腰の激痛と坐骨神経痛からやっと回復した虚庵居士は、毎朝の腰痛体操と散歩が日課になった。そんな虚庵居士を慰めて呉れる野の花に、感謝だ。散歩道の林の端で、「柚香菊・ユウガギク」が楚々と咲いていた。
華やかに咲き誇る山茶花などに比べれば、ごく質素な野花だ。草丈も高々50センチほどで、道行く人々は殆ど眼にも留めぬが、小さな花が寄り添って咲く姿が何とも
いじらしい。
花の名前の「柚香菊」は、柚子の香りがほんのりと漂うことから付けられたと云うが、虚庵じじの衰えた臭覚では、その微妙な香りを聞くことあたわず、誠に残念だ。
それにしても、野草の花に柚子の香りを聞き分けて、それを名前に残した感性には脱帽だ。その様な感性を研ぎ澄まして、香道や華道、或いは茶道などの世界にも類い稀な、高度な文化を創り上げて来た日本の古人には、深い敬意を奉げずには居れない。
散歩道の林の端に楚々と咲く
野花のなぐさめ 柚香菊かな
夕暮れの木影はそこまでかたむくも
しばし待たれよ野菊と語るに
柚子の香のほのかに漂う野の菊に
その名をとどめる床しき古人ぞ
柚子の香の薫るを聞かむと膝おるも
老いを知るかな聞くもあたわず
稚けなき小花寄り添い咲くさまに
わぎも共々 こころ寄せにし