焚火は県市の条例で厳しく制約されているので、お勧め出来ないが、万全の消火対策を整えての焚火は、心に安らぎを与えて呉れる。
「うつろ庵」では飛び石と鉄平石、更に小石を敷き詰めた庭に、植木等から十分な距離を確保して、バーベキューのコンロを置き、ささやかな焚火を愉しんでいる。
傍には水を満たしたバケツとジョロを置き、万が一の事態に備えているのは言うまでもない。
人類は火を手に入れ、火に親しんで歴史を重ねて来たが、文明が発展して調理も暖房もお風呂も、昨今はすっかり火を使わなくなった。
有史以前からの火の文明は、産業革命を契機に化石燃料の文明に引き継がれ、今や電気の文明を享受する時代になった。それと共に現代社会は、火の有難さと火の怖さを忘れさった。そんな流れに掉さすつもりはないが、虚庵居士の人生の終末期は、せめて自然に委ねた日々を送りたいと思うこの頃だ。
ゆらめく炎に様々な思いを重ね、瞑想をめぐらせ、陶然とするひと時は格別だ。
「棺桶ベンチ」に腰をおろし、グラスを片手に焚火に手をかざしつつ、夕暮れのひと時を過ごすのだが、棺桶ベンチでの想念の広がりは、計り知れないものがある。
焚火の中に、アルミホイルに包んださつま芋を放り込んでおけば、絶品の焼き芋が出来上がる。虚庵夫人の大好物だ。
枯れ枝を集めて焚火と語らひぬ
燃えたつ炎のゆらめく夕べに
人類は火を朋にして助けられ
文明築くも火を忘るとは
めらめらと燃え立つ炎は迸る
熱きこころを強く放ちぬ
燃え盛る焚火はせくかも問ひかけて
若き炎は応えを迫りぬ
湿る木は悩みを胸に抱くらし
煙を吐きて燃え燻ぶるは
人生の来しかた行く末あれやこれ
想ひを重ねつ焚火の炎に
残り火のちょろちょろ燃えるはこの先の
命の様の暗示ならむや
わぎもこと膝を並べて焼き芋を
頬張る夕べの焚火なるかな