ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「正社員と同視すべき者」のチェックポイント

2023-08-23 09:59:11 | 労務情報

 会社は、雇用期間の定めのある労働者(以下、「有期雇用労働者」と呼ぶ)や所定労働時間が通常の労働者(以下、「正社員」と呼ぶ)に比して短い労働者(以下、「短時間労働者」と呼ぶ)であって、「職務の内容(業務の内容と責任の程度)」および「職務の内容・配置の変更の範囲その他の事情」に照らして「正社員と同視すべき者」については、差別的取り扱いをしてはならない(パート有期労働法第9条)。

 これは、具体的には、次のようなチェックポイントで判断される。
  【職務の内容】
    (1) 業務の内容(職種)
    (2) 中核的業務(その職種を代表し、その職種に不可欠な業務)
    (3) 責任の程度(ノルマの有無、突発事象への対応、部下の人数等)
  【職務の内容・配置の変更の範囲その他の事情】
    (1) 転勤の有無
    (2) 転勤の範囲
    (3) 職務内容・配置の変更の有無
    (4) 職務内容・配置の変更の範囲
    (5) 勤務形態(フレックス制や裁量労働制の適用等)
    (6) 個人の能力・経験、業務上の成果等

 このチェックポイントすべてにおいて正社員と同じである者については、賃金その他の待遇を、比較対象とした正社員と同じにしなければならない(=「均等待遇」)。 と言っても、時給制の者を月給制に変更したり所定労働日や所定労働時間を正社員と同じにしたりすることまで求められるわけではない。

 そして、チェックポイントに1以上の相違がある者については、正社員との間に不合理な待遇差を設けてはならない(=「均衡待遇」;同法第8条)。
 逆に言えば、合理的な理由により適切な待遇差を設けることは許される。 もっとも、それが妥当であるか否かはしばしば争いになり、最終的には司法の判断に委ねられる。

 ちなみに、パート有期労働法は有期雇用労働者および短時間労働者に適用される。
 したがって、社内で「パート」と呼称されていたとしても、雇用期間の定めが無く正社員と同じ所定労働時間で働く者(「フルタイムパート」「フルタイマー」などと呼ばれることもある)は、均等待遇や均衡待遇の対象とされていないことに注意したい。 こうした者の労働条件は、個別に(または労働組合を介して)経営者と交渉して定められることになる。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

有期労働契約のクーリング期間に関する誤解と悪用

2023-08-13 15:59:10 | 労務情報

 雇用期間の定めのある労働契約(以下、「有期労働契約」と呼ぶ)は、その期間が満了したら雇用関係は解消されるのが基本であるが、両者の合意によりこれを更新することは差し支えない。
 そして、その更新が通算5年を超えて反復されることとなった場合には、労働者の申し出により無期契約に転換する(労働契約法第18条第1項)が、契約を一旦終了させて一定の空白期間(クーリング期間)を経過した後に新たな契約を結び直すのであれば、契約期間を通算しない(同法同条第2項)こととされている。

 しかし、これに関する誤解や悪用が多く見受けられている。

 「誤解」というのは、クーリング期間の長さに関するものだ。
 労働契約法はクーリング期間を「6か月(1年未満の有期契約については、その期間の2分の1)以上」と定めているところ、「クーリング期間を1日でも置けば契約期間は通算されない」と思っている経営者も一部にはいるようだ。 「誤解」というより「無知」というべきかも知れない。

 「悪用」というのは、クーリング期間の長さについては正しく理解しつつも、「6か月後に再雇用することを予め約束して一旦雇い止めする」という経営者が少なからずいることだ。 たしかにこうすれば無期転換しないわけだが、さすがにこれは“脱法行為”との誹りを免れえまい。

 これらの点に関し、厚生労働省に設置された労働政策審議会(労働条件分科会)が昨年末(年の瀬令和4年12月27日)に公表した『今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)』において、「クーリング期間に関して、法の趣旨に照らして望ましいとは言えない事例等について、一層の周知徹底に取り組むことが適当である」と提言している。
 この報告書は“公労使”三者の意見を集約したものであるためソフトな言い回しになってはいるが、議論の中ではクーリング期間の廃止(空白期間の有無にかかわらず契約期間を通算する=無期転換しやすくなる)まで視野に入れて検討していた。
 最終的な報告には細かく言及されていないものの、クーリング期間に関する誤解や悪用は国も問題視しているのだ。

 そもそも、反復更新している有期労働契約を解消するのは、合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当でなければならない(労働契約法第19条)。
 「無期転換させたくない」というのは、経営者側の“動機”としては理解できないでもないが、雇い止めの“理由”としては合理性も相当性も満たさない。
 トラブルの素でもあり、有期雇用従業員のディモティベーションにもなりかねないので、安易な雇い止めは慎むべきだ。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宿直勤務を導入するには

2023-08-03 20:59:06 | 労務情報

 従業員を職場に寝泊まりさせる「宿直」は、「夜勤」とは似ていて非なる別物だ。

 経営者から見れば、宿直のほうが夜勤よりも“使い勝手”が良いように感じられるかも知れない。
 というのは、宿直であれば、法定労働時間の限度に関係なく(ただし原則として週1回まで)命じることができ、賃金は1日分の3分の1以上を支払えば足りる(労働基準法第41条、同法施行規則第23条、第34条)とされているからだ。

 しかし、宿直では(原則として)通常業務を命じることができないことを承知しておかなければならない。

 そして、宿直勤務の導入にあたっては、管轄労働基準監督署長の許可を得る必要もある。
 この許可を得られるのは、「ほとんど労働をする必要の無い勤務であり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態発生に備えての待機等を目的とするもの」(昭22・9・13発基17号、昭63・3・14基発150号)でなくてはならず、「相当の睡眠設備」(すなわち「仮眠できる」こと)も条件とされている。
 ちなみに、許可申請してから許可が下りるまで2週間ほど掛かる(その間に実地調査もある)ので、それも踏まえて、導入にあたっては余裕を持ったスケジュールを組んでおきたい。

【参考】宿直勤務許可申請に必要な提出書類
 (1) 『断続的な宿直又は日直勤務許可申請書』(様式第10号)
 (2) 『宿日直勤務者の賃金一覧表』・『調査書』(労働基準監督署指定様式)
 (3) 就業規則・雇用契約書等
 (4) 賃金の計算書
 (5) 勤務パターン(例えば「週1回」など)
 (6) 当番日のタイムスケジュール
 (7) 現地見取り図(夜間巡回のコース図)
 (8) 詰所の状況(相当の睡眠設備を整えていること)
 (9) その他、労働基準監督署が提出を指示したもの(実地調査もあり)
  ※複数の労働基準監督署への聴き取り調査による

 なお、宿直中に突発的な事態が発生して通常業務に従事した場合は、その実働時間数に対しては本来の賃金(深夜割増および法定時間を超過する場合には時間外割増を加算)を支払わなければならない。 加えて、そういう事態が起こる頻度が高い(「突発的」とは言い難い)場合には、夜間に通常業務を行うことが常態となっているものとみなされ、宿直勤務の許可が取り消される可能性もある。

 宿直は、極論を言えば「寝泊まりさせるだけ」と理解しておくべきだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする