今回は「説得力」について考えてみたいと思います。
東北関東大震災の福島原発事故の状況が日々刻々と新たな問題を引き起こすため、その記者会見が日本国民だけでなく世界が注目している重要な情報発信の場となっています。
これには3つの記者会見が毎日のようにおこなわれ、1つは政府のステートメントとしての枝野官房長官の記者会見、2つ目は原子力安全保安院の浅黒い顔の広報担当者(かつらのおじさんです)の会見、そして3つ目は東京電力の記者会見です。
この3つの会見を「説得力」という視点から見れば、東京電力の記者会見は最も説得力に欠けることは衆目の一致するところだと思います。
東京電力サイドの発表者は、専門用語をボソボソとしゃべるため何を言っているのかわからない上に、自信がないことを隠すためか冷静さを装おうとしているものの、それが返って裏目に出て不機嫌そうな顔になっているのが逆効果となっています。
そして他の2つの会見は常時一人での会見に対し、東京電力の会見は集団でおこなっており、それが大きなマイナスとなっているのです。
私は広告代理店に勤務していましたが、ある時期、競合プレゼンテーションでライバルのH広告代理店にことごとく負けてしまうことがありました。
競合プレゼンテーションとは、大手クライアントの取り扱い・それも何十億円規模の取り扱いをめぐっての複数の広告代理店との企画内容での激しい戦いのことです。
その勝敗は社の業績を大きく左右するほど重要であるため、チームは一丸となって能力のあらん限りをしぼり出し企画を練りあげるのです。
さてプレゼンテーション当日は、すべてのスタッフが出席し、基本戦略・マーケティング分析・広告戦略・広告表現内容・販促企画・・・と専門分野のメンバーが次々替わって発表するのですが、その複数人での発言形式が当時のプレゼンテーションの常識でした。
しかしそんな中で次々とH代理店に敗北してしまったのです。
その原因を探ったところ、その答えは企画内容の優劣ではなく、スタッフは出席するものの、スピーカーは最初から最後まで1人だけであることでした。
それは企画全体に一貫性が出るだけでなく、限られた時間といっても1時間以上もの間手八丁口八丁の独演会により、企画内容だけでなくその人の人的魅力までもアピールし、それが勝利の決め手となったのです。
つまり「企画内容はさておき、あの人に任せたら大丈夫かも・・・」という気持にさせてしまったのです。
今回の記者会見を通して枝野官房長官の頭脳レベルの高さ、見識の深さに驚嘆しました。
かつてないほど厳しい状況の中での記者会見、そして記者の意地悪な質問に対してもまったく失言や回答ミスがなく、実に的確に答えており、しっかり自己の主張も述べているのにはびっくりしました。
何回もの記者会見を通して「枝野さんが言うのだから間違いがない!」と思うようになってきたのは、私だけではないようで、そのように丸め込まれたのがまさに「説得力」という力そのものといえます。
「説得力」は話の内容よりも、
話す人の人間性のアピールこそが決め手となるのです。