ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

休職制度の意味と休職の終了について

2024-02-23 08:59:09 | 労務情報

 民法第542条第1項は、債務者が債務を履行できなくなったら、債権者は契約を解除することができる旨を定めている。 そして、労働契約も「労働者が労務を提供し、これに対し使用者が賃金を支払う」という双務契約であるので、基本的にはこれに従う。
 ただし、労働契約に関しては、労働基準法第19条で解雇制限について、同法第20条で解雇予告について、労働契約法第16条で解雇の合理性・相当性について定めており、特別法であるこれらの規定が民法の原則よりも優先されることは存知のとおりだ。

 さて、債務者(=ここでは労働者)が債務を履行(=労務を提供)できない状態になったら債権者(=使用者)は労働契約を解除(=解雇)できるわけだが、一定期間を経過すれば再び働けるようになる可能性があるなら「その一定期間、解雇を猶予する」という社内ルールを定めることもできる。
 これが「休職」の本質的な意味(「出向休職」のような会社都合による休職事由を設けている会社もあるが、本稿では例外としておく)と言える。
 したがって、休職している間に債務の本旨に従った労務の提供ができるようになれば復職させる一方、それが不能のまま休職期間を経過したなら、労働契約を解除(こういったケースでは「解雇」ではなく「自動退職」としているのが一般的)することになる。

 では、「債務の本旨に従った労務の提供」とはどのようなことだろうか。
 かつては、従前の職務を通常の程度に行える、すなわち完全回復が求められていた(浦和地判S40.12.16、千葉地判S60.5.31等)。しかし、(休職制度を争点とした事件ではなかったものの)「現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、‥他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解する」との判決(最一判H10.4.9)が出されて以来、裁判所は、完治していなくても軽微な業務に就かせることの現実的可能性を検討するよう会社に対して求めてきている(大阪地判H11.10.4、大阪地判H20.1.15等)。
 まして、フレックスタイム制やリモートワークを採用できる業務が増えてきた昨今、従前と同じ職務を同じように遂行できないとしても、それをもって労務提供不能と決めつけるのは危険だ。
 もっとも、能力や成果が低下するのであれば、それに見合った処遇とすることは、むしろ当然考えるべきだろう。

 なお、これは、いわゆる「総合職正社員」のケースであって、労働契約において職務内容が限定されているなら、その職務に復せなければ「債務の本旨に従った履行ができない」と判断せざるを得まい。
 とは言え、解雇は労働者の生活の根源を奪うものであるので、極力それを回避するよう配慮するのが望ましいには違いない。


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時間外労働を命じる旨の根拠規定はありますか

2024-02-13 09:59:58 | 労務情報

 労働時間は、原則として1日8時間、1週40時間(法定労働時間)を超えてはならない(労働基準法第32条)。
 では、この時間数を超える労働を命じるにはどうしたらよいか。

 そう問われると、誰でも「時間外労働に関する労使協定」(労働基準法第36条に基づくことから「三六協定」と呼ばれている)の締結を思いつくだろうが、実は、三六協定を締結しただけでは時間外労働を命じる根拠が無い。 すなわち、労働契約(適法に制定された就業規則を含む)において、時間外労働を命じることがある旨を明らかにしておかなければならないのだ。
 この規定が無ければ、そもそも会社は時間外労働を命じる権限を有しないし、従業員は所定の就業時間を超えて労働する義務を負わないことになる。 もちろん、会社から“お願い”して従業員が同意したなら“残業していただく”のは可能だが、それは現実的でないだろう。

 しかし、時間外労働させる旨の根拠規定があり三六協定を締結していたとしても、それでもなお時間外労働を強制できるとは限らないことには注意を要する。
 従業員に身体上もしくは育児・介護等の事情がある場合には本人の意に反して時間外労働を命じられない(労働契約法第5条、育児介護休業法第16条の8・第16条の9・他)し、これらに該当しないとしても、従業員個々の事情を斟酌してもなお上回る時間外労働の必要性・緊急性が問われよう。 また、「今夜の残業でなくて明朝の早出勤務で対処できないか」等の代替策も検討したうえでの判断が必要となる。
 まして、特定の(あるいはすべての)従業員に対して恒常的に時間外労働を命じているのだとしたら、ワーク・ライフ・バランス的にも問題がありそうだ。 そのような状況であったら、業務の配分や効率を考えなおさなければなるまい。

 さて、その一方で、適切な時間外労働命令に対して正当な理由なく残業を拒否した従業員には、何らかの懲戒を科すべきだ。 これを放置したら、職場規律を維持できなくなる可能性があるからだ。
 とは言え、それとて、就業規則等に則った懲戒手続きが必要であるし、「1回の残業拒否をもって懲戒解雇」のような社会通念上相当とは言いがたい処分が許されるわけではない(労働契約法第15条)ので、その点は誤解の無いようにしておきたい。


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執行役員を解任する際の注意点

2024-02-03 08:59:11 | 労務情報

 「執行役員」という機関を設けている会社がある。 これは法令上の用語ではなく(会社法第418条に定める「執行役」と混同されがちだがまったくの別物だ)、言わば「名誉職」的な意味合いの役職と認識しておいても間違いではないだろう。
 一般的に、執行役員は「労働者」であり、労働関係諸法令の適用を受ける。 具体的には、労働基準法による労働者保護規定の対象となり(ただし、通常は同法第41条にいう「管理監督職」に該当し労働時間に関しては適用除外とされる場合が多い)、労災保険・雇用保険に加入することにもなっている。また、労働組合法や労働契約法も適用される。

 一方で、執行役員が労働者扱いされなかったケースとして「業績不振の会社が『執行役員退職慰労金規則』を不利益に変更したこと」を是認した裁判例(最二判H19.11.16)が挙げられることがある。
 しかし、それには疑問符が付く。 というのも、この事件は、従業員として退職(この時に従業員としての退職金を受給)した後に執行役員に就任したことや実態として取締役と同等の処遇を受けていたこと、同規則が代表取締役の決裁で改定される内規であること等も勘案しての“事情判決”であり、「同規則の改定が労働条件の不利益変更(労働契約法第9条に抵触)には当たらないと判じた」と解釈するのには無理があるからだ。

 ところで、執行役員が労働者であることをもって、「執行役員を解任する際には労働基準法および労働契約法の制約を受ける」と主張する識者もいる。
 しかし、それは少し説明不足の誹りを免れえまい。
 会社法は「支配人その他の重要な使用人の選任及び解任」は、取締役会(または清算人会)が決定権限を有する(同法第362条第4項・第399条の13第4項・第489条第6項)としている。 つまり、執行役員は、取締役会(または清算人会)の決定により解任することが可能なのだ。
 ただ、気を付けなければならないのは、執行役員としては解任されても、会社との雇用関係がなくなるわけではないことだ。 その点で、労働基準法および労働契約法の制約を受けるというのは正しい。
 これに関しては、そもそも「執行役員も役職の一つ」と認識するならば、その役職を解くのに(民事上の責任を問われることはあるとしても)法令の制約を受けないのは理解に難くないだろう。 そして、役職を解かれたからと言って即解雇になるわけではないのも、一般労働者と同じと考えればよい。

 もっとも、執行役員解任の理由が労働契約法第16条の求める合理性・相当性を満たすなら労働者としても解雇することが可能だ。 とは言うものの、そのハードルは極めて高いことは承知しておかれたい。


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