ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

図らずも“偽装請負”となってしまわないように

2022-07-23 11:59:11 | 労務情報
 社内で他社の労働者を(形式上)「業務委託(請負契約)」で働かせている場合でも、実態としては、違法な「労働者派遣」に該当してしまうケースがある。 この状態を「偽装請負」と呼び、平成18年ごろ話題となった。
 この話はたまたま日本を代表するような企業だったので新聞に大きく取り上げられたのだが、似たような事例は、会社の規模や業種を問わず日本中で見受けられるのも事実だ。
 しかも、当事者には「違法」との認識が無い場合も多い。 特に“アウトソーシング先の業者が同じオフィス内で作業している形態”に、その危険性が高まるので注意したい。

 「業務委託(請負契約)」にならない(すなわち「偽装請負」になる)かどうか、主なチェックポイントを以下に挙げてみる。

(1) 受託業者が本来行うべき人事管理(配置する担当者の人数、担当者が欠勤する場合の措置、担当者の考課etc.)について、委託した側が決めていないか。
(2) 委託した業務が早く終わった場合には委託料が減り、逆に遅くまで時間が掛かった場合に加算されるという取り決めになっていないか。
(3) 旅費等が必要な場合にその都度支払う仕組になっていないか。
(4) オフィス内の設備・機器・材料を無償で提供していないか。(ただし、高度な技術・専門性をもって使用している場合を除く)

 他にも種々挙げられるが、つまりは「“業務の委託”なのであって“労務の提供”でない」という概念で一貫していることを理解しておきたい。

 故意に偽装請負を行うのは論外として、図らずも偽装請負の片棒を担いでしまって予期せぬ行政からの指導を受けてもつまらない。
 「業務委託」と「労働者派遣」とを明確に理解し、適正に使い分けたいものだ。


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平均勤続年数に関する誤解

2022-07-13 06:59:34 | 労務情報

 厚生労働省が公表した「令和3年賃金構造基本統計調査」によれば、全調査対象企業の「平均勤続年数」は「12.3年」(第2表;男女計)となっている。
 ところで、「平均勤続年数」の意味を誤解している向きもあるようなので確認しておくが、これは、字のとおり「勤続年数の平均」のことだ。 決して、「退職者が在籍していた期間の平均」(すなわち「概ねこの年数経つと離職する」という意味)ではない。
 極端な例を挙げれば、新入社員が勤続0年であり、定年間際の社員が勤続45年とすれば、その単純平均を求めれば、平均勤続年数は「22.5年」となる。

 これを踏まえれば、平均勤続年数が長い(例えば20年以上の)会社というのは、
(a) 毎年同数の新卒定期採用をしているなら、そのほとんどが定年まで勤め上げる
(b) 近年の社員の採用数が減っている
のどちらかである可能性が高い。
 前者であれば「超優良企業」と言えるが、後者であれば「(社員の採用数だけでは論じられないものの)要注意企業」と言えそうだ。
 一方で、平均勤続年数が短い場合でも、創業して間もない会社や新卒採用よりも中途採用に力を入れている会社は平均勤続年数が短くなる傾向にあるので、「平均勤続年数が短い=社員が定着しない」とも言い切れない。

 また、男女で平均勤続年数が大きく異なる会社についても、一般的には「女性の平均勤続年数が男性のそれを大きく下回る会社は女性の定着率が低い」と見られがちだし、事実、そうであるケースも多いが、必ずしもそうとは限らない。
 もしかしたら「男性ばかりだった会社が最近になって女性を採用するようになった」のかも知れないので、これも先入観で判断してしまうのは危険だ。

 すべてのデータの見方に共通するが、単に数字だけを見て「長い」とか「短い」とか直感で判断するのでなく、その意味や背景事情も考えて論じる必要がある。
 冒頭に紹介した厚生労働省の統計も、それを踏まえて正しく活用したい。


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賃金債権の消滅時効とその更新・完成猶予

2022-07-03 16:59:19 | 労務情報

 従業員(または従業員であった者)から未払いとなっている賃金(多くのケースで残業代)の支払いを請求された場合、何年前の分までは支払わなければならないのだろうか。 言い換えれば、会社が債権の消滅時効を援用できるのは、いつ以前の分なのか。

 令和2年4月1日に改正施行された民法第166条第1項は、債権の消滅時効について「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」(第1号の定め;第2号は賃金債権にはなじまないので割愛)としているが、特別法である労働基準法は「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間(中略)行わない場合においては、時効によって消滅する」(同法第115条を第143条第3項により読み替え)と、民法と異なる定めを置いている。
 これをそのまま読めば、賃金債権の消滅時効は3年間ということになるが、同法附則(令和2年3月31日法律13号)第2条第2項に「施行日前に支払期日が到来した同法の規定による賃金の請求権の時効については、なお従前の例による」とあることには注意したい。
 すなわち、令和2年3月31日以前に支払うべきであった賃金については2年間(令和4年7月現在すでに時効完成)、令和2年4月1日以降に支払うべきであった賃金については3年間で消滅時効を迎えることになる。

 加えて、次のような場合には、時効が更新され、または時効の完成が猶予されることも注意を要する。
  1.会社が未払い賃金の存在を承認した場合(民法第152条)
  2.民事訴訟の提起や支払督促等がなされた場合(同第147条)
  3.催告(内容証明郵便等による請求)がなされた場合(同第150条)
  4.協議を行う旨の合意が書面や電磁的記録によってされた場合(同第151条)
 さらには、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づく『あっせん』が打ち切られた場合に、その旨の通知を受けた日から30日以内に訴えを提起したときは、『あっせん』の申請の時に訴えの提起があったものとみなす」(同法第16条)、「労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは、当該労働審判手続の申立ての時に訴えの提起があったものとみなす」(労働審判法第16条)といった“裁判外紛争解決手続き(ADR)”においても、実質的に時効完成が猶予されることも覚えておきたい。

 もっとも、請求する側は消滅時効を考慮する必要はないし、また、請求された側も消滅時効を援用しなければならないこともない。
 とは言うものの、経営上、泥仕合に発展させるのが得策でないと考えるなら、消滅時効に係る分も含めた請求内容すべてを認諾してしまうのも悪くはないだろう。


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