ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

“悪ふざけ動画”をSNSに投稿した従業員を懲戒できるか

2019-05-23 16:59:04 | 労務情報

 今年の春先、牛丼チェーンや回転寿司チェーンのアルバイト従業員がSNSに投稿した“わるふざけ動画”が拡散して、大騒ぎになった。 結局、問題となった牛丼チェーン・回転寿司チェーンとも、「当該従業員を退職処分にした」旨を公表し、事態の収拾を図ることとした。
 いずれも「退職処分」という表現であり、「懲戒解雇」とも明言していないことから、おそらく「諭旨解雇」もしくは「退職勧奨」、あるいは有期雇用であれば「出勤停止と契約更新拒否の“併せ技”」であったと推測される。

 ところで、今回ほどまで企業イメージを損ねた場合には「懲戒やむなし」と判断されそうに思えるが、類似のケースにおいて従業員を懲戒することが、必ず労働契約法第15条の求める「合理性」と「相当性」をクリアできるか、と考えると、そうとは限らない。

 具体的に言うと、次のような場合には、懲戒が無効とされる可能性があるので、懲戒処分はこれらの背景を確認したうえで慎重に行いたい。

1.就業規則に懲戒の規定が無い。またはその内容を従業員に周知していない。
 ※ 特にアルバイト従業員には、就業規則の内容を説明していないことが多々見受けられる。 周知されていないルールは、ルールとして存在しないのと同義だ。

2.懲戒処分を科すための手続き(特に「弁明の機会の付与」)を適切に踏んでいない。
 ※ 事実と背景を正しく把握しなければ適切な処分は下せない。 また、真相究明と再発防止のためにも、本人の弁明を聴いておくべきだ。 例外も無いわけではないが、多くの裁判所が「弁明の機会が与えられない懲戒処分は懲戒権の濫用として無効」(福島地会津支判S52.9.14、東京地判H8.7.26等)との立場を取っていることは承知しておきたい。

3.行為と処分とのバランスが合っていない。
 ※ 特に「懲戒解雇」は、雇用関係を完全に絶ってしまう最終手段であるので、より軽い処分(「減給」や「出勤停止」等)で済ませられないかを検討する必要がある。 そのうえで、当該従業員を排除する以外に方法が無い場合に初めて許される、と解するべきだろう。

4.会社の教育が不充分であった。
 ※ 就業中の私的動画撮影の禁止や食材の扱い方をはじめとする就業態度について、また、顧客情報の守秘義務等についても、適切な教育を施していたのか、会社の体制も問われる。

 なお、以上は、社内での懲戒処分に合理性・相当性が認められるかの判断材料であって、現に会社の被った損害額については、懲戒処分の有無にかかわらず本人に賠償を求めることができるとされる。
 もっとも、懲戒したり、損害賠償させたりすることよりも、こうした事件が起こらないようにすることこそが肝要なのは、言うまでもない。


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固定残業代に関する裁判所の判断が甘くなってきた?

2019-05-13 15:59:04 | 労務情報

 残業代は、実際に残業した時間数に応じて支払うのが原則ではあるが、会社によっては、予め一定額の残業代を支払うこととしておくケースがある。
 この制度は、一般的に「固定残業代」または「定額残業代」と呼ばれ、特に毎月恒常的に一定量の残業が発生するような業態において導入されることが多い。 「営業手当」や「管理職手当」を残業代とみなすのも、これの一種だ。

 ところで、この固定残業代を採用している会社で、従業員や退職者から「残業代を支払われていない」として争いになる事案が多発している。
 こうした訴訟において裁判所は、次の要件を満たす場合に会社側の言い分を認め、固定残業代を肯定している。
  (1) 「所定労働時間分の賃金」と「残業代相当額」とを明確に区分している
  (2) その内容を労働者に説明している
  (3) 見込んでいた時間数を超過した残業については超過分の残業代を支払う
  (最二判H6.6.13、最一判H24.3.8、最二判H29.7.7、最一判H30.7.19等)

 かつては、
  (4) 見込まれる残業時間(法定時間を超える部分)は「時間外労働に係る労使協定(いわゆる『三六協定』)」に定められた時間数以内
  (5) 見込まれる残業時間も明示している(例:「残業○時間分として○万円」)
  (6) 超過分を清算する旨を就業規則・雇用契約書等に記載している
といったことまで含めて判断されることが多かったが、昨今の裁判例を見ると、(1)~(3)のみを検討している印象を受ける。

 とは言え、まだ(4)~(6)も必要と説く識者(大学教授・弁護士・社労士等)もいるし、そもそも事案の事情や背景が変われば裁判所の判断も変わるのだから、これをもって「裁判所が会社側に甘くなってきた」と見るべきではないだろう。

 固定残業代を採用しても、会社は従業員個々の労働時間を適正に把握しなければならないので事務量が軽減できるわけではない。 また、残業が少なかった月にも固定額を支払わなければならないことは会社にとって大きなデメリットと言える。
 その一方で、固定残業代制度には、①労働者の固定収入が増え、生活が安定する、②残業を抑制しようとする心理が働くため、直接的には生産性向上への、間接的にはワークライフバランスへの寄与が期待される、③会社にとってはリクルーティングの好材料になりうる等々、メリットも多数ある。
 固定残業代制度を導入する場合は、こういったことをしっかり認識したうえで、正しく活用したいものだ。


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職務上の発明が会社に帰属する旨を定めてありますか

2019-05-03 11:59:04 | 労務情報

 業種によっては従業員が会社の職務を行う中で発明をすることがあろうが、その場合の「特許を受ける権利」は誰が有することになっているか、自社の規程を再確認しておかれることをお勧めしたい。
 というのも、平成27年に改正された特許法の第35条第3項では、職務発明について会社が予め特許を受ける権利を取得することを定めていれば、その発生した時から会社に帰属する(原始使用者等帰属)とされているからだ。ただし、当該発明者(従業員)が「相当の利益」を受ける権利を有する(同第4項)ことは、併せて承知しておかなければならない。

 具体的には、例えば、就業規則に「職務発明については、その発明が完成した時に、会社は発明者から特許を受ける権利を取得する。」のような規定を置き、加えて、「相当の利益」に関しても明文規定を設けておくとよいだろう。
 なお、「相当の利益」の内容を決定するための基準の策定に際しては、「労使間の協議の状況」、「策定された基準の開示の状況」、「従業員からの意見の聴取の状況」等を考慮して、不合理なものであってはならない(同第5項)が、これは、必ずしも“労使の合意”に基づくことまで求めるものではない。

 ところで、この法改正より前は、特許を受ける権利は発明者(従業員)が有するのが基本原則であり、一定の要件の下に会社が譲り受けることが可能とされていた。その名残か、「従業員は職務発明を行ったときは、会社に速やかに届け出るものとする。」というような規定が今も生きている会社を見掛けることがある。
 しかし、これでは、特許を受ける権利を会社が自動的に取得することにはならず、従業員からの届け出を“待つ”しかない。
 もちろん「従業員が自主的に譲渡してくれるのに期待する」という考え方もあるにはあるが、その職務を命じたのは会社であり、それが失敗した場合のリスクは会社が負うことを鑑みれば、成功した場合には会社がその利益を享受しうることにしておくのが、合理的ではなかろうか。
 そして、功労のあった従業員には充分な対価を支払い、それをインセンティブとして位置づけるのが、モティベーションとロイヤリティの向上のために有効と言えるだろう。


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