第29回日本二分脊椎研究会が、6月30日(土)に千葉のホテルポートプラザちば2階ロイヤルⅡで開催されました。この日、私が指圧で排泄障害の改善に取り組んで来た二分脊椎症患者のうち、男女2例について藤原一枝先生(元都立墨東病院脳神経外科医長)が口演してくださったものです。男性は3回の治療で済み、うち2回は鈴木林三先生(日本指圧専門学校講師)の治療を受けました。女性は9ヵ月の治療で自力排便が可能になったものです。
二分脊椎症とはどういう病気か、厚生労働省班研究ウェブサイトから一部を抜粋してみます。
「二分脊椎は、生まれつき脊椎の癒合が完全に行われず一部開いたままの状態にあることをいいます。そのなかには、脳からの命令を伝える神経の束(脊髄)が、形成不全を起こし様々な神経の障害を生じる病気もあります。主に腰椎、仙椎に発生しますが、その部位から下の運動機能と知覚が麻痺したり、(略)さらに膀胱や直腸の機能にも大きく影響を及ぼすことがあります。(以下略)」
実際、二分脊椎症患者には排泄障害を伴う人が多いのです。
その方たちの排尿はカテーテルによる「導尿」という方法で、排便は「洗腸あるいは浣腸・摘便」などの方法を用いているようです。私がこれまで治療してきた患者さんは5人ですが、私の方針を是として治療を任せてもらったのは4人。4人はすでに自力排便ができるまでに改善しましたが、1人目は3年前に発表し、4人目は現在継続治療中のため、今回は第2・3番目の方にかかる発表でした。
口演してくださったのは藤原一枝先生。「指圧によって、浣腸や洗腸を脱した18歳の2例」と題したものです。
先生は指圧が有効で、効果は持続的と述べられ、もう浣腸や洗腸をしなくても良くなった報告をされました。小学校入学から洗腸を続けていた中学1年生の男児が、自力排便できるようになった例を2009年の発表で知った女性が、指圧を受けた例です。治療10回目で排便があり、便意を感じたり腹圧をかけることができるようになり、9ヵ月63回で指圧が終了した例を示されました。
続いて18歳の男性が私と鈴木先生の治療を併せて3回受けただけで、以後は自分で腹部指圧を行い解決した例を示されました。
先生が強調された点を簡単に紹介します。
「なぜ、指圧が効果を発揮したのでしょう? 洗腸の仕方にもあります。『洗腸の程度を次第にやわらげ、便塊を少し残していた事が良かった』と考えます。まず、腸の運動の基になる便塊があること、次に、腸内細菌や腸粘膜の役割を温存している事が、人体の自然な働きを高めたというのです」
「ここで強調したいのは、二分脊椎症で便秘するのは先天的な障害ではないという事です」
「二分脊椎の患者さんにも腸の自動能はまちがいなくあるので、排便管理には幼児の時からの習慣が大切です。毎日の指圧は有効で、手間も時間もかかりません。自分の腸を働かせるのは生理的にも免疫的にも意味があります。難治の便秘をプロの指圧師の力で解消し、その効果が持続している3例を供覧しました」
「指圧師の話では、二分脊椎症の頑固な便秘の方の腹部は、抵抗感のないおなかで、のれんに腕押しと申しましょうか最初は五里霧中、まるで正体不明な手触りだそうです。洗腸量を減らしながら取り組んでいると、しだいに腸に触る感じが出てくるそうです」
そのあと、腹部指圧の圧(お)し方を動画にまとめたものをスクリーンに映して、藤原先生は発表を終了されました。
この日、日本指圧専門学校校長の石塚寛先生(徳島大学名誉教授、解剖学)をはじめ、弊治療院のスタッフ、基本指圧研究会会員など指圧関係者も大勢参加。改めて基本指圧の効能を眼前にする思いでありました。
(以下、「第29回日本二分脊椎研究会」プログラム・抄録集から当該抄録を掲載します。)
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指圧により、洗腸や浣腸を脱した18歳の2例
村岡曜子 1) 鈴木林三 2) ○藤原一枝 3) 山城雄一郎 4)
1) 基本指圧研究会 村岡曜子治療院 指圧師
2) 日本指圧専門学校 講師、江戸川橋指圧センター 指圧師
3) 東京都立墨東病院 脳神経外科
4) 順天堂大学大学院プロバイオティクス講座
[目的] 二分脊椎患者における膀胱直腸障害への対処の選択肢も多くなってきたが,行動範囲が広くなる成人に向けて、危機感を感じる当事者は少なくない。浣腸や洗腸に頼っていた18歳の男女が、指圧によって便秘症を脱し、その効果が持続しているので提示したい。
[対象] 開放性二分脊椎で脳室腹腔シャント術も行っている18歳の男女の2名。排便のコントロールを目指し、指圧を2009~10年に開始した。きっかけは、第26回の当研究会(2009年)で発表された「洗腸6年のあと,排便の自立を得た一例」の中学生男児に使われた指圧の効果に着目してであった。当人達は積極的に指圧に取り組み、便性の記録にも協力した。
[方法] 指圧師による基本指圧を施術した。浣腸に依存していた男性の場合は3回、洗腸に依存していた女性の場合は9ヵ月間に63回施術した。洗腸からの移行期には、便塊を全部出さず、少し残しておくことを心がけた。
[結果] 浣腸を併用していた男性は指圧法を3回で習得し、その後自力排便である。腹部XPでは正常に結腸膨起を示す。女性は尿失禁予防に抗コリン剤を使用し出してから更に便秘が高じ、洗腸(平均 700cc/日)と便秘薬に頼り、続発する下痢便と便漏れに悩んでいた。指圧10回が過ぎた時点で洗腸を脱した。腹圧をかける訓練を経て、便意も感じるようになった。摘便と自力での硬便排出を経て、指圧41回目のあと(指圧開始から5ヵ月後)には長形便が出た。指圧53回目の後は摘便も不要になった。指圧を始めてから生理毎の尿路感染がなくなっていた。指圧施術後1年半になるが、両者とも排便は自立状態である。
[考察・結論] 副交感神経の働きを高める指圧は、「便秘に陥らないこと」と「難治の便秘を絶つこと」の二点に有効である。更に今回の試みは腸内細菌叢の改善にも関与し、免疫能も高めている可能性がある。自覚な取り組み、腹部状況の変化・腹圧のかけ方の習得が大切である。