ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

業務上災害と第三者行為

2019-07-23 18:19:15 | 労務情報

 業務上災害が発生した場合、被災した労働者は、労災保険による補償を受けられる(労災保険は強制適用であるので労災保険未加入のケースはここでは考えない)が、それが本人の不注意等によるものでなく、第三者の行為による災害(言い換えれば「加害者の存在する事故」)であった場合には、管轄労働基準監督署に『第三者行為災害届』を提出しなければならない。
 その場合、国は、その加害者に対する損害賠償請求権を取得し(労働者災害補償保険法第12条の4第1項)、先に加害者から損害賠償を受けている場合には、その価額の限度で保険給付をしないことができる(同法同条第2項)こととなっている。

 これに関して、まれに、「加害者から損害賠償を受けたら労災保険給付を請求する必要が無い」とする向きも見受けられる。
 確かに、労災保険の手続きをしたところで、給付されるものは(当面は)無く、手続きに費やす手間が無駄に思えるかも知れない。
 しかし、その事故によって、障害が残ったり、最悪は死に到ったりした場合、そこまでの損害すべてについては加害者が賠償してくれないことも、想像に難くない。

 もちろん、そうなってから労災保険の障害補償給付や遺族補償給付を請求することは可能なのだが、時の経過とともに、業務起因性・業務遂行性の証明が難しくなるおそれがある。
 逆に、事故発生直後に労災保険の給付請求手続きを済ませておけば、被災労働者本人(死亡の場合は遺族)は取り敢えず国から補償を受けられ、加害者への請求については、その過失割合の計算も含めて国に預けてしまえる。
 また、加害者が職場の同僚であった場合、使用者責任に基づいて事業主が補償するべきところを「使用者による災害補償義務を填補する」という労災保険の目的に鑑みて、国は求償を差し控えることとされている。そういった判断も、国に任せてしまえば、被災労働者(または遺族)も、あるいは加害者や事業主にとってさえ、心理的な負担が軽く済む。

 加えて言えば、労働者が業務上災害により休業または死亡した場合は、それが第三者行為によるものであるか否かを問わず、会社は管轄労働基準監督署へ『労働者死傷病報告』を提出しなければならない(労働安全衛生規則第97条)ところ、労災保険の給付請求手続きを省くと、これを失念し、いわゆる「労災隠し」になってしまう心配もある。

 これらのことから、第三者行為による業務上災害であっても、労災保険の給付請求はしておくべきと言えるだろう。

 なお、従業員が職場内で負傷したとしても、例えば、私怨による喧嘩や業務に無関係な疾病等によるものは、業務に起因せず、業務遂行による事故ではないので、そもそも業務上災害ではない。そういった点も誤解の無いように頭に入れておきたい。


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コンビニオーナーは労働者か?

2019-07-13 21:29:06 | 労務情報

 7月11日は「某コンビニエンスストアの日」だとか。今年の7月11日(木)には、そのコンビニチェーン本社前で、フランチャイズ店オーナーらが抗議活動をしたそうだ。

 今春3月15日に、中央労働委員会が、フランチャイズ契約に基づいてコンビニエンスストアを経営する“店長”について、「労働組合法上の労働者には当たらない」との判断を示したのは、記憶に新しいところだ。
 これは、コンビニオーナーで組織する労働組合が大手フランチャイザー2社に対して求めた団体交渉を会社が拒んだことが、団体交渉拒否(労働組合法第7条第2号で「不当労働行為」とされている)に該当するかどうかについて争われたものだ。初審(岡山地労委・東京地労委)はいずれも会社に対して団体交渉に応じるよう命じたが、会社がこれを不服として、中労委に再審査を申し立てていた。
 中労委は、この問題を、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③報酬の労務対価性、④顕著な事業者性の4側面から検討し、「本件加盟者(コンビニオーナー)は労働組合法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者として‥労働組合法上の労働者に当たると評価することはできない。」、「(このことからすれば)会社が組合の団体交渉申し入れに応じなかったことは‥団体交渉拒否には当たらない。」と結論づけた。

