ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「タイムカード廃止→自己申告制への変更」にメリットはあるか?

2017-02-03 17:53:49 | 労務情報


 会社には従業員の労働時間を適正に把握する義務がある(労働基準法第108条、労働契約法第5条の派生)。そして、その方法については、厚生労働省から出された『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準』(平成13年4月6日基発第339号;日付から「四六通達」とも呼ばれる)によれば、「使用者が自ら現認すること」または「タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎として確認すること」のどちらかを原則とし、これらが困難な場合に「自己申告制」(本稿では、紙の「出勤簿」に記入する方式のほか、表計算ソフトや社内システム上に出退勤記録を入力する方式を含むものとして論じる)を用いることを一定条件下において容認している。

 では、これを逆手にとって、現に用いられているタイムカードを廃止して自己申告制に切り替えるのは、許されるのだろうか。

 自己申告制のメリットは、「無駄な残業の削減」、これに尽きる。
 従業員に残業させたなら残業代を支払わなければならないのはタイムカード方式でも自己申告制でも変わらないが、終業後に一服してから打刻しても半自動的に時間外が付いてしまうタイムカード方式に比べて、自己申告制なら本当に残業した分だけを記入することができるからだ。また、残業の多い従業員にとっては、自ら記入することでそれに気づくきっかけになり、残業の削減、ひいては労働生産性の向上への意識変革を期待できるという側面もある。
 ちなみに、「タイムカードを廃止すれば残業時間が分からない(=残業代を払わなくて済む)」というわけにはいかない。労働基準監督署の臨検においては、タイムカードが無ければ、営業日報、メール受発信記録、PCのシャットダウン時刻等によって実働時間が認定されるからだ。それどころか、そこに悪意があると見られれば監督官の心証を悪くしかねず、逆効果でしかない。

 一方、自己申告制のデメリットとしては、冒頭に書いた労働時間の適正把握がしにくくなることが挙げられる。無論、本人が正しく申告すれば問題ないのだが、人間なのだから記入ミスもあるだろうし、残業しても定時退社と記入するよう会社が求めたり(これが実際ありがち)、明示的ではなくても会社への遠慮があったりして、正しい出退勤時刻を記入しないことが想像に難くない。
 また、会社は従業員から申告された内容をチェックしなければならないので、上司や人事担当者の事務負担はむしろ増大する。本人の申告通りにノーチェックで残業代をすべて支払うつもりなら良いのだが、だとしたら、わざわざタイムカードを廃止する意味が無いのではなかろうか。

 そして、もしタイムカード廃止の裏に「残業代を払いたくない」という会社の邪心があったなら、それは従業員には容易に透けて見えてしまい、企業ロイヤリティ低下にもつながる。

 結論として、自己申告制による勤怠管理は違法ではないものの、現に運用されているタイムカード方式を世の中の趨勢に逆行してまで廃止するメリットは少ないと言えそうだ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする