ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

古くて新しい「つながらない権利」

2024-07-13 16:59:12 | 労務情報

 勤務時間外に業務上の連絡を受けないのは、通信手段が限られていた時代は当然のことであった。 また、社外からの電話に対し、在社している者が「〇〇はお休みをいただいております」などと返答するのも、ほんの十年ほど前までは普通に見られた光景だ。
 しかし、携帯電話の普及やメール・SNS等の発展に伴い私生活中に仕事の連絡が入ることが増えたことにより、2010年ごろからフランス・ドイツを中心に「つながらない権利」(=勤務時間外に業務と“つながらない”権利;より強い語調で「アクセス遮断権」と呼ぶ向きもある)が主張されるようになった。

 わが国でも、新型コロナウイルス感染症の流行により在宅ワークが進んだことを契機に、この「つながらない権利」が注目されるようになってきた。
 日本労働組合総連合会(連合)が昨年12月に公表した「“つながらない権利”に関する調査2023」によれば、「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある」と回答したのが72.4%(コロナ禍前より8.2ポイント上昇)、「勤務時間外に取引先から業務上の連絡がくることがある」と回答したのも44.2%に上っていて、連合もこれを問題視している。
  【参考】日本労働組合総連合会「“つながらない権利”に関する調査2023」

 そもそも、勤務時間外に業務上の連絡を入れて対応させたなら、それは「労働時間」に他ならない。 しかも、日ごろより「連絡があったら対応せよ」と指示しているのであれば、連絡を待っている時間すべてが「手待ち時間(=労働時間)」ということになる。

 なので、社内(部下・同僚・上司)に関しては、当人が勤務時間外であることを承知しているはずなのだから、連絡しないことを徹底させたい。
 もちろん、どうしても連絡を取らなければならない事態も起こりうるだろうが、それは突発かつ緊急の例外事象と認識しておくべきだ。

 さて、これが社外(取引先・行政機関等)からの連絡となると、どう対処すべきか悩ましいところだ。
 担当者の勤務時間外に入ったメールは受信せずに削除するシステムを導入している企業(特に外資系)もあるが、社外からの連絡まで一切拒否するのは、少なくとも日本人の感覚にはなじまないだろう。 ただ、受信するけれども「対応には時間(日数)をいただきたい」旨のメッセージを自動返信することぐらいは検討してもよいのではなかろうか。

 会社によっては、かなりの意識改革が必要になるかも知れないが、オン・オフの境界を明確にすることは生産性の向上につながり、また、担当者不在時のカバー体制を構築するのにも寄与しうる。
 「つながらない権利」は、厚生労働省に設置された労働基準関係法制研究会でも議論の俎上に載っているので、これを踏まえた対応を各企業で考えたい。
  【参考】厚生労働省「労働基準関係法制研究会(第5回)資料No.3」(P.10)


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リスキリングとアンラーニングは相容れないものではない

2024-07-03 07:59:38 | 労務情報

 これまで日本企業における従業員の人材育成は、OJTに代表される「アップスキリング」(up-skilling)に重点が置かれていた。 しかし、近年の急激なデジタル化の進行等により、これでは不充分(場合によっては不適切)になりつつある。
 そこで提唱されているのが、「リスキリング」(re-skilling;「リ・スキリング」とも表記されるが本稿では「リスキリング」で統一する)や「アンラーニング」(un-learning)といった“学び直し”の機会だ。

 まず、リスキリングは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応して価値を創造し続けるために、必要なスキルを獲得する/させること」(厚生労働省労働政策審議会労働政策基本部会資料「リスキリングをめぐる内外の状況について」より)と定義される。 つまり、「リスキリング=DX教育」ととらえる向きも多いが、そう決めつけることはなく、例えば、GX(グリーントランスフォーメーション)への対応もリスキリングの方向性の一つと言える。
 そして、企業がこれを進めることで、現下の社会変容にも自社の新規事業展開や将来的な業態変更にも適応できるようになることが期待される。経済産業省や厚生労働省も、これへの支援策を打ち出している。
  【参考1】経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
  【参考2】厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」

