東アジア歴史文化研究会

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『暴走老人、南へ』全アジアを回ってみた(連載第21回)東チモールは島国国家なれど、地政学的要衝(その1)

2023-12-02 | アジア旅行記

▲東チモールはジャイカの支援でインフラ整備中、隙間に中国が大々的に進出

世界が存在を忘れかけた小さな島嶼国家がある。

東チモールはアセアンに加盟申請したが、正式には認められずオブザーバーである。2022年11月の首脳会議で、東チモールのASEAN加盟は原則承認されたものの正式加盟までオブザーバーとしての地位が同国に与えられる。そのうえ正式加盟に向け、ASEAN調整委員会(ACC)にロードマップの作成が指示されている。

チモール島は、東西に別れ、二つの国家が併存している。

島がふたつに分断されているのはキプロスとボルネオ、パプア・ニューギニアの例もある。西のチモールは、オランダの植民地だった。それゆえ西チモールはインドネシア領のままだ。東チモールはポルトガル領から一度はインドネシアに帰属し、2002年に正式に独立して「東チモール共和国」(ポルトガル語では「チモール東部」)となる。

政情不安、政治対立が続行しているため、都心でも放火されたビルがそのまま残骸を晒しいまも国連軍が治安維持を担っている。

中国は国際法的にも歴史的にもまるで根拠のない「九段線」を突如主張し始め、南シナ海を手中にし、つぎに「第二列島線」に照準を合わせて、フィリピンのスカボロー礁からパラオを視野に入れて、さらに南太平洋の島々の海洋戦力上の拠点に進出を決める。

ポルトガルが放棄した東チモールは、あまりにも遠く、列強はしばし関心を抱かなかった。西側が支援した東チモールの独立に対して、インドネシアはつむじを曲げた。

インドネシアは西チモールに多くの避難民を受け入れ、以後、インドネシア空軍は米国製ジェット戦闘機の追加購入をやめてロシア製ミグに主力戦闘機と交替させるそぶりを見せたほど反米色むきだしだった。

国際社会から置いてきぼりだった東チモールは人口113万人。現地を取材すると、案の定、この国は中国の経済植民地になりかけていた。

東チモールの南海域に原油とガスの海底油田が発見され、俄かに西側の関心が集まり、豪はバンウンデンン油田とダーウィンをつなぐパイプラインを建設した。

中国は同海域東側にあるグレートサンライズ海底ガス油田開発に照準を合わせた。東チモールの南海岸沿線に三ヶ所の拠点構築の青写真を提言し、そのプロジェクト総予算は160億ドル。まさに「釣り餌」であり、豪は、「借金の罠」と説得しているが、東チモール政府は聞く耳がない。

(目の前に大金がぶら下がって、目の色が変わった)

首都ディリの西10キロに位置するビアソ港の港湾開発工事は4億9000万ドルで中国企業が請け負い、工事は開始されている。コンテナのロゴはCNOOC(中国海洋石油)ばかりだ。この光景、じつはフィジー、バヌアツも同じである。

この国にぬっと入り込んで大統領府ビル、外務省と国防部のビルを建てて寄付したのが中国である。凄まじい進出である。

面積は飛び地も含めて関東四都県(東京、神奈川、千葉、埼玉)程度しかなく、通貨はなんと米ドル、公用語は現地語(テトゥン語)とポルトガル語。住民の99%がカソリックという異様な政体の国である。

旧宗主国・ポルトガル大使館は国会議事堂の横にあるが、いまや影響力はゼロに近い。海岸沿いの大使館街には米国、韓国に日本と中国が並び、存在感がある。東チモールに圧倒的影響力をもつのはインドネシアと豪である。

▲嘗て日本軍が拠点とし洞窟を掘った

そこで、東チモールの首都ディリへ飛んだ。

日本から直行便があるわけはなく、バリ島で乗換のため一泊。一日2便しかないディリ(東チモールの首都)へ。ロンボク海峡を越え、北にフローレス島を見ながら雲の中を下降し、もと日本軍の水陸両用飛行場跡を埋め立てた空港に着陸した。

機内は半分しか乗客が埋まっておらず、ジャカルタとディリ間の便は休眠中だ。おりしも乾期で、雨は降らずバリ島より猛暑、タラップから歩いて入国管理事務所へ。ここで入島税30ドルを支払う。つまりアライバルビザだ。

怖ろしいほどの田舎町。平屋建て、茅葺き、藁葺きの掘っ立て小屋が軒を連ね、道ばたの露店が商店街なのだ。肉屋は天日の屋台。行商人は天秤棒にバナナと落花生を売り歩く。

GDPは60億ドルしかなく、しかも八割が原油とガスの収入だから国民の70%は貧困のままである。

独立後も暴動が頻発したため本格的開発が進捗しない。道路は埃だらけ、塵だらけ。広告塔が殆どなく幹線道路だけが舗装されている。意外や、この国は左側通行である。

筆者にとって東チモールへの興味は、アジア諸国の中で唯一訪れたことがなかったからという単純な理由だった。

同行した高山正之氏と福島香織氏は、別の取材目的がある。もうひとりの参加者、鵜野幸一郎氏はコンピュータの専門家、だからこそ文明から遠く通信革命の乗り遅れた未開の国に逆に興味があるのだろう。

(この項、つづく)


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