ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

無断欠勤のケース別対処法

2023-06-23 10:59:08 | 労務情報

 従業員に無断欠勤されると、まず業務に支障が出るし、他の従業員へも悪影響を及ぼすので、会社は何らかの対処を講じなければならない。
 しかし、短絡的に結論を出すのは危険だ。

 では、どのように対処したらよいか、以下、無断欠勤のケース別に、その注意点を挙げておく。

A 事故や急病
 日ごろ出退勤に乱れの無い従業員が突然無断欠勤した場合は、まず事故や急病が疑われる。 早急に本人に連絡し、連絡が取れないようなら家族に連絡を入れるべきだ。
 このケースでは、ただの「欠勤」(原則ノーワークノーペイ)として扱うのが適切だろう。

B 逮捕・勾留
 逮捕されると、多くの場合は22日間(48時間+勾留10日間+勾留延長10日間)、外部に連絡できなくなり、自ずと無断欠勤になる。 通常は警察等から自宅へは連絡が行くものの、本人や家族が会社に知られたくないと思って会社に連絡してこないことも考えられる。
 このケースでは、会社は本人から(釈放後または接見時に)事情を訊き、逮捕理由や公判の状況によっては厳しい処分も考えなければならないが、そうなると「無断欠勤」など、もはや“判断材料の一つ”に過ぎなくなってしまう。
 そして、もし当人に何ら非の無い逮捕・勾留であったなら、当然、Aと同じ扱いとなる。

C 会社への反発心
 上司に叱責された等の理由で無断欠勤する者がいるかも知れない。
 それが「職場放棄」であるなら懲戒事由になりうるが、このケースでは、精神疾患を発症している可能性や職場にハラスメントが存在する可能性(いずれも会社に責任あり)も想定しておく必要があろう。
 長期無断欠勤したSEを諭旨解雇したところ「精神科医による健康診断を実施するなどした上で‥必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべき」として解雇無効と断じた裁判例(最二判H.24.4.27)も参考にしたい。

D 失念
 単に「連絡しわすれた」というもの。 会社が注意・指導しても繰り返すようであれば、組織内で仕事するには不適格であるので、解雇も視野に入れて対処を考えざるを得まい。
 ただし、そのためには、無断欠勤の都度、「始末書」または「顛末書」を書かせておきたい。

 いずれのケースにおいても、(1)事情を聴取する、(2)出勤を命じ、あるいは再発しないよう指導する、(3)必要ならば懲戒する、という手順を踏んで対処を考えなければならない。
 そして、「解雇(懲戒解雇・諭旨解雇・普通解雇のいずれも)」は、裁判で無効とされるリスクがあることを承知のうえで、あくまで“万策尽きた後の最終手段”と認識しておくべきだろう。


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労災給付に不服があった場合、会社が訴えを起こすことは可能か?

2023-06-13 09:59:46 | 労務情報

 業務上の災害により傷病を負った(または死亡した)労働者またはその遺族(以下、本稿では遺族を含めて「被災労働者」と称する)は、国(直接的には労働基準監督署)に対して、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」と略す)に基づく給付を請求することができる。
 そして、この関係における当事者はあくまで「被災労働者」と「国」であるので、会社(事業主)は、国の判断に不服があった場合でも、「意見を申し出ることができる」(労災保険法施行規則第23条の2)に過ぎず、訴えを提起できない、と(従来は)考えられてきた。

 しかし、先般、この考え方を覆す裁判例(東京高判R4.11.29)が出されて物議を醸している。
 これは、労災保険の給付が認められた被災労働者の雇い主である一般財団法人がその取り消しを求めた事件で、一審の東京地裁は「事業主には原告適格なし」として訴えを却下したが、二審の東京高裁が「原告適格があるものとして審理せよ」と差し戻したものだ。 結審はまだ先になりそうだが、労災保険制度の根幹に影響しかねない問題として識者間で賛否両論が交わされている。

 では、なぜ事業主がそんな訴えを提起するかというと、業務災害の有無によって労災保険料が増減するからだ。これは、「メリット制」と言い、一定規模以上(継続事業の場合、「労働者100人以上」または「労働者20人以上かつ災害度係数0.4以上」)の事業場において、業務災害の有無により翌年度以降3年間の労災保険率を最大40%増減する仕組みだ。
 そのため、事業主は「業務災害と認定される」のを大変に嫌う。 上述の差し戻し審においても、東京高裁は「労働保険料の納付義務の範囲が増大して直接具体的な不利益を被るおそれがある」と判示している。

