近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

坂口安吾「風博士」

2012-11-20 22:59:36 | Weblog
11月19日の例会は坂口安吾「風博士」についての研究発表でした。
発表者は3年根本さん、2年今井さん、司会は1年松尾が務めさせていただきました。
今回の発表の副題は、主観的な〈僕〉による語り、です。

今回の発表では、
①信頼できない「僕」の語り
②「僕」の解釈とそこからずれるもの
という2点から分析がなされました。
①のまとめでは、「諸君」に対して「僕」が〈風博士が蛸博士のせいで自殺した〉ことを証明するために「風博士の遺書」を一読させるという方向で話が進むとしています。
また「僕」は〈風博士が蛸博士のせいで自殺した〉ことを「真理」として捉えていることが論じられました。
②のまとめでは、「僕」は恩師である風博士の紛失を目撃したあと風博士の文章を「風博士の遺書」として解釈し、
強く心を動かされ〈風博士が蛸博士のせいで自殺した〉と思い込んでしまった、ということが論じられました。
最終的な結論としては、全てが「僕」の思い込みによる空回りであるが「僕」はあくまで「真理」を信じ、それを演説のように懸命に訴えている、としています。

質問や意見では、
・「風博士の遺書」はどのタイミングで開示されるべきだったのか、またなぜ書かれたのか
・語り口調が似ていることの意味
・「僕」の語る内容と遺書の内容のズレ
・この構造を取ったことの意味や問題点、また創作意識について
など色々な質問、意見をいただきました。
岡崎先生からは、「僕」の語りだけではなく遺書の内容にも信憑性がないこと、遺書の最後の部分は風博士個人の敗北と言えるか、「僕」や風博士の語ることの面白さ、作品が書かれた背景にある近代社会の窮屈さ、などの意見をいただきました。

1年 松尾