 一方のアンラーニングは、直訳して「学習棄却」、または意訳して「学びほぐし」とも呼ばれ、これまで学んできた知識や身につけた技術を一旦捨てることをいう。 もっとも、そこには当然、取捨選択(その過程が業務の見直しにもつながる)が必要であり、また、リラーニング(re-learning)ともセットで考えなければならない概念だ。
 アンラーニングは、従業員に自己否定感をもたらしディモチベーションともなりかねないリスクを伴うものの、(やり方次第ではあるが)従業員の意識変革を促し、組織の若返りも図れるという大きなメリットがある。

 誤解されがちだが、リスキリングとアンラーニングは対立概念ではない。
 リスキリングは新たな分野における知識や技能を身に付けるのに対し、アンラーニングは同じ分野における新しい価値観や枠組みを身に付けるものであって、相容れないものではないし、リスキリングの前提としてアンラーニングが必要になるケースもあるだろう。

 これからは、リスキリングとアンラーニングと、さらにはリカレント教育(職場を離れて大学院等で学び直す)や従来型のアップスキリングや自己啓発推進制度等も上手に組み合わせて、新しい時代に対応できる従業員を育成することが企業に求められよう。


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労働条件の不利益変更に係る個別合意が無効とされないためには

2024-06-24 08:52:26 | 労務情報

 労働条件を労働者にとって不利益に変更するには、該当する従業員全員と個別に合意を交わす方法(労働契約法第8条)と就業規則を変更する方法(同第9条・第10条)とがある。
 これらのうち後者は会社が一方的に決めることができるためトラブルになりやすいのは想像に難くないが、前者であってもその合意の効力が争われることがある。

 裁判所は、「労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである」(最二判S.48.1.19、最二判H.2.11.26、最二判S.28.2.19等)との立場に立つ。
 具体的には、次のような観点をもって、その同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたもの」と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かを判断される。
  (1) その労働条件変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度
  (2) 労働者により同意がされるに至った経緯及びその態様
  (3) 同意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等

 これを踏まえて考えれば、
  (1)に関して…
   他の条件を引き上げて不利益を軽減する、激変緩和措置を設ける、実施までの猶予を置く、期間限定とする
  (2)に関して…
   会社が倒産の危機に瀕している、役員報酬を減額している、同業他社やグループ企業の相場や慣習に合わせている
  (3)に関して…
   複数回にわたり丁寧に説明した、裏付け資料を用いて説明した
といったケース(例示)であれば、個別合意に基づく不利益変更の合理性が高まると言えそうだ。
 逆に、安直に「同意書」を提出させただけでは、その合意が否認される可能性が高いと認識しておくべきだろう。

 一般に、労働条件の不利益変更に際して個別合意を交わしておくとトラブルになりにくいとは言われるが、それでもトラブルにならないわけではない。
 経営者は、労働者に誠意をもって説明し、形式ではなく、本当に納得して合意してもらえるように努めなければならない。


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退職代行への会社としての対処

2024-06-13 08:59:54 | 労務情報

 自社の従業員が退職代行業者(本人に代わって退職の意思表示や退職手続きをしてくれる業者;労働組合や弁護士であるケースも含む)を利用して退職しようとした際、会社はどう対処したらよいだろうか。

 まず、経営者としては、この段階まで来たら、その退職を引き留めることはできないと認識しなければなるまい。
 そもそも退職すること自体が本人の自由であるのだし、加えて、退職代行業者を利用するのは、「会社が退職させてくれない」「職場でハラスメントを受けている」等の事情があるからであって、つまるところ「会社が信用できない」との意思表示とも言えるからだ。
 ただし、当該従業員に関して懲戒解雇に該当する事由が生じている場合は、自己都合での退職を認めるべきではないので、それだけは気を付けたい。

 そして、本人に連絡が取れるなら直接、本人が会社からの接触を拒否しているなら当該退職代行業者を介して、本人自筆の退職届(「退職“願”」はこのケースではそぐわない)を提出させる。 同僚や家族が本人になりすまして退職代行業者に依頼していることも考えられないではないので、必ず本人の意思を確認し、書面で残しておくべきだ。

 退職届が提出されたなら、後は、通常の退職手続きを淡々と進めるだけだ。
 有給休暇の消化を要求されたなら退職日までの間で取らせ、健康保険証や会社からの貸与物等を返還させ、失業給付を受ける予定の者には離職票交付を手配する。 最後の給与や退職金の支払い等も通常の退職者と同様に取り扱う。
 ちなみに、退職代行業者を利用したことは、こうした手続き面で不利益に取り扱うべき理由にはなりえない。 業務引継ぎに支障があった(実際そうなるケースが大多数と思われる)等により会社が現実に損害を被った場合はその賠償を請求することが可能だが、その場合でも、損害額を給与や退職金から勝手に控除することは許されない。

