「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

国・自治体・事業者の「三すくみ」を憂う

2009-08-09 22:19:38 | 和歌

 原子力OBの活動「シニアと学生の対話会」について触れた序に、原子力eye誌に掲載した拙稿を供覧にふしたい。コメント書き込み或はメールにて、皆様の忌憚なきご批判を仰ぎたい。


 原子力ざっくばらん: 国・自治体・事業者の「三すくみ」を憂う


 洞爺湖サミットを振返る: 

 地球温暖化とエネルギー需要の爆発的な増大は世界的な課題として、洞爺湖サミットの主要議題で
あった。 首脳宣言で、原子力は化石燃料依存を減し、温室効果ガス排出低減には不可欠の手段だと
明記し、わが国提案の原子力エネルギー基盤整備に関する国際イニシアティブ開始の合意は、高く評価される。

 世界の観る日本:

 期待を担う原子力ではあるが、議長国・日本の運転実績は奈落の底に喘ぎ、真の実力を示せなかったことは誠に残念だ。わが国では、「原子力立国計画」が宣言されて久しい。 立派な原子力政策を掲げているが、G8諸国に「実態の伴わない空念仏」と見られていなかったであろうか?
 「原子力発電所の計画外停止率」を見よう。 原発の信頼性指標だが、我国は諸外国の1/5~1/8、
フランスの1/15で、世界の注目を集めている。翻って「設備利用率」はどうか。どの程度効率よく原発を働かせているかの指標だが、わが国は先進諸国の中で最悪だ。原因は明白だ。長期に亘って原発を停止し、稼働させないからだ。
 「世界に技術力を誇る日本が、何故運転を継続しないのか?」と彼等は蔑視する。「安全を損なわない軽微な故障でも安易に原発を停止し、修理後も何故、直ちに再起動しないのか?」と訝る。原発の故障停止に係わる日米のデータ分析によれば、停止・起動操作、補修工事等の日数に有意差はないが、国・自治体向け説明に米国の数倍の日数を費やしている。彼等は規制当局の検査と運転再開の了解を得て、直ちに戦列に復帰させるが、わが国では規制権限の無い自治体が、住民の安全を盾に首を縦に振らない限り、原発は再起動できない。先進諸国から蔑視されているわが国「設備利用率」低迷の一因が、
実はここにもある。「住民を代表し、その安全を守る」と自治体首長は強調するが、原発の運転管理の規制権限を超えて隠然とした力を示すのは、法治国家では奇怪だ。

 規制と住民の安心:

 国の規制とは「国民の安全を守り、公益目的であるエネルギーの安定供給を確保するための法制度」だが、原発「維持基準」の例を見よう。国が技術の学識経験者を動員して基準制定をして5年を経たが、さる県議会では、その受入を巡って数か月前まで審議していた。法的矛盾も気になるが、最も肝心な「住民の安心」は、県議会の審議で担保出来ものでもあるまい。
 米国の原発駐在の検査官は、検査結果を毎日Webで公表し、そのオープンな姿勢から、結果的に住民は安心を得ている。米国の設備利用率は最悪状態から、世界のトップクラスに蘇り、忌み嫌われた迷惑施設(NIMBY)が今や、PIMBY(Please in my backyard)に脱皮し、地域住民は原発を誇りにしていることを付け加えたい。

 トップの姿勢と発言:

 原発の運転管理、殊に「設備利用率」の改善は事業者の経営課題ではあるが、公益性と住民の安心を鑑みれば、国家的な視点と国民の目線が肝要だ。国・自治体・事業者の、「本音の意見交換」が強く求められる所以だ。中越沖地震発生時の深夜に、行政の長が事業者のトップを呼びつけ、記者達の前で叱正しても、国民の安心は得られまい。緊急時こそ、国は安全に関する明確なメッセージを、速やかに発信すべきだ。事業者のトップが自治体首長に頭を下げても、住民は納得出来ない。事業者は国民の安心を「ないがしろ」にして自治体に「おもね」、行政は「大衆向け人気取り」をしているとしか国民の目には映らない。
 中越沖地震への設備補強が整い、再立上げの準備が整いつつある今こそ、国・自治体の幹部は、率先して原発に足を運び、事業者の幹部は自ら案内し、歯に衣を着せぬ本音の対話を強く望みたい。
それぞれのトップが、己の目で確かめた結果を生の言葉で、メディアを通じて発言して貰いたい。
それこそが、何物にも代え難い国民の安心に繋がる筈だ。
 「設備利用率」の改善は事業者の経営課題を超越して、立地自治体にとっては税収の要でもあり、「住民の安心に繋がる特効薬」でもあることを、あえて付記したい。