ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

厚労省が普及を図る「多様な正社員」とは

2014-12-23 15:09:15 | 労務情報

 いささか旧聞に属するが、厚生労働省が主宰する有識者懇談会(座長:今野浩一郎 学習院大学経済学部経営学科教授)は、今年7月に「多様な正社員」の普及・拡大のための報告をとりまとめている。
 この報告で、懇談会は、「多様な正社員」として「勤務地限定正社員」・「職務限定正社員」・「勤務時間限定正社員」の3種類を挙げ、それぞれについて活用が期待できるケースを具体的に列挙した。

 しかし、これらは特段新しい概念を示したものではない。
 まず、「勤務地限定正社員」については、既に「ナショナル社員・エリア社員(あるいはストア社員)」といった区分を設けている会社も珍しくないわけで、その「エリア社員(あるいはストア社員)」の裾野を少し広げて考えてみれば良い話だ。
 「職務限定正社員」についても、報告では「高度専門的なキャリア形成や資格が必要とされる職務」を例示しているが、そうした者を現に「嘱託社員」として無期雇用している会社も少なくないだろう。
 「勤務時間限定正社員」にいたっては、働き方は正に「パートタイマー」なのであって、「ただ呼び方を変えただけ」との見方もある。

 とは言え、いまだ多くの会社が「勤務地や職種や労働時間を限定するなら正社員になれない」との認識を持っている現状を考えれば、その考えを改めさせ、また、非正規雇用者を正規雇用化するに際しての受け皿としても活用できる点で、この報告を無意味と断じるつもりは無い。

 そもそも、「多様な正社員」とは、平成24年3月に「多様な形態による正社員に関する研究会」が取りまとめた報告に基づくものであり、同年8月の労働契約法改正(無期雇用への転換等を含む)と相まって、「非正規雇用から正規雇用へ」の流れを創造していることは念頭に置いておく必要がある。しかも、今般、厚労省が「多様な形態による正社員」を「多様な正社員」と短く言い換えたことから、これを普及させようとの意図も見える。
 来たる平成27年度のキーワードになりそうだ。


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職場内での負傷に労災保険が適用されない場合も

2014-12-13 23:10:49 | 労務情報

 従業員が職場内で負傷したら、基本的には業務上災害として、労災保険の適用を第一に考えるべきだが、それが第三者(直接的な加害者)の行為により負傷した場合であっても、労災保険は適用されるのだろうか。

 これに関しては、加害者が損害を賠償するべきなのであって、労災保険は適用されない、と思い込んでいる人事担当者も少なからず見受けられるが、それは誤解だ。

 第三者の行為により負傷したとしても、被災労働者が労災保険制度から補償を受けられるのに変わりはない。ただ、その場合は『第三者行為災害届』を管轄労働基準監督署に提出しなければならず、国は加害者に対して求償できるものとされ、また、加害者から賠償を受けていればその範囲内で労災保険制度からは補償されない、というだけのことなのだ。
 ちなみに、その加害者が職場の同僚であった場合は、「使用者による災害補償義務を填補する」という労災保険の目的に鑑みて、求償を差し控えることとされている。

 一方、従業員が職場内で負傷したとしても、労災保険が適用されない場合もある。
 例えば、私怨による喧嘩によって負傷したケースや業務に無関係な疾病(脳内出血など)で昏倒して負傷したケース等は、業務に起因せず、また、業務遂行による事故でもないので、業務上の災害とは認められないからだ。

 こうした「業務上」か「業務外」かの判断は、単に労災保険の適否に影響するだけではなく、会社の民事的な損害賠償責任にも関わる話であるし、安全配慮義務の問題にもなる。
 さらには、業務上負傷したのであるなら、労働基準法第19条の適用を受け、療養のために休業する期間およびその後30日間は解雇することができない。

 間違っても、労災保険を使おうとして業務外の事故を業務上であったかのように偽ることは、あってはならないのだ。


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本人自身は「症状固定」が認識できていないことも

2014-12-03 15:59:19 | 労務情報

 従業員が心身の故障等により労務の提供ができなくなったら、会社は、「債務不履行」を理由に、一方的に解約(すなわち解雇)することができる。無論、解雇以外に問題を解決する方法があるのなら、まずそれらの手段を講じるべきであり、そうした解雇回避努力を尽くさない解雇は「権利の濫用」として無効となりうることは覚えておかなければならないが。

 ところで、これは私傷病による労務不能の場合であって、それが業務に起因する傷病による場合は、話が違ってくる。労務不能の原因を作った当事者たる会社からの一方的な解約は許されないからだ。これに関し、労働基準法第19条は「療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない」と、解雇制限を設けている。
 ここで注意を要するのは、「療養のために」という部分だ。逆に言えば、傷病が治癒した場合は当然として、症状固定(現代の医療水準に従って治療をしてもこれ以上は改善しないという状態)に到った場合も、30日を経過すれば解雇制限が解除されることになる。
 例えば、創傷面が完全に塞がって、しびれ等の神経症状のみ残しているようなケースで、医師からペインクリニックへの移行を指示されることがある。本人にしてみれば「お医者さんに行って注射してもらう」という行為はそれまでと変わらないとしても、それが“治療”として行われなくなったのなら、解雇の対象となってしまうのだ。もし会社が当該従業員を解雇すると決めたなら、人事担当者としては、本人がこれを認識できていない可能性もあることを踏まえて、丁寧に説明する必要があるだろう。

 ちなみに、「療養開始後3年を経過した場合に打切補償を支払って解雇できる」とする労働基準法第81条は、労災保険を使った事案には適用されないこととされている。これについては賛否両論あり、最高裁上告中の係争事案があるので、判決の行方を注視していきたい。


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