 その一方で、当該従業員が退職する意思を固めた理由や、それを会社に直接示さなかった(示せなかった)ことについて、社内でしっかり検証するべきだ。
 事情によっては、退職者から訴訟を提起されることも想定しておかなければならないだろう。また、上司の評価や処遇を見直したり、職場全体の悪習を洗い出したりする必要があるかもしれない。

 会社としては退職代行業者を利用されたことへの不快感はあろうが、どちらかと言えば非は会社にある(ことが多い)のだから、むしろ猛省を促したいところだ。


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パートタイマーにも慶弔休暇を

2024-06-03 12:59:55 | 労務情報

 従業員に祝い事や不幸があったときにその日を休んでよいこととする「慶弔休暇」の制度を設けている会社は多いが、それを無給とするか有給とするかは、会社によって分かれているようだ。

 そもそも慶弔休暇は法令で義務づけられたものではない。
 労働基準法に定める年次有給休暇(第39条)、産前産後休業(第65条)、生理休暇(第68条)、公民権行使の時間(第7条)、育児介護休業法に定める育児休業(第5条)、介護休業(第11条)、子の看護休暇(第16条の2)、介護休暇(第16条の5)といった「法定休暇」とは異なり、慶弔休暇を設けなければならないわけではなく、また、その不就労の日数について「ノーワークノーペイの原則」に則り賃金を支払わないこととするのも、法令上まったく問題ないのだ。

 これに関しては、厚生労働省が示している「モデル就業規則」にも、
   第43条(抄) 慶弔休暇の期間は、無給 / 通常の賃金を支払うこと とする。
と書いてあり、会社が任意で設定できる形になっている。

 ところで、まれに「無給とするなら“欠勤”と変わらないのではないか」との疑問を抱く向きもあるが、その日は就労を免除するのだから、就労するべき日に就労しない欠勤とは性格が違う。 慶弔休暇を利用したことをもって評価してはならないし、年次有給休暇付与の際に用いる出勤率の算定においても分母(労働日)に含めない。

 しかし、これらを踏まえても、一般的には、慶弔休暇は有給とするのが望ましいと言われる。
 というのも、賃金を支払わないこととしては、会社が慶弔休暇の制度を設けた趣旨(おそらく会社からの祝福・弔慰等の意が込められていたであろう)に反してしまうからだ。

 ただ、慶弔休暇を有給とした場合、それは、いわゆる正社員だけでなく、パートタイマーや短期雇用社員も適用対象となることには注意したい。
 『同一労働同一賃金ガイドライン』(厚生労働省告示第430号)には、「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の慶弔休暇の付与並びに健康診断に伴う勤務免除及び有給の保障を行わなければならない。」と明記されている。
 だからと言って、そのこと(だけ)を理由に「正社員の慶弔休暇を廃止する」というのは、本末転倒であるし、明らかな不利益変更でもあるので、そのような短絡的な考えは慎みたい。


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昼休みに電話を受けさせたら労基法違反?

2024-05-23 08:59:55 | 労務情報

 昼休みに社外から電話が掛かってきたときに、その電話を受けることを義務づけている会社は少なくない。 この場合、「労働時間に算入するのは実際に電話対応していた時間だけ」と誤解している労務担当者も散見されるので、ここで再確認しておきたい。

 実は、こうしたケースにおいては…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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勤務間インターバルの導入を検討したい

2024-05-13 08:23:44 | 労務情報

 「勤務間インターバル」とは、終業時刻から次の始業時刻までの間に一定の休息時間を設けるもので、労働時間等設定改善法第2条第1項が「事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、‥講ずるように努めなければならない」と定める措置の一つだ。
 また、「時間外・休日労働に関する労使協定」(いわゆる「三六協定」)において、特別条項により限度時間を超えて労働させる場合に講じるべき「健康福祉確保措置」としても選択肢に含まれている。

 具体的な終業から始業までのインターバル時間は、法令やガイドラインに明記されてはいないが、後述する助成金の関係から「9時間以上」または「11時間以上」としている会社が多い印象だ。
 ちなみに、EU(ヨーロッパ連合)労働時間指令(1993年制定、2000年改正)は、「24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与」としている。

