NHKの番組「日本縦断・こころ旅」は心に染み入るすばらしい番組です。(「日本縦断・こころ旅」NHK BSプレミアム 月~金 よる19:00~19:29)
その上この番組の主旨は、私の目指す風景画・特にHPで展開する最新企画「写実の、その先。」のコンセプトと深く重なっており、2つの共通する部分を解き明かすことにより、風景画の魅力をご理解いただけるものと思います。
番組内容は、俳優・火野正平さんが、視聴者の方からのお手紙での日本の忘れられない風景を、自転車に乗って訪れる企画です。
その風景は有名な観光地やすばらしい絶景となどではなく、むしろ日本のどこにでもありそうな風景、・・・具体的には田んぼ道から見る風景であったり、橋の上から見る風景であったり、廃校の草むらの風景であったり、そんなごく当たり前の風景なのです。
しかし手紙では、その風景は人生を変えた風景であったり、夢と希望を育んだ風景であったり、ずっとそのまま残したい故郷の風景であったりと、人生そのものが込められているのです。
まさにその風景の中で、手紙を火野さんの独特の低音で読み進めるうちに、その風景は実に美しくそしていとおしく再現されるのです。
まさに心に染みる風景とはこのことを言うのでしょう。
風景は不思議な力を持っています。
風景を器とすれば、その器の中に「こころ=思い入れ」を入れるか否かで、その風景の魅力がまったく違ってくる、そんな不思議な力を持っているのです。
風景画、特に企画「写実の、その先。」の真髄はそこにあります。
画家の思い入れを絵の中に込められるか否かが、風景の魅力を決定づけてしまうのです。
上の絵は美濃街道沿いの古い旅籠を描いたものです。
私はかねてから日本各地を一人旅したい、それもホテルなどではなく絵に描いたような古い旅籠に泊まり、日本の映り行く景色を堪能したいと思っていました。
その思いを注入し、旅した気分で描いたのが「街道沿いの古い旅籠」の絵です。
この「日本縦断・こころ旅」の番組のもうひとつの魅力は、主役である旅人の俳優・火野正平さんそのものにあります。
彼は62歳でわれらの中高年世代ですが、特別カッコイイわけでもなく、抜きんでる能力を持っているわけでもないのに、人を引きつける魅力を感じるのはどうしてでしょう。
それは驚くほどの「素直さ」と「軽さ」にあるのではいかと私は思っています。
その性格は番組だから演出されたものではなく、彼の生き方そのものであり、彼の強い信念であるような気がします。
私もとても火野さんのようにはいかないものの、これまでの重い衣を脱ぎ捨てて、「素直」にそして「軽く」人生後半を生きようと思っています。