 一方で、厚生労働省に設置された「労働保険徴収法第12条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会」は、次のような報告をまとめている。
  1.労災保険給付支給決定に関して、事業主には不服申立適格等を認めるべきではない
  2.事業主が労働保険料認定決定に不服を持つ場合の対応として以下の措置を講じる
   ア)労災保険給付の支給要件非該当性に関する(行政手続き上の)主張を認める
   イ)支給要件非該当性が認められた場合は労働保険料に影響しないように対応する
   ウ)支給要件非該当性が認められた場合でも、被災労働者への給付は取り消さない

 つまり、行政部局内に事業主の不服の受け皿を用意してメリット制による保険料計算を斟酌する余地を設けつつ、「被災労働者の迅速・公正な保護」という労災保険制度の趣旨は堅持する立場のようだ。 裁判所の判断とは解決の方向性が異なる点が興味深い。
 今後の議論の行方を注視したい。

 ところで、一部には、メリット制の廃止を唱える向きもある。
 しかし、メリット制は、労災事故を起こさないための事業主への動機づけとなり、また、労災事故を起こした事業主に対する“ペナルティー”として機能しているのも事実であるので、“見直し”ならまだしも“廃止”はさすがに難しいだろう。


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通勤途上の傷病でも通勤災害にならないケース

2023-06-03 16:59:16 | 労務情報

 従業員が通勤途上(本稿では逸脱・中断が無いものとして考察する)で事故に遭った場合、通常は、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」と呼ぶ)の療養給付・休業給付・障害給付・遺族給付を受けられる。
 しかし、通勤途上での傷病であっても「通勤災害」として取り扱われないケースもあるので注意を要する。

 その典型例は私傷病によるものだ。 業務や通勤とは無関係の心臓疾患により倒れたようなケースは労災保険でカバーされない(昭50.6.9基収第4039号、名古屋高判S63.4.18等)。
 また、通勤途上で犯罪行為に巻き込まれた場合は、見ず知らずの犯人による“通り魔”的なものであれば「通勤に通常伴う危険が具現化した」と判断されて通勤災害として取り扱われる(昭49.3.4基収第69号)が、その一方、個人的な怨恨によるものであれば(それが誤解に基づくものであっても)「通勤がその犯罪にとって単なる機会を提供したに過ぎない」と判断されて通勤災害とはならない(大阪高判H12.6.28)。

 さて、経営者にとって頭が痛いのは、通勤途上であっても「業務災害」として取り扱われるケースがあることだ。
 業務災害だと、次のような点で会社にとって不利に働く。
  (1) 労働基準監督署に『労働者死傷病報告』を提出しなければならない
  (2) 休業3日間(労災保険から給付なし)について休業補償を要する
  (3) 年次有給休暇の発生基準計算に際して休業した期間は出勤したものとみなす
  (4) メリット制が適用される事業場では次年度の労災保険料が増額する可能性がある
  (5) 療養のために休業している期間およびその後30日間は原則として解雇できない
  (6) 民事上の損害賠償責任を問われる可能性がある

 例えば、上に挙げた心臓疾患により倒れたケースにおいて、その要因が過重労働にあった場合は、業務災害として取り扱われる。 もっとも、こうした事案においては、過重労働の有無や疾病との因果関係が争われることも多いが。
 また、出張中においては、出張先へ向かう道中や出張先からの帰宅中に事故に遭った場合でも、通勤災害ではなく業務災害として取り扱われる。
 ちなみに、労働時間の算定(労働基準法での考え方)にあたっては、出張における移動時間は、「人や物を運搬することが業務の目的である場合」や「移動中に行うべき業務を命じている場合」を除き、労働時間として取り扱う必要はない。

 どうあれ、会社には「労災保険を使わせない」という選択肢は無い。
 それは、「労災隠し」(=犯罪行為)に他ならない。 事故が起きてしまった以上、「轢き逃げ」で罪を重ねずに、正しい手続きを進めるべきことを肝に銘じたい。


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