ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「安全協力費」等の名目で賃金から控除することに問題は無いのか

2023-03-23 09:35:28 | 労務情報

 建設業や製造業等において、「安全協力費」といった名目で賃金の一部を控除している例が見受けられるが、これは法的に問題ないのだろうか。

 賃金はその全額を支払わなければならないのが原則であるが、労働基準法第24条第1項ただし書きは法令または労使協定により賃金の一部を控除することができると定めており、法令にも労使協定にも定めの無い費目については、本人の同意に基づいて控除することが許されるとされている(最二判S48.1.19、最二判H2.11.26)。
 したがって、安全協力費についても、個別同意を得たうえで控除しているのであれば、問題が無いように思えるかも知れない。しかし、上に挙げた2つの最高裁判決はいずれも、賃金控除を合法と断じた前提条件として…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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出生時育児休業中の就業に関する制約と注意点

2023-03-13 13:59:09 | 労務情報

 育児介護休業法の改正により、令和4年10月1日から「出生時(しゅっしょうじ)育児休業」という制度が新たに創設された。
 これは、「産休を取らない労働者が子の出生後8週間以内に最大4週間(予め申し出ることにより2回まで分割可)休業できる」というもので、この制度の創設に伴い、「子の出生後8週間以内に育児休業(通称『パパ休暇』)を取得した場合にはそれとは別に育児休業を再度取得できる」という育児休業の特例は廃止された。
 ちなみに、この「出生時育児休業」を「産後パパ育休」あるいは「男性版産休」と呼ぶ例も見受けられるが、自らが産休を取らない女性も(養子の場合など)この制度を利用することができる。 この点、就業規則を改定する際などには、用語の選択に気を付けたい。

 ところで、今般の法改正では育児休業の分割取得や再取得も容易になるというのに、なぜこの新制度を創設したのか、それには「仕事を理由として育児休業の取得をためらっている労働者(特に男性)であっても育児休業を取得しやすいようにする」という意図があった。
 そのため、「出生時育児休業」には、従来の「育児休業」とは異なり、「休業期間中に就業させられる」という大きな特徴がある。
 ただし、休業中に就業させるには様々な制約や注意点がある。以下にそれを整理しておく。
  ・ 労使協定の締結が必要(労基署への届け出は不要)
  ・ 就業させる場合の手順は次のとおり
    (1) 労働者本人から就業できる旨とその条件を申し出る
    (2) 事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示する
    (3) その提示内容に労働者が同意した場合に就労可能となる
  ・ 就業日数の合計は、出生時育児休業期間の所定労働日数の半分以下とすること
  ・ 就業日の労働時間数は所定労働時間数に満たないものとすること(残業不可)
  ・ 雇用保険制度の育児休業給付金を受けるには、休業中の就業日数が10日(休業28日の場合;休業が28日未満の場合はその日数に比例して減少)以下でなければならない
  ・ 社会保険料は、その月の末日が休業期間中である場合または同月内に14日以上休業した場合に免除される(後段は今般の法改正で追加;この規定は通常の「育児休業」についても同様)が、事前に調整して就業した日は対象とならない

 誤解を恐れずに言えば、「出生時育児休業」は、そもそもが休業中の就業を前提とした制度なのだ。
 こうした背景から識者の一部にはこの制度そのものへの反対意見を唱える向きもあるが、企業経営者としては、上に挙げた諸点に注意を払って、法の許す範囲内で新たな制度を上手に利用するべきと言えよう。


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無期雇用契約に転換した後の労働条件

2023-03-03 12:59:31 | 労務情報

 労働契約法第18条は、5年を超えて有期雇用契約を締結することとなる労働者は無期雇用契約に転換できるものとしている。
 一部に誤解している向きもあるが、「無期雇用」と言っても必ずしも「正社員」にする必要はない。 「雇用期間」だけ「無期」に変えて他の労働条件は同じのままで構わないのだ。
 さらには、5年経過時に(無期転換するのと引き換えに)労働条件を不利益に変更した新たな契約を締結することも法令上は禁じられていないし、実際、そのような例も珍しくはない。

 これに関し、厚生労働省に設置された労働政策審議会では、先ごろ、「事業主に『当該労働者に対し無期雇用契約に転換できる旨を個別に通知すること』・『その通知は無期転換後の労働条件を示して行うこと』を義務付ける省令改正案を概ね妥当と認める」と答申した。
 案によれば、改正省令は令和6年4月1日から施行される見込みだ。

 もっとも、そうなっても、労働条件を不利益に変更してはならなくなるわけではない。
 当事者双方が納得のうえで合意したのであれば、法令や信義に反しない限り、有利にであれ不利にであれ、労働条件を変更することができる(労働契約法第8条)。
 不利益変更に関するトラブル事案は、その多くが、会社が就業規則を一方的に制定または改定して無期転換者に不利益な労働条件に変えてしまったケースだ(高松高判R1.7.8、大阪高判R3.7.9等)。 なので、合理的な理由に基づいて労働条件を変えるのであれば、その事情を当該労働者にきちんと説明して理解を求めればよい。
 ちなみに、無期転換時の話ではないが、労働条件の不利益変更に関し労働者から提出させた『同意書』を会社からの説明が不充分であったことを理由に無効と断じた裁判例(最二判H28.2.19)もあるので、形式だけの合意では足りないことは認識しておきたい。

 なお、パートタイマーの場合は、「同一労働同一賃金」の観点から、いわゆる正社員との間に不合理な待遇差があってはならない(均衡待遇;パートタイム有期雇用労働法第8条)。 これは無期転換しなくても適用されていたわけだが、無期転換すると「職責」が正社員に近づくこともあるので、特に注意を要する。

 そもそも、無期転換の制度は、有期雇用労働者の労働条件を引き上げればこそ、不利益に変えることは想定していなかったはずだ。
 仮に労働条件の一部を不利益に変えざるを得ない場合であっても、トータルで労働者に不利にならないよう設定するのが、法の趣旨を踏まえた対応と言えるだろう。


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