観音崎の渚で、素晴らしい美人に出会った。
彼女のすらりとした姿は、得も言われぬ気品に満ちていた。
首筋から背中にかけての曲線が誠に優雅で、躰を支える華奢な脚は、スリムそのものだ。 色白の顔にパッチリとした大きめの目が、たゆとふ波をそれとなく見続ける表情には、現世を超越した趣があった。
暮れ往かんとする秋の陽ざしの中で、さざ波が素足を洗い、彼女は心地よさそうに立ちつくしていた。磯に寄せる幽かなさざ波の音を聞いているのだろうか、遠くの波のきらめきに様々な思いを重ねているのであろうか。
彼女の姿には、詩情が漂っていた。
躰から滲み出す妙なる調べは、観ているだけで心安らぐ旋律になって、胸に響いてくるようだ。心に秘める豊かな思いが、自ずと音楽を奏でて、感性のある小鳥や野花に語りかけているに違いない。彼らのお仲間の一人として、彼女のこころの調べを受け止められたこの磯に、感謝したい。
渚の美人は、程なくして優雅に羽をひろげて水面を飛び立ち、夢のような舞いを見せつつ彼方へ消えていった。虚庵居士は何時までも、いつまでも「青鷺・あおさぎ」の姿を追い続けていた。
ふと見れば渚に佇む美人かな
あるがままなる姿気高し
何見るやたゆとふ波をそれとなく
見るらむ姿はうつつを超えにし
秋の陽の暮れゆかんとするにさざ波が
素足を洗えば心地よからむ
さざ波の寄せる幽かな音をきくや
遠くの波に重ねる思ひは
磯に立つ姿をみればほのかにも
心に伝わる調べをきくかも
磯の花 波打ち際に遊ぶ鳥と
奏でる調べを共に聞くとは
渚から優雅に舞い立つ乙女かな
青鷺消えゆくあとを追うかも