ひと月ほど前から、「艶蕗・つわぶき」の鮮やかな花が咲いている。
「うつろ庵」にも数株が咲いているが、何時でも写せると油断している間に、半月ほども経ってしまった。彼女たちの一番美しい状態は写せなかったが、艶やかな葉も鮮やかな黄色の菊花も、依然として虚庵居士を愉しませてくれている。
「うつろ庵」の裏庭は、早朝の朝陽は差し込むが、日中から夕刻にかけては家屋の陰になって、気の毒にも陽射しが遮られる。そんな厳しさもものかわ、「裏庭の艶蕗」はふくよかに咲いた。花茎を東に傾けた姿勢からは、朝陽を精一杯受けようとの思ひが、切ないほどに偲ばれる。
ふくよかに咲きつるものかわ艶蕗は
陽ざしの少ない裏庭なれども
ひんがしに茎傾けて首伸ばす
姿はいとしも 朝陽を浴びむと
早春の「つわぶき」は、春の到来を告げる薫り高い食材としても、貴重品だ。
佃煮もいいが、たっぷりの煮汁と共に頂く仄かな香りと、若干苦みがかった味は、自然の恵みそのものだ。白ワイン、或いは日本酒によく合って、酒量が些か増えるのが辛い、いやいや、たっぷりと堪能させて貰う虚庵居士だ
東南の角に金木犀が鎮座する「うつろ庵」であるが、その木陰にも一叢の艶蕗が咲いている。生垣の珊瑚樹と金木犀に挟まれて、木漏れ日がスポットライトよろしく艶蕗の花を浮き立たせていた。この株の菊花は、珍しいことに通常の花弁と筒状の花弁とが入り混じった、誠に粋な艶蕗だ。花の印象も何処か、エキゾチックな雰囲気を漂わせて、虚庵夫妻を痺れさせるひと株なのだ。沢山咲いた中の、一茎だけを写した。
木漏れ日のスポットライトに輝きて
つわぶき眩しく咲きにけるかも
何故ならむ何処か異なる雰囲気は
ユニークなるかな 花弁のあしらひ
木枯らしにカサコソカララと枯葉舞ふに
温く咲くかな つわぶきの花は