ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

研修費用を返還させる旨の契約は違法か

2017-11-23 17:29:07 | 労務情報

 従業員の能力開発のために各種の研修メニューを用意している会社は多い。しかし、従業員の中には研修を受けるだけ受けたらすぐに転職してしまう者もいて、経営者の頭を悩ませている。

 そうした事態を防ぐため、「研修受講後一定期間内に退職する者には研修に掛かった費用を返還させる」旨を取り決めておく会社もあるが、これには法令上の問題は無いのだろうか。

 裁判例を見ると、美容室の従業員に美容指導を受けさせたケース(浦和地S61.5.30判)、会社の海外留学規程により留学先を選択し、帰国後に留学で習得した技能を生かした職務に従事させたケース(東京地H10.9.25判)等、その研修が社員教育の一環として行われたものは、使用者として当然なすべきものとして、要した費用の返還を求めることは違法と断じている。

 一方で、従業員からの申し入れにより技量資格検定試験受験のために実施した社内技能者訓練について、その費用を「立替金」と位置付け(大阪地S43.2.28判)、また、社内公募により海外留学させ、一定期間内に退職した場合には掛かった費用を返還させる旨を就業規則に定めてあったものを「返還債務免除特約付きの貸付金」として(東京地H9.5.26判)、いずれも労働契約とは区別して労働基準法第16条が禁じる「違約金」には該当しないとした裁判例も存在する。

 概して見れば、次のような要件に該当する場合は、労働基準法に違反しないと判断されているようだ。
  1.労働者本人が希望した研修であること
  2.費用を返済すべきことについて予め労働者が認識していたこと
  3.費用返済の取り決めが雇用関係の継続を不当に強要するものでないこと
 ただ、現実には、ケースバイケースで判断するしかないので、これを鵜呑みにされないよう。


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中途採用の内定取り消しは新卒のそれよりも重大

2017-11-13 09:59:29 | 労務情報

 今春、東京の旅行会社が経営破綻し、およそ50人の採用内定が取り消されたことが話題になった。内定取り消しの理由は、本件のような会社側の経営上の都合によるもの(業績の急激な悪化等)と本人の責任によるもの(「学校を卒業できなかった」など)の2つに分けられるが、トラブルになりやすいのは、俄然、前者の方だ。

 「採用内定」は、当事者間で「解約権を留保した労働契約」が成立したものと解される。
 したがって、「内定取り消し」は、その契約を会社側から一方的に終了させるという意味を持ち、「解雇」と同じ労働契約法第16条の適用を受ける。すなわち、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効」となるのだ。
 訴訟においては、(内定取り消しは解雇ではないものの)「整理解雇の四要素」と呼ばれる (1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)解雇手続の妥当性、の4項目を用いてその当否が判断されるので、そもそも内定を取り消す前に、これらを勘案したうえで、慎重に結論を出さなければならない。

 ところで、中途採用の内定取り消しは、新卒採用予定者の内定取り消しと比較して事の重大性が異なるので、特に注意と配慮を要する。
 というのも、中途採用では、通常、現在勤務している他社を退職してもらうことが前提となるからだ。前職を退職した挙句に内定を取り消すことになったら、その人が培ったキャリアを無にしてしまいかねないからだ。このことは、裁判所が中途採用での内定取り消しを無効と断じた事案において、その間の賃金を補償させる他に“慰謝料”も支払うよう命じた裁判例が複数ある(新卒採用における内定取り消し事案では見当たらない)ことが端的に示している。
 会社としては、経営が苦しいから内定を取り消すのだろうに、働いてもいない人の賃金やまして慰謝料まで支払うことになったら目も当てられない。

 会社としては、「内定取り消しは整理解雇の寸前でなければ発動できない」ぐらいに理解し、相応の金銭補償も含めた誠意ある説得から始めるべきだろう。
 これも、言ってみれば「解雇に準じた対処」ということになる。


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不採用者の応募書類は返却するべきか

2017-11-03 10:06:52 | 労務情報

 採用活動において、不採用とした応募者から、履歴書等の応募書類を返却するよう求められることがある。その場合、会社はこれに応じなければならないのだろうか。

 結論を先に言うと、法令上、返却する義務は負わないとされている。

 では、ここで、個人情報保護法の規定を整理しておくこととする。
 まず、「個人情報取扱事業者」の定義について、かつては「政令で定める者(事業の用に供する個人情報の数が過去6か月内いずれの日においても5千件以下の者)を除く」とされていたが、かっこ書き部分は、今年5月30日に改正施行された現行法では削除されている。そのため、今では、ほぼすべての事業者が個人情報事業者に該当すると言っても良いくらいだ。
 また、採用活動においては、当然、個人情報を取得することになること、そして、応募書類には個人情報(改正法で明確化された「要配慮個人情報」(従来「センシティブ情報」・「機微情報」とも称されてきた)を含む)が満載であることについては、異論を挟む余地は無いだろう。

 そう考えると、本人が請求してきた以上、会社は応募書類を返却しなければならないと思いがちだが、同法は、「内容が事実でないとき」には個人データの訂正や削除を、「必要な範囲を超えたり不正の手段により取得したものであったりしたとき」は個人データの利用停止や消去を、それぞれ請求することができる(改正法第29条・第30条)と定めているに過ぎないのだ。
 したがって、正しい個人情報を正当に取得し利用している限り、この求めに応じる義務は発生しない。

 しかし、そうは言うものの、利用する必要がなくなったときは個人データを遅滞なく消去するよう努めるべき(改正法第19条)と追記されたことに鑑み、また、データベースの不正提供(改正法第83条に罰則を新設)を疑われないためにも、少なくとも請求された場合には、応募書類は返却してしまうのが無難だろう。

 なお、書類返却に要する費用は本人の負担としても差し支えない。募集要項に「不採用の場合に応募書類の返却を希望するなら、切手を貼付した返送用封筒を同封すること」と記載しておくのも一策だ。ただ、そうした場合は、「個人情報に配慮している」との安心感を与えると同時に、「ケチな会社だ」とも思わせかねないので、その点は慎重に考えたい。


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