「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「野菊の表情」

2012-11-06 00:34:42 | 和歌

 葉山の里山道を散歩していたら、林の陰に沢山の野菊が咲いていた。

 野菊の表情が清楚で少し淋しげに見えたが、秋の陽ざしが遮られて日陰だったからだろうか。だが、それぞれが天真爛漫に咲いて、耳を澄ませば少女たちの賑やかな声が聞こえて来そうだ。

 後から調べて判ったが、野菊の名前は「柚香菊・ゆうがぎく」。
柚子の香りがすることから名前が付けられたそうだが、それと知っていれば花の香りを堪能してくるのだった。花の近くで香りを嗅いでも、柚子の香はごく微かのようだ。花びらを擦り潰すと香ると説明があったが、そこまでやるのは虚庵居士の流儀には馴染まない。在るがままの姿で、仄かな香りを愉しみたいものだ。

 

 しばらく歩いていたら、「野紺菊」に出合った。

 陽ざしを一杯に浴びて、花びらを後ろに反らして逞しく咲いていた。そんな野紺菊の花蜜を求めて、「一文字セセリ」が忙しく次から次へと蜜を吸い続けていた。
蕊を前に突き出した野紺菊の表情は、「花蜜は美味しいわよ、早く吸って、吸って!」と訴えているかの様に見えた。少女が目を瞑り、清純なキッスを求めて唇を突き出している姿にも見えるではないか。

 


            寄りそいて野菊の乙女ら語らふや

            賑やかな声 聞こえる心地す


            朝陽さすその時にこそ会いに来む

            かんばせ揃える笑みを見まほし


            柚子の香を野菊にきかば如何ならむ

            とりこになるやもそれ知りませば


            花蜜を吸って吸ってと野紺菊の

            花の姿は無邪気に訴え


            目を瞑り唇突出し清純な

            キッスを待つらし野の乙女らは


            訴える野菊の期待に応えてか

            一文字セセリ せわしく蜜吸う


            野の菊はそれぞれに咲きそれぞれに

            秋を彩り おのれを謳ひぬ