「うつろ庵」の庭の片隅で明日葉を摘んでいた虚庵夫人が、書斎に駆けこんできた。
「素晴らしい物がみつかったのよ! 早くカメラに写して!」と、興奮冷めやらぬ態だ。
急かされるままに、あたふたと階段を駆け降りて、庭に降り立った。
広くもない「うつろ庵」の庭には、何が何所にあるか位は知り尽くしているので、彼女の興奮は、珍しい小鳥の来訪かもしれぬと、足音を忍ばせて彼女の後に従った。
彼女が指し示す先をたどったら、あっと眼を瞠った。
つつじの株と鉄格子に挟まれて、「瑠璃の玉」が房をなして輝いていた。「玉」の一粒はおよそ十ミリ程もあろうか、姿・形と言い、草木の世界ではごく稀な「瑠璃色」で、色合いも深みのある見事なものだ。虚庵居士のカメラの腕では、その色調を写し取れないのが誠に残念だ。
「うつろ庵」の主でありながら、斯くも見事な住み人の存在に気付かず来たことが、聊か申し訳ない思いだ。「龍の髭」もこれによく似た「玉」を付けるが、玉の数は精々五粒ほどであろうか。「うつろ庵」の住み人に敬意を払って、図鑑で調べたら「熨斗蘭・のしらん」だと知れた。
ひそやかに瑠璃の実をつけうつろ庵の
主も気付かず幾歳おわすや
わぎもこの耳に飾らむ瑠璃の玉を
豊かな胸には三粒の房をも
わぎもこのたかなるおもいはぎょくゆえか
よわいをこえてひくてのあつきは