ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「住宅手当」は廃止? 存続? それぞれの具体的な対応策

2020-02-23 09:59:03 | 労務情報

 「パートタイム・有期雇用労働法」第8条には「非正規労働者の待遇について不合理と認められる相違を設けてはならない」と定められ(「同一労働同一賃金」を求める法規定の一つ)、これが2020年4月(中小事業者は2021年4月)から適用されるのは周知の通りだ。
 これに先立ち、厚生労働省は、2018年12月『同一労働同一賃金ガイドライン』により、正社員にのみ支給される各種手当についてその待遇差が問題となるか否か、具体例を挙げて解説している。 ところが、この指針では、「住宅手当」等いくつかの手当については、具体例が示されず、「労使で議論していくことが望まれる」とされた。 言ってみれば、各企業がそれぞれの業態や労使慣行等を踏まえて考えなければならない“宿題”を負わされた格好だ。

 そこで今回は、「住宅手当」に的を絞って、その存廃を含めた対応策を検討してみたい。
 なお、この考え方は、他の手当(「家族手当」等)の存廃に関しても準用できるので、参考にしてもらえれば幸いである。

【選択肢A】 廃止する
 そもそも住宅手当は従業員間に不公平感を与えやすい制度であるので、これを機に、廃止してしまうのも一案だ。
 とは言え、これは明らかな「労働条件の不利益変更」にあたるので、労働契約法に則った手順で条件変更しなければならず、また、不支給となる者には当面「調整手当」等の名目で一定額を支給するなど、激変緩和措置を講じる必要もあるだろう。

【選択肢B】 非正規労働者にも支給する
 住宅手当に年齢や出勤日数などの支給要件を設けているなら、これらの要件に合致する非正規労働者には支給しなければならない(高松高判R1.7.8)。
 支給要件を設けていない、いわゆる「第2基本給」的な意味合いなら、なおさらである。
 もちろん、支給対象が拡大するので、必然的にコストアップとなる。

【選択肢C】 正社員にのみ支給する(従来通り)
 住宅手当が正社員(転居を伴う配転が予定されている)に対して住宅費用を補助する趣旨で支給されるものであるなら、非正規労働者には支給しない、という運用が可能な場合もある(最二判H30.6.1「ハマキョウレックス事件」)。
 ただ、こうした趣旨であっても、転居を伴う配転が予定されていない社員にも支給しているならその前提が崩れることになるし、他の労働条件や背景事情等が異なれば裁判所の判断も異なるであろう点は承知しておかなければならない。

 非正規労働者への手当支給を見直す視点は2面ある。
 1つは「手当とは何か(支給目的や支給基準等)」、もう1つは「非正規労働者とは何か(雇用形態や業務内容等)」だ。
 まずこれらを明確化する作業から着手したい。 それを進めるうちに、「会社は(労務の提供以外の)何に対して賃金を支払うのか」が整理でき、手当の存廃を含めた在り方も自ずと見えてこよう。
 逆に、これらが明確になっていないなら、会社にはリスクしか無いので、整備を急ぎたい。


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「住宅手当」「家族手当」の存廃を含めた在り方の検討を

2020-02-13 16:17:17 | 労務情報

 賃金は労働の対価であることは異論を挟む余地の無いところだが、わが国の賃金制度には、労働の質とも量とも関係がないはずの「住宅手当」や「家族手当」といった“属人給”が昔から根付いている。
 外資系企業や新興企業を中心にこれらを支給しない(または廃止した)企業も増えてはきているが、いまだ民間企業の約52%が「住宅手当」を、約78%が「家族手当」を支給している実態が見られる(人事院調べ「平成31年民間給与実態調査」より)。

 しかし、これらの手当が一部の者(例えば正社員)にしか支給されていないのだとしたら、今後はその「支給根拠」(逆に言えば「支給しない根拠」)を明確にしなければならない。
 というのも、令和2年(中小企業は令和3年)4月1日からは、非正規雇用労働者に不合理な待遇差を設けることが違法とされる(いわゆる「同一労働同一賃金」)からだ。

 もっとも、現行法でも労働契約法第20条により“有期雇用労働者”への不合理な待遇差は設けてはならないこととされており、多くの民事訴訟が提起されている(裁判所の判断はケースバイケースで揺れている)ところだが、その対象が非正規雇用労働者(パートタイマー・派遣労働者等)すべてに拡大するので、訴訟事案が一層増えることは想像に難くない。

 ちなみに、厚生労働省が昨年末に公表した『同一労働同一賃金ガイドライン』には、正規労働者と非正規労働者との間で各種手当の支給方法や支給額に差を設けている場合の「問題になる例」と「問題にならない例」が多数示されているが、「住宅手当」・「家族手当」(を含む数種類の手当)については「労使で議論していくことが望まれる」とだけ書かれていて、具体例が示されていない。
 つまり、これらに関しては「企業ごとに実態を踏まえて、その存廃を含めて在り方を考えなければならない」ということで、言ってみれば、政府から冷たく突き放された格好だ。

 経営者としては、「では非正規社員にもこれらの手当を支給しよう」とは考えにくいだろうし、また、そもそも住宅手当は「どのような支払い方をしても従業員に不公平感を与える」と揶揄され、家族手当(特に配偶者手当)は「女性の就労意欲を阻害している」との指摘すら受けているなか、真剣にこれらの手当を廃止することを検討している会社も少なくないだろう。

 と言って、現在支給している住宅手当や家族手当を廃止し、支給を打ち切るのは、そう簡単なことではない。
 これは明らかな「労働条件の不利益変更」にあたるので、まずは該当者から個別に同意を取る(労働契約法第8条)ことを考えたい。その後に、就業規則の変更により労働条件を変更する(労働契約法第11条)という手順を採る。
 もちろん、従業員(労働組合のある会社では労働組合)への丁寧な説明は欠かせない。そして、該当者には当面「調整手当」等の名目で差額を支給するなど、激変緩和措置を講じる必要もある。

 会社も従業員も、ある種のパラダイムシフトを求められることにはなるが、「賃金とは何か」という根本的なテーマに改めて向き合う好機ととらえることもできるのではなかろうか。


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「360°評価」の評価制度としての問題点

2020-02-03 16:36:06 | 労務情報

 「360度評価」は、多面評価の一種であり、上司からだけではなく、部下・同僚・他部門の担当者等からも評価を受けるものをいう。
 複数の評価者から評価される(=アドバイスを受ける)ことにより、被評価者本人の「意識改革」と「コミュニケーションスキルの向上」に効果があるとされる。

 しかし、「360度“評価”」と名づけられてはいるものの、これを「評価(=報酬を決める材料)」として用いるかどうかについては疑問だ。
 確かに、多くの目で多角的に見ることから、客観性・公平性に関しては、他の方法よりは期待できるかも知れない。しかし、評価者の意識が未発達な職場では、部下に嫌われないように媚びる上司やライバルを陥れようとする同僚が出てきたりして、社内の人間関係に悪影響を及ぼす可能性も懸念される。
 誤解を恐れずに言ってしまえば、「他部門や部下の要望には応じるが直属の上司には従わない」という従業員を高く評価してしまうリスクも伴うのが「360°」なのだ。

 どんな制度にも共通して言えることであるが、すべての会社にとってメリットばかりでないことを理解したうえで上手に活用するべきだろう。
 そして、これまたどんな制度にも共通するが、「実施して終わり」では意味が無い。事後のフィードバックこそが重要である点も認識しておかれたい。


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