 よく誤解されるが、これは、中労委の、言ってみれば“行政機関”としての判断である。少なくとも外見上は「個人事業主」であるコンビニオーナーが自らの意思で交わしたフランチャイズ契約を覆すに足る法的根拠が見当たらなかったという意味でしかない。
 組合側も、これは想定内であったようで、次の段階として、訴訟に移行する準備がある旨を早速表明している。

 となると、“司法”がどう判断するか気になるところだが、類似の裁判例としては、INAXメンテナンス事件・新国立劇場事件(いずれも最三判H23.4.12)が挙げられよう。
 前者は住宅設備機器メーカーから修理補修業務を請け負っていたカスタマーエンジニアが、後者は劇場と上演契約していたオペラ歌手が、それぞれ労働組合法上の労働者に当たるとして会社は団体交渉に応じるべきとされたものだ。
 これらの最高裁判決は、コンビニオーナー側に有利な材料となりそうだが、一方で、カスタマーエンジニアやオペラ歌手は労働者を雇っていなかったという点において、自身が労働者を雇う立場にもあるコンビニオーナーとは異なることは、裁判所も考慮するだろう。

 また、これも誤解されやすいのだが、争われているのは「労働組合法上の労働者」に該当するかどうかであることも忘れてはならない。
 上述の新国立劇場事件においては、当該オペラ歌手について、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および賃金支払いの請求に関しては、いずれも棄却されている。

 「コンビニオーナーは労働者か否か」の問題は、コンビニチェーンだけに限らず、すべてのフランチャイズ契約に影響を与える話でもある。この記事では触れられなかった法整備の動き(“立法機関”の動向)も含め、今後も注視していくべきテーマと言える。


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新入社員の配属命令が「権利の濫用」にならないように

2019-07-03 18:29:06 | 労務情報

 新規学卒社員の配属先については、採用内定を出した時点では、未定であるか、あるいは、決めていたとしても本人には告げていないのが通例だ。そして、特に大企業にあっては、入社時には仮に「人事部付」などとしておき、一定の研修期間を経た後に(その間に適性を見て)正式な配属先を決める会社が多いようだ。

 ところで、基本的に、会社は、新入社員の配属先を決定する権限を有している。これについては、就業規則等に明文化されていれば間違いないが、仮に記載が無かったとしても、「人事権」は、「経営権」の一環として一般的に認められているところだ。
 とは言うものの、会社は、それが「権利の濫用」として無効とならないよう、注意を払う必要もある。

 最も気を付けたいのが、「内定の時点で配属先を告げていた」というケースだ。求人票に業務内容や就業場所を書いている場合は元より、面接中にこれらを期待させる発言があった場合などは、職種限定または勤務地限定の労働契約が成立したと見られ、本人の同意なくそれと異なる配属を命じることはできない可能性もある。
 過去の裁判例では、採用面接時に本人が申し出た勤務地限定の希望を当時の採用担当者が承諾していたことをもって配転命令が無効とされたケース(大阪地判H9.3.24)等がある。

 また、その配属命令を受けた新入社員にとって甘受できないほどの大きな不利益がないかどうかも考慮に入れておかなければならない。
 ことに、子どもの養育と家族の介護に関しては、育児介護休業法第26条により配慮が義務づけられているので、注意したい。「新入社員だからこれらには関係ないだろう」との先入観を持つことは危険だ。

 無論、人選に妥当性が無い場合もしくは不当な動機や目的が有る場合(労働組合活動をしたことや公益通報を行ったこと等を理由とするもの)は論外だ。

 いずれにしても、配属命令は、「適材適所」もしくは「適正なキャリアパス」の観点から合理的であるべきであり、加えて、訴訟対策としては、その根拠が明確に示せるような資料(例えば、「面接や研修における成績表」や「ジョブローテーションモデル」等)を用意しておくべきと言える。


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