トレース水彩画は写真をトレースして描く画法ですが、大きく2つの行程からなっています。
ひとつは、写真を撮り・選ぶ行程(A)で、何を描くかを決める行程でもあります。
もうひとつは、その写真をトレースし・彩色する、絵を描く行程(B)です。
それでは、行程(A)と(B)、どちらが重要でしょう?
もちろんどちらも重要ですが、レベルにより違いがあり、初心者の方は行程(B)こそ優先事項ですが、上級者になるほど行程(A)の方に重心が移行し、現在の私にとって圧倒的に行程(A)の写真こそが絵のクオリティの決め手だと思っています。
その大前提として、私は写真を素に描くものの、写真を越えた世界を表現しなければならないと思っているからで、「どう描くか?」より「何を描くか?」のほうが、はるかに難しいのです。
そのため絵の素となる写真がつまらないと、写真を大きく越えた絵を描く必要が出てくるため、いろいろなテクニックを駆使する必要が生じ、失敗の道をたどるケースが多いのです。
逆に、魅力的な写真を素に描けば、素となる写真が素晴らしいのですから、写真の持つ魅力に上乗せして、(精神的ゆとりからか)写真を越えた魅力をも引き出すことが容易になるのです。
魅力的な写真を撮るには、何といってもより多くの情景と出会うこと。
その情景は季節により、天候により、時刻により変化します。その最高の情景を見逃さず写真に収めることがポイントです。
私の趣味は散歩です。一日のかなりの時間を散歩に費やします。
小型のデジタルカメラをポケットに入れ、「!」と感じたらすかさず写真に収めることにしています。カメラテクニックにこだわらず、フルオートでチャンスを決して見逃がさないことがポイントです。
犬も歩けば棒にあたると言うように、数多くの写真を撮れば、その中に光る写真が見つかるはずです。
出版「水彩画革命―トレース水彩画で描く湘南・鎌倉の12ヶ月」は好評のようです。
この中で116枚の湘南・鎌倉の絵が掲載されています。
上の瓦屋根の絵の風景は、掲載された私の好きな一枚ですが、この風景はよく散歩で通る場所にあるのですが、あまりにも当たり前の風景なので、ず~っと見逃していました。
ある日の散歩のとき、「この風景は平凡だけど、もしかして面白いかも・・・」と写した一枚から描いたのですが、絵にすると写真にはない私の心象風景が表現できたように思え、不思議な感動を覚えました。
魅力的な写真から描く絵は、自分自身の内面をも表現できるかもしれません。