 さて、勤務間インターバルを導入すると、次のようなメリットがあるとされる。
  1,休息時間(=睡眠時間)が確保できることで、生産性が向上し事故が減る
  2.従業員のワークライフバランスを実現できる
  3.多様な働き方に対応でき、従業員の定着やリクルート面での訴求に効果がある
  4.「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」の対象となりうる
   ※「中小事業主」・「月45時間を超える時間外労働の実態がある」等の要件あり

 一方で、次のような懸念から勤務間インターバルの導入に二の足を踏む会社も多い。
  1.始業を遅らせることで事業に支障が出る可能性がある(カバー体制確立の必要性)
  2.朝礼や定時ミーティングの実施が難しくなる(働き方の固定観念払拭の必要性)
  3.不就労時間に対して賃金を支払うこととするとコストアップと不公平感を生む
   ※始業が遅くなっても定時出社したものとして取り扱う場合(そうする例が多い)

 もちろん、これは“努力義務”であって“義務”ではないので、導入するか否かは会社ごとの事情によるが、勤務間インターバルは、長時間労働対策として、労働時間をただ減らすものとは異なり、会社にとって取り組みやすい方策の一つと言える。 実際、厚生労働省が今年1月23日に公表した「労働時間制度等に関するアンケート調査結果について(速報値)」(P.10)によれば、半数近くの会社が何らかの形で勤務間インターバルを導入しているようだ。
 未導入の会社は、労働環境改善の一策として検討してみてはどうだろうか。


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定年制を廃止することのメリットとデメリット

2024-05-03 09:59:56 | 労務情報

 ネット上に「2025年に65歳定年が義務化される」と書いている記事を見掛けることがあるが、これは誤り(もしくはミスリーディング)であることを、まず指摘しておきたい。
 高年齢者雇用安定法は、その第8条で「定年の定めをする場合には当該定年は60歳を下回ることができない」と定めており、これは来年になっても変わらない。ただ、同法第9条第1項第2号の「65歳までの継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)」については、平成25年4月1日時点において継続雇用制度の適用基準に関する労使協定が締結されていた場合はその基準に則って対象者を選定することが可能であるところ、その経過措置が令和7年3月31日で終了するということなのだ。(同法附則(平成24年9月5日法律第78号)第3項)

 ちなみに、令和3年4月1日に改正施行された同法第10条の2では、70歳までの就業を確保することを事業主の努力義務としている。

 さて、こうした情勢を踏まえて、定年延長を検討している会社も多いと思われるが、中には、定年制そのものを廃止すること(文字通りの「終身雇用」)も選択肢に入れている会社もあるだろう。 経済協力開発機構(OECD)が1月11日に公表した『対日経済審査2024』でも、日本企業における定年制の廃止について言及している。

 では、定年制を廃止することにはどのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。 以下に整理してみる。

【定年制廃止のメリット】
  1.雇用が確保できる(OECDはこれを提言している)
  2.従業員の知識・ノウハウを活用できる
  3.採用や教育に係るコストを削減できる
  4.従業員が安心して働き続けられる

【定年制廃止のデメリット】
  1.能力の衰えた者でも雇い続けなければならない
   (状況次第では解雇や退職勧奨も可能だが「事業主都合での離職」として扱われる)
  2.人件費(賃金・退職金等)が増大する
   (これを解決しようとすると「労働条件の不利益変更」になる可能性がある)
  3.人事が硬直化し、若手従業員のモチベーションが低下する
   (一方で高年齢従業員のモチベーション維持も考えなければならない)

 何事にもメリットとデメリットはあるものだが、こと「定年制」は、日本の雇用慣行として根付いてきたものなので、廃止するにしても熟考を重ねたうえで判断するべきだろう。


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社内資格制度・社内検定制度の導入について

2024-04-23 08:59:05 | 労務情報

 業務の標準化・可視化(みえる化)のためにマニュアルを整備している会社は多いが、その歩をさらに進めて、「社内資格制度」や「社内検定制度」(後述する厚生労働大臣による認定制度を踏まえて、本稿では「社内検定制度」の用語で統一することとする)の導入を、(制度未導入の会社は)検討してみてはいかがだろうか。

