ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

しなかった残業分の残業代は支払わなくてよいのか

2021-01-23 13:50:16 | 労務情報
 今(令和3年1月23日現在)は11都府県に緊急事態宣言が出されていることもあって、また、緊急事態宣言発出と関係なく急激な経済活動の縮小に伴って、多くの会社で労働時間(特に残業時間)が短縮されている。

 ところで、会社が一方的に残業を減らすのは、法的に問題ないのだろうか。
 なぜ突然こんな問いを呈したかというと、労働時間が短くなるのは労使双方にとって望ましいことと思いきや、一部の労働者からは「残業が減る」=「収入が減る」という不満の声も上がっているからだ。

 結論を先に言うと、会社が一方的に残業を減らすこと自体は、法的に問題ない。
 そもそも残業は、会社が命じるものであって、残業させるもさせないも会社が決めることだからだ。

 しかし、意外に思われるかも知れないが、やらなかった残業について残業代を支払わないことが問題となる場合もあるので、注意を要する。
 典型的なのは「月〇時間の残業があるものとして月額〇万円を支払う」といった「固定残業代」(「定額残業代」「みなし残業代」とも呼ばれる)を組んでいるケースだ。 この契約では「残業時間の多寡にかかわらず一定額の残業代を支払う」と約束しているのだから、残業を減らしても固定残業代を減額することはできない。
 また、労使ともに「残業するのが当然」という意識を持つ職場では、労働契約(雇用契約書や就業規則等)に明文規定が無くても、そのような労使慣行があったとみなされる可能性がある(民法第92条)。 そうなると、会社(債権者)は残業を減らすこと(債務の免除)はできても賃金支払い(反対給付の履行)を拒むことはできない(民法第536条第2項)。

 これらのケースにおいて、働かなかった分の残業代を支払わないこととするには、現状に即した内容での労働契約を締結し直すしか無い。
 基本的には、新たな労働条件での雇用契約書を、該当者全員と個別に交わすことを考えたい。 それが、最も確実で、後々のトラブルにもなりにくいからだ。
 労働契約法第10条は就業規則の変更により会社が一方的に労働条件を変更することを認めてはいるが、これを適用するにはハードルが高い。
 また、どうであれ従業員に対して丁寧に説明しなければならないのは同じなので、会社の規模にもよるところではあるが、やはり個別同意を得るのを第一に考え、就業規則の変更は「個別同意した労働条件の再確認」または「一部の者が同意しない場合の最後の手段」くらいに認識しておくべきだろう。


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パートにも年次有給休暇を与えていますか

2021-01-13 11:07:45 | 労務情報

 労働組合が、正社員ばかりでなく、パートタイマーや派遣労働者など非正規労働者の待遇改善を柱の一つに据えることとして、久しい。中でも、「非正規労働者に関するコンプライアンスの徹底」は大きな要求事項の一つだ。
 確かに、非正規労働者に関する事業主のコンプライアンス(遵法意識)が、正規労働者に関するそれと比較して総じて低いのは、残念ながら事実と言えよう。

 具体的には、パートタイマーへの年次有給休暇(所定労働日数に応じた比例付与)が分かりやすい例だろう。「パートには有休は無い」との誤解がまかり通っているし、パートにも有休が付与されることを知識としては知っていても「パートには有休は取らせない」と公言して憚らない経営者も…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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企業が講じるべき新型コロナウイルス対策

2021-01-03 17:59:09 | 労務情報

明けましておめでとうございます。
本日掲載するのは、昨年2月に執筆したものの、事情が急変し、当ブログに掲載しそこねてしまった記事です。
現状の新型コロナ対策としてはふさわしくありませんが、
その時点では適切なアドバイスであったと今も確信しておりますし、
将来、同様の事態が起きた時の参考としても、ウェブ上に残しておきたいと思いました。
この点をご理解のうえでお読みいただければ幸いです。
本年もよろしくお願いいたします。


 新型コロナウイルス感染症が、指定感染症として定められた。厚生労働省の発表(令和2年2月7日)によれば、国内では25人の感染が確認されている。
 これを受けて、民間企業(医療機関等を除く)は、どのような対策を講じるべきだろうか。

 まず、従業員全員に向けては、一般的な感染症対策と同様、「手洗い・うがい・咳エチケットの徹底」を呼び掛けておきたい。
 この呼び掛けは、もちろんこれらの実施により職場で感染症が蔓延しないようにすることが目的なのだが、会社が従業員の健康を気遣っているとアピールすることにも大きな意味がある。

 これに加えて今般の問題に特有の対策として、潜伏期間と言われる14日以内に湖北省に滞在していた従業員や湖北省滞在者と濃厚接触した従業員については、保健所に連絡したうえで対応できる医療機関で受診させるべきだ。
 その結果、感染していることが確認されたら、感染症法により都道府県知事から就業制限を受けることになる。この場合、就労しなかった日については、「ノーワーク・ノーペイの原則」により、特約の無い限り、無給で差し支えない。

 対応が難しいのは、「感染の疑いがある」という者(例えば、家族が湖北省滞在者と濃厚接触していた従業員など)だ。
 こういう者に関しては、本人が「休みたい」と言っているなら欠勤としてもよいし、本人の希望または労使協定に基づく計画付与によって有給休暇を取らせることとしてもよい。
 その一方、本人が就労を希望しているのに会社がそれを拒否するなら、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」ということになり、原則として通常の賃金を、特約(就業規則を含む労働契約における定め)があっても6割以上の休業手当を、支払わなければならない。とは言っても、他の従業員に感染させてしまうリスクを考えれば、このような従業員は出勤させないのが得策だろう。
 また、実際に感染・発症した者が無理してでも出勤しようとするのを防ぐためにも、こうした場合の賃金や休業手当の支払いを惜しむべきではない。

 なお、在宅勤務が可能な業態であれば、そうするのが、本人と会社の双方が納得できる結果となろう。
 あるいは、在宅勤務の導入を検討中の企業では、テスト実施してみる良いきっかけとなりうるかも知れない。

 現時点(令和2年2月7日)では政府は「流行が認められている状況ではない」としているが、油断は禁物だ。
 必要以上に騒ぎ立ててもいけないが、打てる策は打っておくべきだろう。

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