6月1日から2026年大卒採用選考が解禁されたとか。
もっとも、既に半数を超える学生が内定を得ているとの調査もある。
ところで、従業員の採用(新卒採用だけでなく中途採用を含む)にあたって、学校の就職課やハローワークや求人サイト等に掲出した募集要項とは異なる労働条件で雇い入れたいこともあるかも知れない。
会社の業績が急に悪化してしまった、応募者の能力や経験が会社の期待するほどではなかったなどの理由で、労働条件を変更(例:賃金額を下げる、短時間労働とする、契約期間を短くする等)したいといったケースだ。
これについては、「求人は労働契約申込みの誘引(ママ)であり、求人票はそのための文書であるから‥本来そのまま最終の契約条項になることを予定するものでない」(東京高判S58.12.19)という裁判例の一部を引いて、「募集要項と異なる労働条件で雇い入れても問題ない」と考える向きもある。
しかし、正しくは「事情によっては条件を変更することが許される」と解釈するべきで、やはり「募集要項と同じ労働条件で雇い入れる」のが原則と言える。
さて、募集要項に記載した労働条件を変更する場合は、その旨を応募者に明示しなければならない(職業安定法第5条の3第3項)。
そして、その明示は、変更が確定したら可能な限り速やかに行いたい。
これに関しては、既に前職を退職した採用内定者が署名押印した労働条件通知書の効力を否認する裁判例(京都地判H29.3.30)が参考になるだろう。 この判決では、「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情の無い限り、雇用契約の内容となる」「当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容に照らして、当該行為が労働者の自由意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべき」としたうえで「本件労働条件通知書に、Xが署名押印した行為は、その自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められない」としている。
また、正しい手続きを踏んだとしても、安易には条件変更するべきではない。
先に挙げた東京高裁の判決も、「いわゆる石油ショックによる経済上の変動により、求人票に記載した条件で雇用できなくなった」という背景を汲んだものであり、「求人者はみだりに求人票記載の見込額を著しく下回る額で賃金を確定すべきでないことは、信義則からみて明らかである」とも明言している。 条件を変更するには、それなりの合理的な理由が必要ということだ。
この話は、よく「小売店のチラシと実売額の相違」に例えられる。
たしかに売買契約はチラシ掲載の価格でなく実際に売り場で提示された価格で成立する。 と言って、チラシと異なるのが当然と考えてはならないし、そういうことが頻繁にあれば、店の信用失墜にもつながりかねない。
なお、そもそも募集要項に虚偽の内容を掲載したら六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処せられる可能性がある(職業安定法第65条第8号・第9号)ことも覚えておきたい。
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