ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

従業員の他社役員就任を是認できるか

2017-08-23 16:19:01 | 労務情報

 自社の従業員が他社の役員に就任していることがある。無論これが会社が命じたものであれば(後述の税務処理・社会保険手続きは必要であるものの)特段の問題は無いが、会社の業務とは関係ない私的なものであった場合、会社がそれを認めて良いのかどうかは悩ましい。

 まず、他社の役員に就任したときにその旨を会社に届けさせることは、社内規程に必ず定めておくべきだ。
 それによって源泉所得税の課税方法が変わる可能性があるし、当該他社でも社会保険に加入する場合は「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」(複写用紙)の提出と保険料按分の手続きを要することになるからだ。

 では、従業員が他社の役員に就任した旨の届け出を会社が受け取った場合に、それを認めないというのは許されるのだろうか。もちろん会社が「あちら(他社側)の役員を退任せよ」と強制することはできないので、自社側でそれを理由に当該従業員を解雇することが可能かどうか、という議論になる。
 ちなみに、従業員でなく自社の役員である場合は、他社役員の兼任を理由に解任するもしないも株主の総意(株主総会の決議)によるので、これは従業員に限っての問題と言える。

 結論としては、「他社役員への就任によって会社の業務に支障が出るかどうか」が判断の分かれ目となる。
 それが競合他社であった場合はもとより、十全な労務の提供ができない、業務命令(配転命令を含む)に従わない、会社の信用を失墜させる等の行為が見られたなら、解雇も視野に入れて処分しなければならないが、そうでない限りは、他社役員就任の事実だけをもって懲戒その他の不利益処分を科すことはできないと考えるべきだ。
 むしろ今日的には、私生活を含めた従業員の多様性を会社は受け容れるべきとする「ダイバーシティ」の理念を鑑みれば、会社への届け出を徹底することを前提に、条件付きで他社役員への就任を是認していくのが賢明と言えるかも知れない。

 今後、マイナンバー制度が本格稼働するに連れ、こういったケースが明るみに出てくる可能性が高いと思われる。会社としては、感情的にならずに、会社にとってのメリットとデメリットを見極めて、冷静に判断したい。


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断続的業務には最低賃金の減額特例も

2017-08-13 12:59:45 | 労務情報

 例えば「顧客からの修理を受け付ける部門」のように、通常は業務閑散だが突発事態に備えて待機していなければならない仕事もある。こういった従業員については、「断続的労働に従事する者」として労働基準監督署の許可を受ければ、労働時間に関して労働基準法の適用から除外されることになっている(労働基準法第41条)。

 この労働時間に関する適用除外が許可されるというのは、断続的労働従事者には、法定労働時間(原則として1日8時間または週40時間)を超えて労働した場合でも“割増賃金”を支払う必要が無いことを意味する。しかし、割増分が不要になると言っても、労働時間数に相当する“通常の賃金”は支払わなければならない。
 この点、誤解されている向きも多いので要注意だ。

 また、労働時間に関する労働基準法の適用除外が許可されても、最低賃金法については適用除外されないことも覚えておきたい。
 以前は最低賃金法に関しても「適用除外」の申請が可能であったが、現在は、適用除外ではなく「減額の特例」を申請する仕組みが設けられている(最低賃金法第7条)。具体的には、断続的労働を「実働時間」と「手待ち時間」とに分解し、そのうち「手待ち時間」の部分について通常の時間単価の4割まで減額できる(最低賃金法施行規則第5条)。
 なお、この減額特例申請の提出先は都道府県労働局長であるが、所轄労働基準監督署を経由しての提出になるので、実務的には、労働基準法の適用除外申請と同時に手続きするのが良いだろう。


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内定者インターンシップは無給で良いのか

2017-08-03 16:02:37 | 労務情報


 そろそろ来春卒業予定者の採用内定(「内々定」と言うべきか?)を出している会社もあるだろう。
 ところで、内定学生に対して、現場実習等をさせる場合(※)、参加した学生に賃金を支払う義務はあるのだろうか。

※これを「内定者インターンシップ」と称する例もある。
 採用活動(就職活動)における「インターンシップ」という用語には、
  ① (主に学校主催の)単なる職業体験
  ② 企業が優秀な学生を見極めるための採用活動の一部
  ③ 内定者に対して入社前教育の一環として実施するもの
  ④ 採用後の見習い期間
 といったさまざまな意味があるが、本稿では③の意味として「内定者インターンシップ」と呼ぶこととする。

 さて、内定者インターンシップを有給とすべきか無給でよいかは、「会社の指揮命令下にあるか否か」という基準で判断される。すなわち、会社の指揮命令下にあるなら賃金支払いが必要となり、会社の指揮命令下になければ賃金は発生しないことになる。

 具体的に見れば、まず、参加を強制され、欠席・遅刻・早退に対し何らかのペナルティーが科せられるなら、「指揮命令下にある」と言えるだろう。
 そして、実作業に携わったなら、それはもう、労務の提供に他ならない。会社としては「まともな仕事はやっていない」と言いたいかも知れないが、業務に必要な知識・能力を習得するのも労働であるから、そこに賃金は発生する。
 また、「現場での注意事項を入社前に説明しておく」というケースも多く見られるが、これも、その“説明”が労働安全衛生法第59条の「雇入れ時の安全衛生教育」に該当するなら、労働時間とするべきとされる(昭47.9.18基発602号)ので、要注意だ。

 逆に、参加が任意であって、見学や体験程度のもの、あるいは親睦を目的とするものであれば、「指揮命令下にない」ということになり、賃金支払いの義務は生じない。
 ただ、そういったものを「内定者インターンシップ」とは呼べるのかは甚だ疑問ではあるが。

 内定者の入社前教育に関しては、会社ごとに方針が異なって然るべきだ。
 しかし、会社の指揮命令下に置く以上は、内定者と言えども「労働者」であって、最低賃金以上の賃金(当該内定に係る雇用契約は未発効であるので初任給額に基いて算出した賃金でなくてもよい)を支払わなければならない。また、労災の対象になることも、覚えておきたい。


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