ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

労働者代表の複数化・常設化を検討中(労働基準関係法制研究会)

2024-08-23 08:59:07 | 労務情報

 「時間外労働に関する協定」(俗に「三六(サブロク)協定」とも呼ばれる)を初めとする各種の労使協定は、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合が無い場合には、労働者の過半数を代表するもの(以下、「労働者代表」と呼ぶ)と締結する。 また、就業規則を制定する際にも労働者代表の意見を聴かなければならない。

 この労働者代表は、挙手や投票(「回覧方式での投票」や「社内ネットを用いた投票」でも差し支えない)等の民主的な方法によって選出されるべき(H11.1.29基発45号)なのだが、現実には、経営者が特定の者を指名したり、親睦会の代表が自動的に労働者代表になったりするケースも少なくない。
 このような不適切な選出方法では適用される労使協定の有効性にすら疑問符が付いてしまうので、そのような取り扱いをしている会社はすぐに改めるべきだ。

 ところで、今、厚生労働省に設けられた「労働基準関係法制研究会」では、この「労働者代表」を複数化・常設化しようとする議論が進んでいる。
 そもそも、労使協定というのは、「労使が合意した事項については労働基準法等の規制を緩める(デロゲーション)」という位置づけがあるところ、それほどの重責を1人の労働者に担わせていることを当事者(労使とも)が理解していない現状があるので、それを改めようというものだ。

 これに関し、日本経済団体連合会は「労使協創協議制」(選択制)を提案している。
 これは、労働者の中から民主的な手続きにより複数人の代表を選出し、行政機関により認証を受けたうえで、会社との間で個々の労働者を規律する契約を締結する権限を付与するというものだ。
 ただ、この提案で気を付けたいのが、過半数労働組合の無い会社が労使協創協議制を選択しなかった場合には労使協定が締結できない(労働基準法等の例外規定が適用されない)としていることだ。 この点、中小零細企業には受け容れがたいかも知れない。

 一方、日本労働組合総連合会は「労働者代表法」の制定を要望している。
 その案によれば、労働者を代表する複数の者から成る機関(労働者代表委員会)を設置し、その自主的・民主的な運営や使用者との対等性を確保する枠組みを法的に整備するとしている。
 これまで連合は、労働組合でない「労働者代表」に対して否定的なスタンスであったが、少し軟化して、「労使コミュニケーションの中核的役割の担い手は労働組合であるべき」としつつも、「労働者代表の選出や運用について法で規制する」という現実的な歩み寄りを見せた印象だ。

 具体的にどのように変わるかは今後の議論を待つことになるが、現状の労働者代表の在り方について労使とも問題意識を持っており、その解決のためには労働者代表の複数化・常設化が必要、という方向性は定まりつつあると言えよう。


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「ハローワーク別地域指数」記載誤りは全国・全業種に影響

2024-08-13 09:08:17 | 労務情報

 厚生労働省は、昨年8月に公表した「ハローワーク別地域指数」の一部(全434所のうち、神奈川・山梨・長野・新潟以西の275所)に誤りがあることを発表した。
 これは、全国のハローワークの所管地域ごとに「一般労働者の賃金の水準(一般賃金水準)」を示したもので、派遣労働者にとって実質的な“最低賃金”に相当する。
  【参考】職業安定局需給調整事業課報道発表(令和6年5月24日)

 では、ここで、派遣労働者の待遇決定方式について、改めて確認しておこう。
 いわゆる「同一労働同一賃金」の観点から、派遣労働者も派遣先(派遣労働者を受け入れる事業所)の労働者と不合理な待遇格差があってはならない(労働者派遣法第30条の3)。 これは必ずしも“均等”でなくてもよいが、“均衡”の取れた待遇が求められている。
 しかし、この「派遣先均等・均衡方式」により派遣労働者の待遇を決定することにすると、派遣先は自社従業員の賃金等に関する情報を派遣元(派遣会社)に提供しなければならず、また、派遣労働者本人にとっても派遣先が変わるたびに待遇が見直されるという不合理が生じる。
 そのため、9割近くの派遣元では、同法第30条の4の規定に基づき、過半数労働組合または過半数労働者代表との「労使協定」により待遇を決定しているのが現状だ。
  【参考】労働政策審議会資料『労使協定書の賃金等の記載状況について』(P.1)

