ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

パートタイマーへの社会保険適用拡大が役員にも影響?

2016-08-23 18:09:04 | 労務情報

 社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、法人であって常時従業員を使用するものは適用事業所となり、そこから報酬を得ている役員・従業員は、原則として全員が被保険者になる。(健康保険法第3条、厚生年金保険法第6条・第9条)

 ところで、短時間労働者に関しては、現行制度では「所定労働時間・所定労働日数が通常の就労者の概ね4分の3以上」の者が加入することになっている(昭和55年厚生省「内翰」による基準;以下、「4分の3ルール」と呼ぶ)が、平成24年の法改正により、平成28年10月以降は、従業員数501人以上の事業所において「(1)週所定労働時間20時間以上 (2)月額賃金88000円以上 (3)1年以上の雇用が見込まれること (4)学生でないこと」の要件を満たす者が加入することとなった。

 このことは、いわゆるパートタイマーへの適用拡大として話題になっているが、パートタイマーだけでなく役員も影響を受けるかも知れない話なので、注意を要する。
 と言うのも、非常勤取締役や非常勤監査役など(本稿ではこれらを「非常勤役員」と総称する)に関しては、法文上は、会社から報酬を得ている限りは社会保険に加入させるべきと解釈されるところ、短時間労働者に用いるべき「4分の3ルール」を根拠として加入させていないケースが少なくないからだ。

 しかし、社会保険の被保険者になるか否かは、本来、「会社との使用関係があるか否か」によって判断されるべきものだ。
 役員の場合、具体的には、(1)経営に携わっているか、(2)役員としての業務執行権を有しているか、(3)役員会議への出席の有無、(4)報酬額は妥当か、といった諸点を考慮して、年金事務所長が総合的に判断する。会社で「非常勤」と呼称していても、あるいは、会社法第2条第15号の「社外取締役」・第16号の「社外監査役」に該当するとしても、そのことは、直接は関係ないのだ。

 もし、「非常勤役員の出社日数が正社員の4分の3未満である」という理由で社会保険に加入させていなかったなら、あるいは逆に、社会保険に加入させないために非常勤役員の出社日数を4分の3未満としていたなら、その理屈は、今年10月以降は通用しなくなる。
 上述「会社との使用関係があるか否か」の基準に照らして、適正な取り扱いがなされているかどうか、再チェックしておきたい。


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安全配慮義務 = 危険の予見 + 回避努力

2016-08-13 14:29:01 | 労務情報

 労働契約法第5条は、会社が従業員に対して“安全配慮義務”を負う旨を明記している。
 これは、訴訟の場においては従来から「事業主は安全配慮義務を負う」という大前提の下に「その義務を果たしたか否か」が争われてきたことを踏まえて盛り込まれたもので、労働契約法施行(平成21年3月)に際して特に新たな義務を事業主に課したわけではない。

 判例を総じて見れば、業務上の災害が発生した際に、その災害が発生することを予見でき、それに対して社会通念上相当な防止手段を講じていない場合に、事業主の責任が問われる傾向にある。
 労働契約法はここまで具体的に規定していないが、裁判所が今後もこの“予見可能性”と“危険回避努力”を判断基準とするのは従来と変わらないであろうから、会社としても、この2つを意識しておきたいところだ。

 もっとも、会社が安全配慮義務を果たすのは、労働契約法で義務づけられているから、あるいは裁判で有利になるため、というものではないだろう。
 労働災害の発生は、被災労働者やその家族にとってはもちろんのこと、会社にとっても大事な労働力を失うことになり、誰も得をしない。健全な経営を考えるならば、安全配慮義務を果たすのは言わずもがな当然のことと肝に銘じたい。


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免許取消になった社員の解雇は?懲戒は?

2016-08-03 19:09:01 | 労務情報

 こう暑い日が続くと冷たいビールで喉を潤したくなる… らしい。(甘党の小生は、実はその気持ちが分からないのだが)

 ところで、飲酒運転に対する厳罰化を求める世論を背景に、今は、呼気中アルコール濃度0.25mg以上が検出されたら一発で免許が取り消されることになっている。しかも取消後2年間は免許を再取得することもできない。

 では、自社の従業員が運転免許を取り消されたら、会社はどう処分すべきなのだろうか。

 まず、運転免許を所持していることを採用の条件にしており、かつ、運転できないならその仕事ができないのであれば、解雇(ここでは「懲戒解雇」ではなく「普通解雇」を指す)も視野に入れて今後のことを検討しなければなるまい。
 しかし、もし配置転換等により解雇を回避できる余地が有るなら、会社は、そのことを本人に提案しなければならない。この場合は職務が変わるのだから処遇も変えるのが一般的だが、その新たな雇用条件を本人が受け容れなければ、その時にこそ、解雇(もしくは退職勧奨)を考えるべきだ。
 「初めから解雇ありき」で考えると後々のトラブルに発展する可能性が高いので注意を要する。

 一方で、“懲戒”については、処遇の変更(普通解雇を含む)とは別の次元で考えるものだ。処遇の変更は、車を運転しなくても職務を遂行できる者には無関係だが、違反行為に対する懲戒は、会社が科さなければならない場合もあるからだ。その逆もまた真なり。
 懲戒すべきかどうか、あるいは、軽いものは「訓告」や「譴責」から重たいものは「懲戒解雇」まである懲戒処分のうちどれを適用させるかについては、「その行為によって会社はどの程度の(有形無形の)損害を被ったか」を判断基準の一つとしておくと良いだろう。社有車での違反であったり、取引先に知れて営業上の支障になったり、相手のある事故を起こしてしまっていたり、というケースでは、仕事を離れての私的行為であっても、会社はその従業員を厳しく懲戒すべきだ。

 ただ、どういう懲戒を科すにしても、就業規則の規定に基づき、かつ、社会通念上相当な処分でなければならない。
 こういったケースに直面すると、経営者や人事担当者は、つい感情的になりがちだが、冷静に対処することが肝要だ。


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