・不正行為に対する牽制意識が働く
 まずは社内の自浄能力を高めることをの考えることこそ、会社の進むべき道を誤らせないための第一歩と言えるだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「タイムカード廃止→自己申告制への変更」にメリットはあるか?

2017-02-03 17:53:49 | 労務情報


 会社には従業員の労働時間を適正に把握する義務がある(労働基準法第108条、労働契約法第5条の派生)。そして、その方法については、厚生労働省から出された『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準』(平成13年4月6日基発第339号;日付から「四六通達」とも呼ばれる)によれば、「使用者が自ら現認すること」または「タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎として確認すること」のどちらかを原則とし、これらが困難な場合に「自己申告制」(本稿では、紙の「出勤簿」に記入する方式のほか、表計算ソフトや社内システム上に出退勤記録を入力する方式を含むものとして論じる)を用いることを一定条件下において容認している。

 では、これを逆手にとって、現に用いられているタイムカードを廃止して自己申告制に切り替えるのは、許されるのだろうか。

 自己申告制のメリットは、「無駄な残業の削減」、これに尽きる。
 従業員に残業させたなら残業代を支払わなければならないのはタイムカード方式でも自己申告制でも変わらないが、終業後に一服してから打刻しても半自動的に時間外が付いてしまうタイムカード方式に比べて、自己申告制なら本当に残業した分だけを記入することができるからだ。また、残業の多い従業員にとっては、自ら記入することでそれに気づくきっかけになり、残業の削減、ひいては労働生産性の向上への意識変革を期待できるという側面もある。
 ちなみに、「タイムカードを廃止すれば残業時間が分からない(=残業代を払わなくて済む)」というわけにはいかない。労働基準監督署の臨検においては、タイムカードが無ければ、営業日報、メール受発信記録、PCのシャットダウン時刻等によって実働時間が認定されるからだ。それどころか、そこに悪意があると見られれば監督官の心証を悪くしかねず、逆効果でしかない。

 一方、自己申告制のデメリットとしては、冒頭に書いた労働時間の適正把握がしにくくなることが挙げられる。無論、本人が正しく申告すれば問題ないのだが、人間なのだから記入ミスもあるだろうし、残業しても定時退社と記入するよう会社が求めたり(これが実際ありがち)、明示的ではなくても会社への遠慮があったりして、正しい出退勤時刻を記入しないことが想像に難くない。
 また、会社は従業員から申告された内容をチェックしなければならないので、上司や人事担当者の事務負担はむしろ増大する。本人の申告通りにノーチェックで残業代をすべて支払うつもりなら良いのだが、だとしたら、わざわざタイムカードを廃止する意味が無いのではなかろうか。

 そして、もしタイムカード廃止の裏に「残業代を払いたくない」という会社の邪心があったなら、それは従業員には容易に透けて見えてしまい、企業ロイヤリティ低下にもつながる。

 結論として、自己申告制による勤怠管理は違法ではないものの、現に運用されているタイムカード方式を世の中の趨勢に逆行してまで廃止するメリットは少ないと言えそうだ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする