とはいえこれまでの私の体験からすれば、すんなり作り上げたものと、悩み続けて息も絶え絶え作りあげたものとは、結果から見れば後者のほうが明らかにいい仕事になるのを知っているため、この苦しみこそ次へのステップの礎になると信じて挑み続けています。
この一連の仕事を通じて大きな副産物もありました
それは出版のテーマでもあるこの地=湘南が大好きになってしまったことです。
湘南に住んで30年以上たつにもかかわらず、これまで自分の住む地域なぞ無関心だったこともあり、湘南の風景など描いたこともありませんでした。
ほんの思いつきでたまには地元も描こうと思い立ち、昨年わがHP「湘南100描」を発表してから今回の出版の仕事まで、毎日毎日湘南の魅力を探し出し、描いているうちに、深く湘南を愛する自分に気づきました。
絵の対象となる風景には(直感的といいますか感覚的に判断するのですが)私なりの決め事があり、その風景に出会うと強く絵を描きたい衝動に駆られます。
それは「自然」が基本なのですが、それに加え「人間の営み」の両者が調和するとき、強く絵心をくすぐるのです。
たとえば、都会のような人工物だけの世界は描く気にもなりません。その反対に全く人間の手の入らない手つかずの「自然」はとても描きづらいのです。
具体的には「自然」が主体で「人間の営み」が従なのは里山などの風景であり、数多く描きました。
「人間の営み」が主で「自然」が従の風景は「湘南の風景」の中に(他の地域よりはるかに)たくさんあることを発見してから、湘南の魅力を改めて見直しました。
湘南は実に見事に二者が調和しているのです。
湘南は都心に近いにもかかわらず、山と海の豊かな自然に囲まれています。
そして「人間の営み」=湘南に住む人たちの文化意識は高く、自然を上手に取り入れ、自然と共存しながら生活をエンジョイすることに長けているようです。
そんな湘南の光と風を次の出版の重要な柱として、その魅力を描き出そうと思っています。
私の故郷は遠い北陸の地なのですが、この地・湘南ももしかして北陸以上の私の故郷になったかもしれません。
北陸の故郷は生まれながらに存在していた故郷ですが、湘南の故郷は発見し育て上げた故郷なので、よけい思い入れが強いような気がします。