ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

労働条件を不利益に変更するなら充分な事前説明を

2015-09-23 14:48:17 | 労務情報

 経営上その他の理由から労働条件の変更を検討せざるを得ないこともあるだろうが、それが労働者にとって従来よりも不利益になる場合は、特に慎重を期さなければならない。

 まず、労働条件を変更するなら、新たな雇用契約を個々の従業員と交わし直すのを基本と考えるべきだ。「現在の労働条件が今後はこうなる」と丁寧に説明し、納得してもらえるよう努めたい。
 これは非常に時間と手間の掛かる方法ではあるが、従業員に不利益を課す以上、会社として説明の労を惜しむべきではないだろう。

 とは言うものの、個々に雇用契約を交わし直すのが現実的でない会社においては、就業規則を改定することをもって労働条件を一斉に変更することを考えても良い。適法に制定された就業規則はその内容が労働契約を構成しうるからだ。
 この方法なら、例えば賃金額を一律に引き下げる、いわゆる「ベースダウン」のようなケースでは、賃金テーブルを変えるだけで済むので、時間と手間が掛からず、人事担当者としてはこれを採用したいところだろう。
 しかし、労働契約法第10条は「就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであること」を求めているので、少なくとも従業員への事前説明なしに就業規則を改定することはできず、また、必要性や相当性の面で裁判所に認めさせるのはかなりハードルが高いことは認識しておかなければならない。

 就業規則は会社が一方的に制定できるものだが、であればこそ、従業員に対して丁寧に説明して理解を求めることが必要だ。この姿勢は、個々に雇用契約を交わし直す際と何ら変わるものではない。

 なお、蛇足であるが、個々に雇用契約を交わし直した場合は、労働契約法第10条の適用を受けず、両者の合意した内容がそのまま新たな労働条件となることは覚えておきたい。


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試用期間満了時に正式雇用しないのは問題あり?

2015-09-13 22:19:05 | 労務情報

 試用期間を設けている会社は多いが、試用期間だからと言って、安易に解雇したり、試用期間満了時に正式雇用しなかったりするのは、トラブルの素であるので、注意を要する。

 まず、理解しておかなければならないのは、試用期間中であれ試用期間満了時であれ、一度雇い始めた以上、退職させるのは「解雇」に違いないということ。すなわち、それが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効(労働契約法第16条)とされるのだ。
 実際どのような場合に解雇できるかはケースバイケースとしか言えないが、「従業員としての適格性に“著しく”欠ける」という状態でなければ裁判所には認めてもらえにくい。パソコンを扱えなかったため正式雇用を拒否した事案について「パソコンの技能は日常作業を通じて習得可能」として「解雇無効」と断じられた裁判例(東京地判H19.3.13)もあるので、「能力不足」は解雇の理由としては不充分と考えておくべきだろう。

 また、「試用期間満了時に正式雇用しない」というのは、必ずしも退職させるばかりでなく、試用期間を延長もしくは再試用するという選択肢もある。
 しかし、会社が適性判断を懈怠し結論を先送りするための試用期間延長や、試用期間が一旦満了して本採用された後に再び試用期間とするものは、「労働者が不安定な地位に置かれる」ので許されない(名古屋地判S59.3.23等)。ただし、「一応職務不適格と判断された者について直ちに解雇の措置をとるのでなく、配置転換などの方策により更に職務適格性を見いだすために試用期間を延長した」ケースは認められている(東京地判S60.11.20)。

 そして、意外に足をすくわれやすいのは、「試用期間について従業員本人に通知していない」というもの。厚労省が作成した『モデル労働条件通知書』に「試用期間」の項目が入っていないこともあり、また、就業規則には試用期間に関する規定を置いていても、その就業規則自体を新入社員に周知していない会社もあって、当の本人が試用期間であることを承知していないケースが少なくないのだ。
 そうなると、試用期間とは関係なく、ただ「解雇が有効か無効か」という議論になってしまい、会社にとってはハードルが高くなってしまう。さらには、試用期間でないならば、14日以内に解雇する場合でも、解雇予告(もしくは解雇予告手当の支払い)が必要になる。
 基本的な事ではあるが、漏れの無いよう、再チェックしておきたいところだ。


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9万8千円の賃金不払いで経営者逮捕

2015-09-03 10:28:23 | 労務情報

 最低賃金の見直しの議論が喧しいが、経営者としては、最低賃金法違反が、逮捕・送検(身柄拘束)の対象となりうることは承知しておかなければならない。
 昨年11月には、東京都町田市の託児所経営者(以下、本稿では「本件被疑者」と呼ぶ)が最低賃金法違反の容疑で逮捕・送検され、世間を驚かせた。
 確かに、労働基準監督官は、労働基準法違反や最低賃金法違反等の罪について逮捕権を有する(労働基準法第102条、最低賃金法第33条、刑事訴訟法第199条)とされてはいるものの、通常は、是正勧告を受けるか、悪質なケースにおいて在宅のまま書類送検されることがあるくらいで、実際に使用者が逮捕されて身柄を拘束されるのは、非常にレアな事例だ。

 東京労働局の発表内容によれば、本件被疑者は以前には清掃業を営んでいたが、その当時、平成23年から翌年にかけて労働者に対する賃金不払いを繰り返し発生させたため、八王子労働基準監督署町田支署が不払賃金を支払うよう行政指導を行った。しかし、本件被疑者は「退職した労働者には支払わない」等と主張して行政指導に従わず、労働者のうち1人の賃金17,250円、もう1人の賃金80,690円(合計97,940円)が支払われていない状態が続いていた。加えて、本件被疑者は当支署による再三の出頭要求に応じず、罪証隠滅のおそれもあったことなどから、逮捕に至ったとのことだ。

 経営者が逮捕されたとなると、現在の事業(託児所経営)の社会的な評判や信用にも少なからず影響を与えるだろうし、事業の大幅縮小(下手をすると倒産も)の要因ともなりうる。
 「たった9万8千円」の賃金支払いを惜しんだばかりに、もっと大きな代償を背負ってしまうことにつながる話だ。

 この事件に関しては少々「見せしめ」感も受けるものの、そもそも最低賃金法違反が刑法犯であることを認識していない経営者も多いなか、警鐘を鳴らしたと言える。逮捕権を有すればこそ、労働基準監督官の勧告や指導には強制力があることを、我々は理解しておくべきだろう。


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