従業員が職場で暑さのため熱中症に罹った場合は、原則として、労働基準法施行規則別表第1の2(第35条関係)第2号8「暑熱な場所における業務による熱中症」に該当し、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」と略す)で補償される。
「原則として」というのは、例えば(極端かつ卑近な例になるが)、「休憩中に球技に興じていた」、「個人的な信念に基づいて意図的に水分補給を絶っていた」等を原因とする熱中症であったなら、「業務遂行性」または「業務起因性」が阻却されて補償の対象とならないからだ。
一方、仮に「会社(経営者)が冷房の使用を禁じていたために熱中症になった」というケースであっても、労災保険は適用される。 しかも、会社は労災保険の保険関係当事者とされるので、国から求償されることも無い(20200330基発0330第33号)。
つまり、会社は待期3日間の休業分(労災保険でカバーされない)さえ補償すれば、労働基準法による補償義務は果たしたことになる。
しかし、こうしたケースにおいて、労災保険を使えたからと言って、民事上の責任まで免れるわけではない。
熱中症になる蓋然性が高いことを承知していながら会社がその回避手段を講じなかったという「不法行為」として、あるいは、安全配慮義務(労働者が安全に仕事できるよう配慮すべき会社の義務=労働契約法第5条)を果たさなかったという「債務不履行」として、労災保険の補償を上回る部分の損害賠償を求める民事訴訟を提起される可能性があるのだ。
事務所衛生基準規則第5条第3項は「事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上“二十八度以下”及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない」(引用符は筆者による)と定めている。 これは罰則の無い努力義務規定ではあるものの、裁判における判断材料の一つにはなりうるし、まして経営者が故意(未必の故意を含む)に労働環境を害したと断じられれば、裁判所は、慰謝料に関する事項を含め会社にとって厳しい判断を下さざるを得ないだろう。
そもそも、会社としては、従業員には万全の体調で仕事に取り組んでもらうのが、事故防止の面からも生産効率の面からも望ましい。 会社へのロイヤリティまで考えれば、それらは、冷房に係る電気料金コストを上回る効果があるはずだ。
職場の空調設定(特に事務所において)に関しては、人によって「暑い」「寒い」と感覚が異なり、それを一種のハラスメントととらえる向きもあるが、少なくとも「暑熱な場所」(室温28℃を上回る)になることのないようにはしておかなければならないだろう。
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