 社内検定制度を設けることには、次のようなメリットがあるとされる。
  1.知識・技能・ノウハウの蓄積や横展開に効果がある
  2.従業員の能力開発が促進される
  3.目標設定に活用すること等によりモチベーションアップにつながる
  4.有資格者を優遇することで能力の高い従業員の定着が図れる
  5.“会社が求める人材像”を示せる
 そして、業務の標準化・可視化や新人教育に用いることで生産性の向上に寄与することは、そもそもマニュアル整備の目的であったが、それが一層高まることが期待できる。

 さらには、策定した社内検定制度について、厚生労働大臣の認定を受けることも視野に入れておくのもよいだろう。
 これは、「社内検定認定制度」と称され、職業能力開発促進法施行規則第71条の2第1項に基づき、「事業主等がその雇用する労働者等の技能と地位の向上に資することを目的に労働者が有する職業に必要な知識・技能についてその程度を自ら検定する事業のうち、一定の基準に適合し技能振興上奨励すべきもの」を、厚生労働大臣が認定するものだ。
 この認定を受けると、厚生労働省のホームページに公示され、会社は所定のロゴマークを用いてその旨を社内外に公表することができる。それによって、上述諸点に加えて次のようなメリットも生じる。
  6.社内の技能評価への権威づけができる
  7.他社との差別化が図れ、顧客からの評価が上がる
  8.広報効果・企業ブランドが向上する

 ちなみに、社内検定認定制度は昭和60年に創設され(旧労働省職業能力開発局長通達昭和59年12月24日能発第112号)、令和6年1月23日現在、45事業主(114業種)が認定されている。

 もっとも、会社が社内検定制度を設けるのは「人材への投資」のためであって、厚生労働大臣の認定は“副産物”であるはずだ。 その点、本末転倒の無いように気を付けたい。


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「マミートラック」は本来ネガティブな用語ではない

2024-04-13 12:47:53 | 労務情報

 育児と仕事とを両立させることは、個々の労働者はもとより社会全体にとっても重要であって、企業もそれに協力するべきであることは誰しも理解できているだろう。
 しかし、それが理解できている会社(経営者・人事担当者)であっても、ともすれば、会社が両立のための人事制度を用意して出産(または妊娠)した女性従業員をその路線に載せればそれで満足してしまいがちだ。

 ところで、「マミートラック」という言葉がある。
 アメリカのNPOが1988年に子育て中の女性のため労働時間や業務量に配慮した人事制度(育児休業やワークシェアリング等)の整備を提唱し、これを取り上げたジャーナリストが「マミートラック(mommy track)」と称したのが発端とされている。
 すなわち、マミートラックとは、「キャリアトラック(career track)」あるいは「ファストトラック(fast track)」と呼ばれるものとは異なる“別路線”を意味し、言わば「単線型人事から複線型人事への移行」であって、元来は歓迎されるべきものであった。

 ところが、今日の日本において「マミートラック」は、ネガティブな文脈で使われることが多くなっている。 育児と仕事とを両立させるための人事制度を選択すると、「責任ある職務に就けない」・「仕事にやりがいが持てなくなる」・「給与が下がる」といったデメリットがあり、それら弊害のことを「マミートラック」と呼ぶ風潮がある。 中には「マミートラックが生じてしまう」という誤用すら見受けられる。
 まして、会社が出産(または妊娠)した女性従業員に対し当然のように両立制度の利用を勧める(マミートラックに載せようとする)のは、男女雇用機会均等法第11条の3や育児介護休業法第25条に違反する行為(一般的には「マタニティハラスメント」と呼ぶのが通じやすいかもしれない)となる。 これでは、せっかく導入した両立制度が台無しだ。

 本来のマミートラックには、「自身への負担が減る」だけでなく「同僚への負担も減る」ことから「罪悪感なく職場にいられる」というメリットがある。 会社はそれをきちんと説明して、あくまで本人の意思でどうするかを選択させるべきだ。 さらに言えば、女性従業員だけでなく、配偶者の出産を控えた男性従業員にも同様に説明して希望を尋ねるべきだろう。

 多様な働き方が求められる今こそ、「マミートラック」について、用語本来の意味とそのメリット・デメリットを正しく理解し、労働者それぞれの生活に合わせて両立制度が選択できるよう、経営者の意識改革を進めたい。


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