ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「労災休職中の社員は解雇できない」と言われるが

2015-12-23 17:29:31 | 労務情報

 労働基準法第19条に「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない」との旨が定められている。そのため、一般的には、「労災で休職中の社員は解雇できない」と言われる。
 ただ、これは、概略的には誤っていないが、厳密に論じると、これに当てはまらないケースもあるので、特に人事・労務を担当する者は、誤解の無いように正しく理解しておきたい。

 まず、労災保険では、「業務上災害」と「通勤災害」の場合に給付されるが、労働基準法が解雇を制限しているのは、「業務上災害」の場合だけである。うっかり「労災=業務上」と思い込んでしまいがちだが、「通勤災害」であれば、労災保険から給付を受けていても解雇制限の対象外なのだ。

 もう1つ、これも言葉尻をとらえるような話ではあるが、「療養」していなければ、解雇制限の対象にならないことも、要注意だ。
 すなわち、ずっと会社を休んで定期的に通院していたとしても、症状が固定し、それ以上の医療効果が期待できない状態となったなら、「療養している」とは言えないので、解雇制限から外れることになる。
 この場合は、労災保険からの給付も、「療養補償給付」・「休業補償給付」が打ち切られ、「障害補償給付」に切り替わるので、労務部門の事務手続きは、これと足並みを揃えることになろう。

 さらにもう1つ付け加えるなら、労働基準法が禁じているのは「解雇」であって、「退職勧奨」は許されると解される。
 なので、もし休職が長引いて、会社にとって(特約の無い限り賃金は支給しなくても良いが)社会保険料や事務上の手間が負担となってしまうようなら、退職してもらえないか、お願いしてはどうだろうか。もちろん、その場合は、退職金を上乗せする等の“手土産”は必要だろうし、雇用保険の資格喪失事由は「会社都合」ということになる点は承知しておくべきではあるが。

 無論、どのようなケースであれ、解雇は最終手段であるので、会社は本人が復職できるように取り計らい、極力解雇を回避するべく努めなければならないことは言うまでもない。


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労基署へ届け出ていない就業規則の効力は?

2015-12-13 08:58:30 | 労務情報

 労働基準法は、就業規則を労働基準監督署に届け出るべき旨を第89条で、また、就業規則の作成または変更について労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者)の意見を聴くべき旨を第90条で、それぞれ定めている。

 では、こうした手続きを経ずに制定された就業規則は労働契約としての効力まで否定されてしまうのかと言うと、そうとも限らないのだ。
 実際の労使トラブル事案においても、「意見聴取義務および届け出義務について労働基準法違反があったとしても、労働契約の内容を決定する就業規則の効力に影響はない」と判断している裁判例(大阪高判S41.1.20、東京地判H18.1.25など)が大多数だ。

 もちろん、就業規則を労働基準監督署に届け出ていなかったり、労働者代表の意見を聴かなかったりしたら、それは、労働基準法違反に問われ、罰金刑まで科される可能性のある行為ではある。
 しかし、労働基準法が定める使用者の義務は「国」に対するものであって、労働契約としての民事的な効力の面では、「その就業規則が従業員に周知されているか否か」に重きを置いて考えるべきなのだ。
 労働基準法が定める意見聴取や届け出の義務を果たしていても、その就業規則が従業員に周知されていなければ無効と見る裁判例も多い(最二小判H15.10.10など)。

 そもそも就業規則を制定する目的は、「労働条件を明確化し、職場秩序と服務規律を保持するため、そしてトラブルを予防し、ひいては従業員の安心感と会社へのロイヤリティを醸成するため」であったはずだ。
 そう考えれば、労働基準法あるいは労働契約法の規定を俟つまでもなく、就業規則が従業員に周知されていなければ全く意味が無いのは、当然と言えよう。


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飲酒運転で検挙された従業員を解雇できるか

2015-12-03 22:39:16 | 労務情報

 忘年会シーズンが到来した。
 ところで、もしも従業員が飲酒運転で検挙された場合、会社は当該従業員を懲戒または解雇することは可能なのだろうか。

 まず、懲戒に関して言えば、業務上の飲酒運転であれば、会社は懲戒することができる。というよりも、懲戒しなければならないだろう。
 ただし、懲戒処分のうち「懲戒解雇」は、「死刑」にも例えられるくらい取り返しが付かないものなので、たとえ就業規則で「懲戒解雇に処する」と定められていたとしても、「出勤停止」や「降格・降職」等の処分で宥恕できないかを検討するべきではある。

 その一方、会社が従業員を懲戒できる権利を有するのは、「企業秩序を維持確保するため」(最三小S52.12.13判など)なのだから、企業秩序に関係の無い“私的行為”は懲戒の対象とならないのが原則だ。「業務外におけるバイクの飲酒運転で事故を起こした従業員を会社が懲戒解雇した事案」について解雇を無効とした判決(福井地H22.12.20判)も参考にしたい。

 また、解雇に関して言えば、呼気中アルコール濃度0.25mg以上が検出されたら一発で免許が取り消されることになっているが、そもそも運転免許を必要としない職務に就いている者については、運転免許が無くても仕事ができるのだから、それを理由に解雇できない。

 では、運転免許を必要とする職務に就いている者は運転免許が取り消されたことを理由として解雇できるかと言うと、それも簡単な話ではない。
 二種免許を失ったタクシー乗務員について、「ほとんど専門性を有しない業務については、ある程度使用者側の必要性において配置転換できるし、特定の業務ができなくなっても、解雇することはできず、他の職種に就けるべき」として解雇を無効と断じる判決(東京地H20.9.30判)も出されている。こういう場合でも、「解雇以外に選択肢が無いか」を検討することを裁判所は求めているのだ。

 いずれにしても、従業員の飲酒運転に対しては、短絡的に「飲酒運転=懲戒解雇」との結論を出すべきでなく、「懲戒すべきか否か」、「解雇すべきか否か」の2面を勘案し、慎重に判断しなければならないと言える。


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