 この「労使協定方式」により派遣労働者の待遇を決定するには、「厚生労働省令で同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として定める額以上の賃金とする」等の基準が設けられている。

 今般、その金額に誤りがあったということなので、訂正後の(正しい)一般賃金水準に満たない労使協定を締結している派遣元では、新たな協定を締結して(経過措置期間は今年9月30日まで)賃金額を引き上げ、加えて、今年4月から新協定発効までの間の賃金差額を補うことを労使で検討しなければならない。

 こうした派遣元事業主に対し、厚生労働省は現在、雇用保険二事業により支援する方向で検討している。
 具体的には、「人材確保等支援助成金」の下に時限措置として、①賃金制度の整備に係る基本経費として5万円、②雇用する派遣労働者1人当たり1万円、③(①②の合計額を超えざるを得ない場合)実費、を助成する案が示されている。

 それにしても、この原資は雇用保険料の事業主負担分から賄われるということだから、今般の行政の不始末は、派遣元・派遣先だけでなく、また、地域も問わず、すべての事業所に影響が及ぶと言えよう。


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社用PCの私的利用とその監視の是非

2024-08-03 12:47:30 | 労務情報

 従業員が会社から貸与されたPCやスマホあるいはネットワーク(以下、「社用PC等」と呼ぶ)を用いて業務に関係ないメール送受信やSNS投稿やネットバンキング操作等(以下、「私的利用」と総称する)をしていたら、会社は懲戒することができるのだろうか。

 そもそも、社用PC等を私的利用してよいか否かを問うならば「否」と答えざるを得まい。 社用PC等も業務用に付与したメールアドレス(SNSアカウントを含む)も、その所有者が会社である以上、それを貸与した目的以外に使うことは認められないからだ。
 しかし、私用メールの“受信”については、業務用のメールアドレスを家族や友人に知らせることは珍しくなく、それを禁じる合理的な理由も無いので、これは許容範囲内と言えるだろう。
 一方、私用メールの送信その他積極的な私的利用は、業務用メールアドレスを使おうと私的メールアドレスを使おうと、いずれにしてもメールを打っている間や操作している間は職務専念義務(労働契約に付随する義務)を果たしていないことになる(東京地判H14.2.26等)。
 とは言え、民法493条は「債務の本旨に従った弁済」を求めているのであって、当人の執務自体もしくは職場の業務運営全体に支障が生じるほどでない限りは私用メールを送ったことを咎め立てるのは酷にすぎよう(参考:東京地判S42.11.20;“私用電話”に関する裁判例)。 また、会社の電話機を用いて私用電話を掛けた場合における「電話料金」のような“目に見える損害”が、社用PC等の私的利用では生じないことも考慮されるべきだろう。

 結論として、社用PC等の私的利用を禁じること自体は可能であるが、それへの違反行為を懲戒の事由とするのは、現実に、その頻度や内容の不適切さ等により業務に支障が出たり、有形・無形の損害を被ったりした場合に限る、と認識しておくべきだろう。

 ところで、こうした案件を論じる時には、プライバシー権(日本国憲法第13条「幸福追求権」の一つと解釈される)についても理解しておかなければならない。 というのも、社用PC等であったとしても、その利用方法に関して利用者(この場合は従業員)に一切のプライバシー権が無いとは言えないからだ。
 上述のとおり社用PC等は会社の所有物であるから、会社は施設管理権の一環として、その利用方法を監視することは問題ない。 しかし、それが「責任ある立場でない者によるもの」・「職務上の合理的必要性なく個人的な好奇心等から行われたもの」・「監視している旨を秘匿してのもの」であった場合などには、「社会通念上相当な範囲を逸脱した監視」として、プライバシー権の侵害となりうる(東京地判H13.12.3;この判決では請求棄却)。
 逆に、会社は「責任ある者が職務上必要な範囲で利用方法を監視する」旨を周知しておくべきであり、また、そうすることで私的利用や不適切利用を抑止する効果も期待できそうだ。


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