緑の木の葉の間から、赤く熟した「烏瓜・からすうり」が覗いていた。
野生の蔓草で、これほど大きな実を付けるのは烏瓜を措いて他にはあるまい。しかも、住宅地をチョット離れた藪や林の端によく見かける、ごく身近な存在だ。
一つ二つの烏瓜を蔓を付けたままもぎ取って自宅に飾ると、野趣に富んだ風情が絶品だ。
「うつろ庵」には残念ながら茶室は無いが、茶席の「お飾り」にすれば数寄者は悦ぶだろう。
烏瓜は夏の日が暮れてから白い花を咲かせる。花弁の先から無数のごく細い糸をレースの様に広げ、10センチ程の神秘的な花になる。
一夜花ゆえ、翌朝には繊細なレースを閉じるので、殆どの皆さんが観賞するいとまも無いのが誠に残念だ。
「からす」を冠にした野草は、「烏瓜」をはじめ随分多いことに気付いて、指折り数えてみた。可憐な花を咲せる「からす豌豆」、空き地によく見かける「からす麦」或いは「からすの茶引き」、更に「からす胡麻」・「からす山椒」・「からすひしゃく・烏柄杓」・「からす葉千両」・「からす木蓮」など等、虚庵居士の乏しい知識だけでも8種にもなった。
なぜ「からす」が冠につくのか?
烏が好んで食べるから? 「烏瓜」を烏が好んで啄ばんだ痕跡など、見たこともない。小振りの瓜に似ているが、食用にならぬことから「からす」が付けられた可能性もありそうだ。「からす豌豆」に対して、「雀豌豆」はよく似た蔓草だが「からす豌豆」の方が大ぶりだ。「からす木蓮」と普通の木蓮はどうか? 「からす」が付く花は色が濃いようだ。「かさす麦」は何故か? 麦に似てはいるが食用にならぬ雑草だ。
どうやら「食用にはならぬ」、或は花が「若干大ぶりだ」、或は「色が濃い目だ」など、小鳥に比べて「大ぶりで不格好な野鳥」、「雑食性」など烏の負の部分を利用したのが、冠に「からす」を付けた古人の思いらしい。飽くまで虚庵居士の、お遊びの推論であることをお断りしておきたい。
見上げれば緑の木の葉の間より
赤く熟した「からすうり」見ゆ
吹き荒ぶ木枯らし一番? 烏瓜の
蔓葉を枯らすや赤き実吊るして
からす瓜を蔓ごと飾る「うつろ庵」に
お薄召しませ茶室にあらねど
昔より「からす」の冠 何故ならむ
指折りかぞえるあまたの草ぐさ
シービビと子供の遊ぶ蔓草を
想い出すかな からすの豌豆
赤き実の烏瓜みて様々に
想いをめぐらす虚庵のお遊び